HD207496b ― 大気がはぎ取られスーパーアースに変化しつつある惑星

NASAの系外惑星観測衛星TESSのデータから年齢約5億年という比較的若い恒星HD207496の周りに地球の約2倍のサイズの惑星HD207496bを発見したという研究が公表されました。

この研究はポルトガルのポルト大学のBarros氏を筆頭とする国際研究チームによって行われ、2023年3月7日にarXivにプレプリントとして投稿され、2023年3月8日に公開されました。

[2303.03775] The young mini-Neptune HD 207496b that is either a naked core or on the verge of becoming one (arxiv.org)

主恒星HD207496の諸元は以下の通りです


HD207496は太陽より少し小さいK型主系列星で、広義の太陽型星に含まれます。太陽との最大の違いは年齢が5.2±2.6億年とかなり若いことです。なお太陽系からの距離は76光年で、見かけの明るさは8等級です。

発見された惑星の諸元は下記のとおりです。この惑星は軌道半径0.0629天文単位(1天文単位=地球太陽間の距離)という主星に近接した軌道を6.4日の周期で公転しています。サイズは地球の2.3倍、質量は約6倍あり、平均密度は1立方メートル当たり3170kgという、地球(=5520kg/立方メートル)の6割ほどの値です。密度が低いことから、HD207496bが純粋な地球型惑星(=岩石惑星)である可能性は無く、岩石質のコアの周りを厚いガス(水素・ヘリウム)の層が取り巻いているか、岩石のコアの周りを氷のマントルやガス層が取り囲んでいる構造になっていると考えられています。また、恒星ともども誕生してから5億年しかたっていないとみられることも大きな特徴です。

この惑星はその温度・質量・半径・密度や惑星系の年齢の若さから、惑星がガス層を喪失する過程が進行途中にあるとみられ、また、主星が比較的明るく観測に有利であることから、今後惑星の大気の流出メカニズムについて研究する上で重要な観測ターゲットとなることが期待されています。

半径の隙間の謎を解く鍵

TESSの前任機であり2009年に打ち上げられたケプラー宇宙望遠鏡は今回発見されたHD207496bと同様の地球と海王星の中間サイズの惑星を数多く発見しました。

地球の1-4倍のサイズの惑星のサイズ分布は1.3地球半径付近のピーク(狭義のスーパーアースに対応)と2.6地球半径付近のピーク(狭義のミニネプチューンに対応)に二極化する傾向があり、その中間の1.5から2.0地球半径の範囲は惑星の存在頻度が少ない「半径の隙間 (radius gap)」となっています。このようなサイズ分布は、サブネプチューンが大気を失って急速にスーパーアースに変化するというモデルで説明づけられます。

  • (狭義の)スーパーアースは地球型惑星に似た岩石質の惑星、

  • (狭義の)ミニネプチューンは岩石質のコアの周囲を氷のマントルや水素・ヘリウムのガス層が取り囲んだ惑星

という見方が有力になっています。氷またガス層の流出を引き起こすメカニズムとしては、

  • 光蒸発 (photoevaporation : 主恒星のX線や紫外線が惑星の上層大気を加熱し散逸させる

  • コア駆動質量喪失 (core-powered mass loss): 誕生の際に微惑星の衝突で高温となった惑星本体の『余熱』がガス層を膨張させて散逸させる

といった2つの説が特に有力ですが、どのメカニズムがどれほど寄与しているかなどの詳細はまだ解明されていません。

光蒸発にしてもコア駆動質量喪失にしても理論的には最初の10億年のうちに惑星のガス層の急激な喪失が発生すると予測されており、そのような若い惑星系の発見例が少ないことが惑星の大気散逸に関する研究を進める上での足かせとなっていました。

年齢5億年のHD207496bはそのようなプロセスの最中にあるものと考えられています。それに加えて、にHD207496系のトランジットが観測可能かつ主星の見かけの等級が明るいという条件は惑星大気の観測に有利な要素が揃っていることから、今後惑星の大気の流出メカニズムについて研究する上で重要な観測ターゲットとなることが期待されています。


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