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kyoto oyatsu pan

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京都のおやつやパン
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#フードエッセイ

すみれの花の砂糖づけ(烏丸五条「MASH kyoto」の花のいろは)

すみれの花の砂糖づけをたべると私はたちまち少女にもどるだれのものでもなかったあたし― 江國香織『すみれの花の砂糖づけ』「だれのものでもなかったあたし」 江國香織さんの「すみれの花の砂糖づけ」を読んでから、私の中ですみれの花は少女を表すアイコンになった。 そんなすみれの花のパンがある。 MASH kyotoの「花のいろは」。文庫本に挟まれた押し花のごとく、白くてまるいパンにすみれの花が押されている。 うすむらさきのあんこが入っていて、中までかわいらしい。もちろん美味

一つより二つ、二つより三つ(烏丸五条「今西軒」のおはぎ)

誰かと一緒じゃないと楽しくない、とは思わない。 一人のほうがかえって気が楽だ、と思うことが多い。 でも一人より、二人のほうが楽しい、と思うことだってある。 --- 地下鉄五条の南西出口をあがって歩くとすぐに着いた。 あんこ好きにはおなじみの今西軒。 前に訪れた時はお昼の2時過ぎでおはぎは完売しており、絵馬のような店札がフラフラ揺れていて哀愁を誘ったのでした。 今日はつぶあんが5つ、きなこが3つ、こしあんが1つ残っていました。 「三種類とも全然味が違うからね」 店

祇園祭がはじまる(清水道「浪川菓舗」の祇園祭)

初めて京都に来た頃。あの頃は急に世界が広がって、なんでも見えていると思っていた。でも全然違った。同じ場所を通り、同じものを見て、いろんなことを見過ごしていた。今もそうなんだと思う。 7月1日。 四条通りをゆく市バス207。その車窓越しにアーケードをサクサク歩いていく欧米人はカメを追い越すウサギのごとし。やっと見えてきた八坂さんの西楼門の左右には「祇園祭」の真っ赤なのぼりがあがっていた。 祇園祭が始まるのはこの日から、ということを知ったのは、いつだっただろう。 207は

手のひらを泳ぐ金魚(京都市役所前「松彌」の金魚)

銭幸を出て夷川通を東へ向かう。夷川通には家具屋さんが並んでいて、そのあいだに古い大衆食堂、おしゃれなカフェがぽつりぽつりと点在している。 店先にアジサイを置いたお店が目立ちます。 角に咲く大きなアジサイ。街中にこんなにアジサイがあったんだと、六月になって初めて気づく。 松彌さん。マンションの一階に入っていました。けれどもちゃんと鍾馗さんがいる。……と思いきや大黒さんとえびすさんでした。 お店に入って気になったのが、この画。 奥からお母さんが出てきたので尋ねてみると、