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叱咤激励のゲキを飛ばす ~2021年箱根駅伝を観て~

今年も箱根駅伝が行われました。コロナ禍で開催が危ぶまれたらしいですが、無事にできて観る方としては良かったかなと思います。主催者側からは沿道での観戦・応援は控えるようにというお願いが出ていたようですが、テレビ中継で観る限りではそこそこ人が出ていましたね。まあ、それぞれの自己判断なのでそれに対してアレコレ言うつもりはないですが、そこでウイルス貰ってきて困ったことになる人が出てこないことを祈ります。

それで、今日見ていて改めて感じたことが一つあります。各チームの監督が伴走していて、選手に対して叱咤激励のゲキを飛ばしています。特に優勝した駒大の大八木監督は厳しい口調で有名です。今回も色々と名言が飛び出しましたが、選手に「カメラに引っ付いて行け」とゲキを飛ばしながら、カメラ車に「危ないから前に言って!」とクレームを飛ばす。もうめちゃくちゃですが(笑)、それが許されるのが大八木監督なのでしょう。

で、気になったのが、このゲキに感嘆して真似しちゃう人が出てこないかなと言うこと。これ、通常の会社や学校でやったら普通にパワハラです。大八木監督が「選手のため」にやっているのと同じく「俺も部下のために言っているんだ」と思ってやっていたとしても普通にパワハラです。というのも、駒大の選手は大八木監督がこう言う人だということを承知の上で入ってきている。むしろ走っている時にそれを聞きたいとか、ダメになってもゲキがあればまだ走れる、って言っている選手もいるくらい。

半ばマインドコントロールされてしまっている気もしますが、自分の力を引き出す術として使っているのかなと思います。そしてそのゲキに応えられるように普段から練習をしているのでしょう。声かけられたのにそれに応えられなかったら悔しいもんね。それだけやっても、常に優勝できるわけではないのがレースの面白いところでもあり非情なところだとは思いますが、一つの勝ち筋としてうまく回っているのかなと思います。

要はとても特殊な環境と信頼関係の中で成り立つ方法ですね。通常の会社組織でもそういう状況が作り出せる可能性はありますが、一つ難しいのは会社組織の場合は「勝ち」のルールが明確ではないこと。駅伝には「先にゴールについた者が勝ち」という明確なルールがあります。そして各人の役割も明確で「あなたはこの区間をできるだけ早く走る」です。そう言った場合には、ゲキを飛ばされることによって自分の体力の限界を超えて成果を発揮できることがある。

一方で会社組織の場合、例えば「売り上げをできるだけあげる」という明確なゴールがあったとしても、それを達成するやり方は様々です。そして、単発で大きな売り上げをあげるということよりも顧客との関係を維持して持続的に売り上げをあげ続けたい。特に最近ではサブスクリプションモデルのビジネスが増えていて「購入してくれてからが勝負」になります。 その場合には単純な売り上げだけではなく他の指標も成功の度合いを測るために必要になります。

また営業活動って自分の努力だけではどうにもならないことがある。結局はお客さんに買ってもらわなければならないわけですが、出来得る全てのことをしても、こちらから手の届かない理由で失注することもあれば、何も営業活動していない顧客から大口の注文が入ることもある。努力と成果の関連性が薄くなると叱咤激励が効きにくくなる。

さらに、駅伝が身体的な努力を必要とするのに比べて通常の会社での仕事は頭を使わないといけない。ゲキを飛ばされればもう一踏ん張りして、足を少し速く前に出せるかも知れないけど、叱咤激励されても「考える」のは速くなりません。むしろ余計なことを考えなければならなくなって遅くなる。「この契約が取れなかったらお前はボーナス無しだぞ」って叱咤されたら「ああ、ローンの支払いどうしよう、奥さんにも怒られる、子供に約束していたゲーム機を買えない…」って仕事どころじゃなくなります。

ということで、大八木監督のゲキは箱根駅伝の風物詩になりつつありますが、あのやり方はあそこだけに留めておき、下手に真似しない方が良いかなと思いました。

おまけですが、ツイッターで「大八木監督に、このご時世に沿道に出てきている観客を叱咤して欲しい」というのが多くあってびっくりしました。気持ちはわかりますが、大八木監督は選手に集中していてそんなところは気に留めていないんじゃないかな(笑)

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