出ていったビート その5

25で結婚して、息子が3人できた。
長男と次男は独立して大阪1人暮らしをしている。
三男はもうすぐ高校生だ。
車は3台あるが、
お兄ちゃんたちは免許を取ったのに運転しない。
お父さんは車いじりが好きで、
YouTubeで修理動画を見てはパーツや工具を買い集め
車の下にもぐって整備をするのが趣味だ。
週末はドライブをして買い物をして
外食に行くのがおきまりのパターン。
末っ子も大きくなったので、夫婦2人で出かけることも多くなっていた。

2月26日日曜日。
私も夫も大阪で用事があって、
一緒に電車に乗って出かけた。
昼からは別行動で「大阪マラソンやっているよ」
とLINEをしたらもう家に戻っているようで
「体調が悪い」と返信がきた。
「なるべく早く帰るね。パンを買ったよ」
月曜日に私がお弁当を作らなくてもいいように
彼はパンを持って会社に行く。

特急を使って帰ったのだけど
18時くらいになってしまった。
彼はソファーで寝ていた。
「2階で寝れなくて降りてきた」
「コロナかもしれないね。検査して。買い物行ってくるよ」
私はコロナだったら出張にいけないということを心配していた。

夜のお弁当と
平日の野菜や肉と
ゼリードリンクやプリンを買い込み
家に戻ると、彼は2階に上がっていた。
「なんかあったらLINEしてね」と言って
三男と夕飯を食べた。

8時半ごろお水が飲みたいというので
ストローをつけてお水を持っていった。
「11時すぎまで仕事でLINE出れないかも」
彼は少しだけお水を飲んでうなずいた。

11時ぐらいに声が聞こえた気がしたが、
私が2階に上がったのは11時半だった。
死んだふりみたいに右手を少し上げていて、
「どうした? もう、なにふざけてんの」
と触ったら冷たくて
鼻に手を近づけたら息をしていなくて
三男が救急車を呼んだ。
「お父さん、起きて!」
電話の指示で交代で心臓マッサージをした。
6人くらい救急隊の人が来て、家の階段がいっぱいになった。
医大に運ばれるというので、
三男が兄たちにタクシーで来るように電話をした。

病院で名前を書くように言われたが
手が縦に震えて字にならない。
歩いているつもりなのだが
看護師さんが横で私を支えている。
「お母さん、ゆっくり息して。今、吸ってばっかりだから」

2月27日0時55分
53歳で彼が帰らぬ人となって、
今はここから省略するけど、
愛車のアルシオーネとビートを手放すことになった。

(つづく)

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