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ドラマ『私と夫と夫の彼氏』第9話レビュー:自分以外の岸辺に橋を架ける

あらすじ:お互いへのクリスマスプレゼントに離婚届を選んだ美咲(堀田茜)と悠生(古川雄輝)。二人とも周平(本田響矢)と3人で暮らすことを望んでいたが。それは難しいことだった。二人が出した決断に周平は悲しむが新年を迎えたらそれぞれが新しい生活を迎えることを約束する。そんな矢先、悠生の両親が家に訪れ早く孫の顔が見たいと口を揃える。自分の性的マイノリティーについて打ち明けた悠生に対して軌道修正しようとしてきたと淡々と話す父親に美咲はキレてしまい――?

公式サイトより)

自分の幸せを自分で見つけるために

お互いに相手から離婚届を受け取った美咲(堀田茜)と悠生(古川雄輝)の笑顔は穏やかで、少しさみしそうも見えて。周平(本田響矢)が好きになった2人は、やっぱりよく似ている。

悠生から離れたくないという美咲の願いは、もしかして周平のものでもあったかもしれない。周平は美咲を好きだけれど、美咲に悠生を諦めてほしかったわけじゃなかった。でも美咲は悠生に、悠生は周平に、周平は美咲と悠生に……と矢印が均衡になっていない状況で、3人がお互いを想い合うことは難しい。結果的にそれぞれが不自然に恋愛感情を抑えなければならなくなってしまっていた。

悠生が周平を強引に押し倒した日のことを、悠生は「衝動を抑えきれなくて」と説明する。それはわざと美咲に見せるためだという周平の理解は正しいのたけれど、日常的に抑制されてきた衝動が存在していたこともまた事実。だから周平にも悠生を受け入れた瞬間があったはず、と美咲に指摘された周平はすぐに否定することができない。
3人は、新年から新しい生活を始めようと決める。

悠生はキッチンのデザインで悩み続ける葵(中山忍)に、誰かを喜ばせようとしているから決められないのではないかと問う。相手の喜びを自分の喜びとすることは、責任の押し付け合いになるのではないか。自分の幸せを相手に背負わせないで、自分の幸せは自分で見つけなければならない。そう葵に語る悠生は、これまでとは違っている。たぶん悠生はこれほど人の心情に踏み込んで話をしたことがなかったんじゃないだろうか。

悠生に共感し、デザインを決断した葵。好きという気持ちを誰かに委ねることなく、躊躇なく言えること。悠生にとっては、それを実現するために用意した離婚届だったのだと思う。

わかり合うことを諦めない

複数を等しく愛す周平と、1対1の恋愛関係しか成り立たせることができない美咲と悠生は違う。でも、自分とは異なる立場や考えを理解することが難しかったとしても、知ろうとしたり、伝えようとする努力はできる。

美咲は三角(しゅはまはるみ)に声をかけ、飲みに誘う。異質なものとそのままにせず、自分と相手の間にある川の間に橋を架けようとするのが美咲の素敵なところ。三角は美咲の幸せに嫉妬し、美咲の不幸を喜んだ醜い自分の心情を吐露する。嫌がらせの写真を送ったり、悠生を直接責めたりと三角のアウトプットは最悪だったけれど、誰しも黒い心をまったく持っていないなんてことはない。自分の弱さをさらけ出した三角には、美咲とわかり合いたい気持ちがある。お互いの気持ちを知り、改めて乾杯を交わす美咲と三角。諦めなければ新しく拓ける関係もあるのだ。

周平のことがわからないから漫画で描いてと言う美緒(大谷凛香)。何度も話し合いを重ねても平行線のままの2人だったけれど、美緒はそこに新しいアプローチを提案する。相互理解のためには努力が必要だかれど、その方法は何も言葉に限ったものではない。

再び差し伸べられた手

正月に帰省しないことに抗議するため、悠生の両親が尋ねてくる。動揺する悠生だが、いつかは話さなければならないと両親を迎え入れる。
今までの悠生なら避けていたであろう両親との対峙を決意させたのは美咲だ。前日、楽しくなって三角と飲みすぎてしまい二日酔いだという美咲は、まるでわかり合えるとは思えない関係の先にも可能性があるのだと教えてくれる。

だが、両親は自分たちの価値観を押し付け、強引に話を進めようとする。自分だけでなく美咲まで責め立てるような物言いに、悠生は振り絞るように「俺が同性愛者なんだ」と告げる。

いつも美咲の手が差し伸べられて終わるオープニングだが、今回美咲はその手を引く。それは夫婦関係の終わりを示唆しているようだ。けれど、両親に立ち向かおうとする悠生の腕を取った美咲は「まだギリギリ夫婦だよ」と言う。
再び差し伸べられた手。そこにはたとえ夫婦という名前がなかったとしても、確かな絆があると信じたい。

※サブタイトルは「長距離走者の孤独」(大江千里)の歌詞「自分以外の岸辺に橋を架けてみたい 濁った川の流れに泣きたくなったよ」から取りました

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