見出し画像

BS時代劇『大富豪同心3』第1話レビュー:江戸の人々を通して考える、現代社会の課題

あらすじ:三国屋徳右衛門(竜雷太)が老中・甘利(松本幸四郎)の命で甲州の立て直しのため旅立つ中、その留守を預かる為、卯之吉(中村隼人)の叔母・おカネ(若村麻由美)がやってくる。おカネの一番の仕事は、美鈴(新川優愛)を卯之吉の嫁候補として見極めることであった。その頃、江戸では頻繁に大火事が起こる。一方、卯之吉は、濱島(古川雄輝)と出会い「火除け地」の構想に意気投合するが、火事が悪党による火付けと気づく…。

公式サイトより)

現代に共通する普遍的な悩み

お馴染みの面々が帰ってきた。コロナ禍を経て、私たちの目に映る江戸の人々の姿はなんだか眩しい。大勢の芸者に囲まれ、遊びに興じる卯之吉(中村隼人)と沢田(小沢仁志)。卯之吉の家に上がり込んで遠慮なくタダ飯をお代わりする弥五郎(村田雄浩)と由利之丞(浅香航大)。スマホなどなくても、三右衛門(渡辺いっけい)が号令をかければたちまち集合する荒海一家。彼らは3年の間に私たちから遠ざかってしまったつながり、世間のあり方を思い出させてくれるようだ。

しかし、現在の私たちと江戸が抱える課題には共通点もある。長雨が続いたことによる農作物の不作で、食い扶持にあぶれた百姓が職を求めて江戸に流れ込んできた。そのあおりで江戸に住む人々にまで仕事が回らなくなっているという。天候、感染症と原因は違えど、外的要因によって不景気が起こることは変わらない。

追い打ちをかけるように次々に起こる不審火までもが江戸の人々を苦しめる。南町奉行所の同心・村田(池内博之)は、火災後の地面の様子から放火を疑う。
村田の見立て通り原因は放火で、指図をしているのは讃岐屋の主人・八左衛門(小木茂光)。讃岐屋は火事で焼け出された商家の沽券を安く買い取っていたのだった。
八左衛門は三国屋徳右衛門(竜雷太)が老中・甘利(松本幸四郎)の命で甲州の商いを立て直すため江戸を空けている間に、讃岐屋が江戸一番の商家に成り上がることを誓う。

卯之吉と濱島、似て非なる者

同心たちが放火の罪人を捉えようとしている間、別の角度から江戸を守ろうとする者がいる。洲崎で私塾を開く学者・濱島(古川雄輝)である。火事が発生した際の被害拡大を防ぐため、江戸に新たな火除け地を作るべきだというのが濱島の考え。老中宅を回って策を持ち込むが、金もコネもない濱島は取り合ってもらえない。自分を退け、商人の意見に耳を傾ける老中たちに「腐っておる」と怒りを隠さない濱島。
蘭学者・彦坂(小須田康人)からの紹介を受け、ちょっとした好奇心からその濱島に会いに来たのが卯之吉だ。火除け地の構想を聞いた卯之吉は濱島の考えに賛同し、老中・甘利の元に火除け地の図面を持ち込むことにする。

火除け地の造成を推し進めなければならないのは重々承知の上だが、財源が……という甘利に、卯之吉は三国屋の出資を打診。甘利はそれならと身を乗り出す。
徳右衛門に代わり、大阪から呼び寄せられて三国屋を仕切るおカネ(若村麻由美)は火除け地によって安心して商いができるようになれば結果的に三国屋が儲かると出資を快諾する。
卯之吉の登場によってトントン拍子に進む火除け地の計画。濱島は金の力を毛嫌いしているが、物事を推し進めるには金が必要なのも事実。長い目で見て江戸の繁栄を目指すのであれば、必ずしも手段をえり好みする必要はないのである。

再び起こる不審火。火事になった地域が火除け地の場所と一致することに気付いた濱島。濱島は夜分に関わらず、卯之吉が遊ぶ座敷を訪ねる。
放火によって焼け出された商家の沽券を安く買い取って地主となり、火除け地に選定され土地の価格が上がったところで利益を出す仕組みだと言う菊野(稲盛いずみ)。濱島は江戸のためを思っての火除け地が金儲けに利用されることに強い憤りを抱く。そしてこのままだと強い風が吹く日にまた放火が行われる危険性が高いと指摘する。

濱島の推測通り、讃岐屋は日和見(天気予報)の達人を雇い放火を計画していた。ここで役に立つのが卯之吉の道楽だから面白い。卯之吉は彦坂から仕入れた気圧計と風向風速計で強風を予測。卯之吉の読みは見事に的中する。
現場に駆け付けた卯之吉と荒海一家は火を放った悪党と対峙するが、いつものごとく気絶している間に美鈴(新川優愛)が敵を斬り、剣豪同心と絶賛される卯之吉。このあたりは外せないお約束で、変わらずポンコツな卯之吉に安心感を覚える。

卯之吉と濱島はお互いにやや、いやかなりオタク気質なところがあるから意気投合するが、似ているようで対照的な人物として描かれている。濱島になくて卯之吉にあるもの、卯之吉になくて濱島にあるもの、その両方がある。
印象に残るのは火事で焼け出された子供にまつわるエピソードだ。濱島がいくら名を尋ねても頑なに心を閉ざし、答えようとしない幼子。なのに卯之吉は紙で蝶々を作って見せ、喜んだ子供から流れるように名前を聞き出してしまう。
その違いは子供に対する対応に限らず、火除け地の進言のやり方にも表れている。実直に励む濱島と、財力も人脈も使えるものは使う卯之吉。濱島がそうできないのは、卯之吉とは生まれ育った環境が異なるからだ。当たり前に金のある生活を送って来た卯之吉と濱島が同じ感覚でいられるはずもない。
だが、貧乏を知らぬがゆえに卯之吉には世の中を変えたいという高い志を持つことができない。目の前にいる困っている人は助けたいが、その先に目指すものは描けないのだ。いわゆる「親ガチャ」が作った格差。

黒幕の登場、江戸を揺るがす陰謀の予感

悪事が露呈した八左衛門と番頭・弥助(桜木信介)は逃げようとするが、何者かに斬られ命を落とす。讃岐屋は火をつけられ焼失。これで放火の手を引いていた元が絶たれ一件落着したかに見えたが、村田は讃岐屋だけの企みとも思えないという。
そう、本当の黒幕は尾張徳川家。証拠隠滅に暗躍したのは尾張藩家老・坂田正重(新藤栄作)の指示を受けた清少将(辻本祐樹)であった。坂田の狙いは一体何なのか。

おカネによる、美鈴に対する卯之吉の嫁審査は一層厳しさを増すばかり。波乱含みの三国屋、江戸に襲い掛かる尾張藩の陰謀。中も外も、実に気になる次回なのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?