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ドラマ『私と夫と夫の彼氏』第3話レビュー:言葉の力の強さと、悠生の弱さと

あらすじ:夫の悠生(古川雄輝)が自分の元教え子の伊奈周平(本田響矢)と交際していることを知った美咲(堀田茜)は家を飛び出し、友人の真樹(岡本玲)の元へ。悩みを打ち明けようとするが、その前にもう一度悠生と話し合うことを決意。悠生は帰宅した美咲の前で周平に電話し別れを告げ、二人は久しぶりに激しく求めあう。もう大丈夫と胸をなでおろした美咲だったが、数日後スマホに見知らぬアカウントから一通のメッセージが届く。何気なく開けるとそこには思いがけない画像が添付されていて――?

公式サイトより)

言葉には力がある

美咲は言葉が持つ力を知っている。
認めたくない出来事は、自分の中に留めておけば、他の誰かにとってはなかったことと同じ。でも、一度話せばそれが現実に起こったこととして形になってしまう。だから美咲(堀田茜)は真樹(岡本玲)に言うことができなかった。夫・悠生(古川雄輝)には他に恋人がいて、その相手は男性で、しかも自分の教え子・周平(本田響矢)だったと。

悠生も美咲の言葉の力を知る一人。気持ちと感覚にズレを覚えながら生きてきた悠生だけれど、美咲の言葉によって自分のありのままを受け入れてもらえる、自分らしくいられると思うことができた。けれど周平が現れたことで、自分が抱える違和感の正体を知ってしまう。

自分が大切にしているものを傷付けたというショック

全てが明るみになり、悠生との結婚式の写真も捨てて家を出ていった美咲。悠生は美咲のいない部屋でゴミ箱から写真立てを拾い上げ、涙を流す。自分に安らぎをくれた美咲なのに、その大切な人を、幸せな思い出の写真ももう見たくないと思うほど悲しませてしまった。大事にしてきたものを自分の手で傷付けてしまったことに、悠生自身が深く傷付いている。
泣いている悠生の姿はまるで少年みたいで、その目は捨てられた子犬のようで。それでも好きだと言ってくれる美咲をもう裏切りたくないと、悠生は美咲の目の前で周平に電話で別れを告げる。美咲を傷付けることは、自分を傷付けることと同じだから。

これからの人生は美咲に捧げると言う悠生だが、そういう極端な振り切り方も未成熟な少年みたいだ。自分の中の葛藤に目をつぶって美咲のために生きられるほどの強さを悠生は持ち合わせていないし、それに気付けないのもまた、幼い。
美咲を「愛してる」という悠生の言葉は嘘じゃない。嘘ではないし、確かにそこには深い愛情があるのだけれど、唇を、体を重ねても、お互いに脳裏をよぎる悠生と周平のキスを打ち消せはしない。

前に進むために誓ったはずなのに

目の前のものに流されやすいのも悠生の弱さだ。美咲を失うことにも耐えられないけれど、周平に会いに行けば手を引かれて従順にホテルについていく。周平が複数の人を愛せることを頭では理解できないにしても、だ。
その弱さは、悠生をさらに追い詰めていく。美咲の元に何者かから悠生が周平とキスしている写真が届き、悠生と周平が終わっていないことが伝わってしまう。

「愛してる」は、一度は言葉として形を結んだけれど、裏切りを知った美咲にとって、結果として嘘になる。悠生の言葉と心と行動は、気持ちと感覚の噛み合わなさと同じくらい上手く重ならなくて、言葉は本来持つべき力を失ってしまうのだ。

インテリアデザイナーとして働く悠生の客・葵(中山忍)はキッチンのデザインを決めかね、長いこと悩んでいる。悠生はご主人に相談してみては……と勧めるが、夫からは全部好きにしていいと言われているのだという。葵はそうは言われても、夫の好みに気を使わずにはいられない様子。
その状況は「これからは、美咲ちゃんの望むことならなんでもするから」と言いながらも、それが本当にしたいこと一致しない悠生と美咲の関係と少し似ている。
先に進まないデザインのように、自分の言葉に縛られて、悠生は身動きを取ることができない。

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