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『離婚deオーナー‼』レビュー:「古川雄輝」じゃない、古川雄輝との出会い

あらすじ:離婚を決めた夫婦が共有財産の分与を賭けてクイズで争う人気テレビ番組『離婚deオーナー!!』。今夜出演するのは、裕一と友美の高田夫妻。共に30代半ばの二人はいつからか気持ちがすれ違い、離婚秒読みの状態だ……。
人気司会者・八木宙也が巧みなトークで進行する『離婚deオーナー!!』のルールは、これまでの結婚生活にちなんだクイズをお互いに出題し、回答の成否で賭けられた財産の分与が決まるというもの。公衆の面前でプライベートをネタに争う姿は、まさに“崖っぷち夫婦”。家電、絵画、家具、別荘、車、愛犬――。裕一と友美はクイズに勝利し、ひとつでも多く財産を勝ち取ることができるのか?泥沼必至と思われたバトルだったが、名司会者・八木の巧みな采配で番組は思いもよらない方向にヒートアップしていき……。

公式サイトより

私は出会ってしまった。別にイケメンじゃない「古川雄輝」に。いや、いい意味で、本当にいい意味で。

美男美女が繰り広げるドラマは夢を与えてくれる。美女の横に立つ古川雄輝は、たとえちょっと情けなくても、空回りしてても、チャラ男でも、ドイヒー浮気男でも、殺人鬼(!)でも、結局のところ美しい。
しかし実際問題、私たちの周りの古川級イケメン比率は何%だろうか。2%いれば奇跡。ましてそんなイケメンと恋に落ちる可能性たるや天文学的確率。
だからね、そりゃイケメンに越したことはないけれど、私たちは大抵、必ずしもイケメンじゃない誰かと恋に落ちるし、結婚したりもする。それがリアルというもので、「イケメン」は恋の必須条件ではないのだ。

この物語に登場する高田夫妻は、マンションの隣の部屋に住んでいてもおかしくないような普通の男女。
そして高田裕一は、きっとそれほどにはイケメンじゃない。
もし彼がイケメンで、私が妻だったとしたら?冷蔵庫のジャムの賞味期限が切れていることを咎められれば「ごめんなさいごめんなさい今すぐ食べますカビ含め」とひれ伏すだろうし、うっかり「小さい男め」とちょっとカチンと来ちゃったとしても「…でもカッコいいから許す♡」となるに違いない。
イケメンとはそれくらい欠点を補ってお釣りが来る程度のアドバンテージなのだけれど、なんなら減点の方が勝るようにも思える裕一を演じるにあたっては、外見の良さは却って足枷になる。
しかし「NUMA」のイヤードラマというフォーマットは、聴覚から得る情報だけに集中させてくれる。それは古川雄輝のルックスに対する先入観を取っ払ってくれる、ということでもある。

裕一はイケボではあっても、話し方は別にイケメンのそれじゃない。お金への執着心やプライドを隠そうともせず、保身に走って焦りを露わにして、被せ気味に発言する。あぁ、いるよねぇこういう男。
前半のクイズに挑む2人の様子からお互いに対する苛立ちが強く伝わってくる。なんだか相性も悪そう。なんでこの人と結婚しちゃったんだろう?という疑問を抱くのは、結婚生活の長い夫婦あるあるだ。

けれどそんな相手のことを「いいな」と思う瞬間が過去には確実にあったはずで、クイズを通して出会いや結婚に至る過程を辿る中で彼らはその頃の想いに立ち返る。
別にカッコよくもないけれど、そういう人が自分のために必死になったり、真剣な表情を見せたり。ありふれた、でも自分にとっては特別な恋の始まりを感じさせるのに、古川雄輝の声はとても有効だ。
だって恋は魔法なんだもの。どこにでもいる普通の人なのに、自分にだけキラキラと輝いて見えてしまう。
魔法がかかる瞬間、それまで普通というよりむしろマイナスの多かった裕一の言葉はなぜだか深く届いて、心の奥にある鍵を開けられたような気持ちになる。あれ、この人、こんなに素敵だったっけ?
それが視覚効果なしに、声の表現だけで実現されているのだから、すごい。

というわけで、これからは古川雄輝の枕詞に「王子様」だけじゃなくて「声の魔法使い」を追加したいと思います。

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