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土ドラ『自由な女神ーバックステージ・イン・ニューヨークー』第2話レビュー:妖精のキス

あらすじ:伝説のドラァグクイーン・クールミント(武田真治)のショーを見て、人生が動き始めたサチ(井桁弘恵)。
ファッションデザイナーになるべく上京し、真梨子(朝加真由美)に弟子入りする事に。
そんな中、ミントが経営するクラブが、謎の嫌がらせやネットでの中傷を受け炎上!
サチをめぐって、訳あり元サーファー・ケン(古川雄輝)とサチの幼馴染・篤史(三浦獠太)の三角関係もヒートアップ!!
ミントの宿敵のドラァグクイーン・マカロン(宇垣美里)の嫉妬心がスパークしたり…2話にして早くも物語は予測不可能な展開を見せる!?…謎の嫌がらせの思いがけない真犯人とは?
公式サイトより)

みんな情緒不安定である。
やっとの思いで上京したのにクールミントの店に「閉店」の張り紙を見つけ、やる気ないシロクマのようにヘタるサチ(張り紙は嫌がらせで閉店は児事実でないと後に判明するが)。クールミントから期待という名のプレッシャーを喰らい、一度は張り切るものの反動で落ち込んで小さく丸くなって座り込んだりと、とにかくアップダウンが激しい。
クールミントは元カレ・純の今カレ・安藤(ああややこしい)に「ドラァグマザーになって欲しい」となぜか上から目線で頼まれる状況に調子を狂わされ、苛立ちを隠さない。
しかしサチは安藤に「なりたい自分」になれず立ち止まっていた自分を重ね、クールミントに彼のドラァグマザーになるよう一緒に頼む始末。もうカオスですよカオス。

結局クールミントは安藤のドラァグマザーを引き受け、サチは2人の衣装担当となる。しかし安藤の衣装のイメージが湧かず、発狂寸前のサチ。
彼女の傍らには嫌がらせの犯人探しの推理に躍起な篤史。

感情が忙しい彼らを、微笑みながら眺めているのがケンだ。
うん、彼は妖精さんだからみんなとは次元が違うところにいるんだね。でもそれって生身の人間としてはどうなんだろう。

クールミントは自分のことを「昔の男のことで我を忘れるくらいの醜さは兼ね備えてる、何の特別なことはないただの人間」だと言う。
彼はいわゆる「普通」の人ではないけれど、そういう心の動きは人として当たり前に持っているもので、感情を乱されるのは「普通」なこと。
ケンの心にゆらぎは感じられなくて、そこが「普通」じゃないから妖精感を醸してしまうんじゃないだろうか。

そんなケンが人間らしくなる場面がある。クールミントが祖母・真梨子の人の良さにつけこんで衣装を作らせていると思い込み、店に嫌がらせの貼り紙をしていた雄介を咎める時だ。
ケンはいつになく厳しくて、普段とは話し方も違う。先が長くないという真梨子の生き様を目に焼き付けておけというケンの台詞は雄介に向けられているのだけれど、雄介に対する静かな怒りの中には、ケン自身が後悔のようなものが垣間見える。もしかしてケンには、かつて自分を雄介に重ねてしまうような経験をしたことがあるのかもしれない。

行き詰っていたサチは、ケンの言葉からヒントを得て衣装を作り上げる。
クールミントはサチのドレスでサナギの殻を脱ぎ捨てて生まれ変わる様を表現する。曲は渡辺真知子の「迷い道」。
そのステージからメッセージを受け止めた安藤もまた、強い態度で武装することをやめ、迷う弱い自分も認めて前に進もうとする。
そう、これはそれぞれの孵化の物語だ。

ならばケンにだってその瞬間は訪れるはずで。サチに海が好きなのかわからなってしまった胸の内を明かしたり、雄介への憤りを露わにしたり、地殻変動の兆しみたいなものはあった。
そこへ来てのサチとのキスだ。そこへ来てのキスだ。わああああああああああああああああ!!!!

…取り乱し失礼。ここで童話におけるキスの意味を考えてみようじゃないか。だって妖精さんがキスするんだから、ファンタジー方面から攻めるのが正解のはず。
眠り姫を目覚めさせるキス。白雪姫が生き返るキス。野獣が王子様に戻るキス。そうじゃん、キスは本来の自分を取り戻すための、魔法を解くための儀式じゃん。

だからケンはきっとこれから過去と向き合うことになるんだと思う。酔った勢いでとか、サチの涙が綺麗だったからとかじゃなくて、あれは妖精が現実世界に触れたキスだったんだ。
その口づけはとても美しくて、この先にケンを待つ景色がそんな風に輝けばいいのにと願った。
(けど人間に戻っても、あざとい妖精的振る舞いは残していただいて結構だ←何様)

とか言ってケン消えたんですけど…
第3話、ケンの行方も恋の行方もクールミントとマカロンとバトルの行方も、気になることが多過ぎて、私まで情緒不安定です。


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