見出し画像

BS時代劇『大富豪同心3』第3話レビュー:あなたが幸せにしたいのは、誰ですか

あらすじ:荒海一家の厄介になりたいと訳ありの子供・昇太郎(三上来輝)がやって来る。三右衛門(渡辺いっけい)は昇太郎の様子を見て、ヤクザの盃は交わさず見習いとして受け入れる。江戸の街では世直し衆が夜な夜な押し込み強盗として暴れていた。その中に、猪五郎(比留間由哲)というやくざ者が居た。猪五郎は昇太郎の親の仇でもあった。そんな中、卯之吉(中村隼人)の前に三右衛門の元親分・権平(花王おさむ)が現れる。

公式サイトより)

目的が善なら、過程の悪は良しとされるのか

善と悪の間には、髪の毛一本ほどの差しかないのかもしれない。しかしそれを越えるか留まるかで、やがて辿り着く場所は大きく異なるに違いない。

濱島(古川雄輝)と笹月(山田純大)は坂田(新藤栄作)の命を受け、世直し衆を取り仕切る。商家を襲って金を奪い、貧しい者たちに配る世直し衆。濱島と笹月は、江戸を救うためも世直し衆であるという坂田を信じるが、盗みを働いていることは罪である。だが大義名分の名の下において、犯罪は正当化されてしまう。そもそも、豊かな者からならば奪ってよいという考え自体間違っているのだが。
世直し衆の頭目として盗みを働かせながら、人を斬ってはならぬと濱島は説く。その矛盾に濱島は気付いているのか、いないのか。

荒海一家の子分にしてほしいと、昇太郎(三上来輝)という少年が三右衛門(渡辺いっけい)を訪ねて来る。母を伴い追分から江戸に出てきた昇太郎は、旅籠を営む父を何者かに殺害された訳あり。年端も行かぬ昇太郎をやくざ者にするのは気が引ける三右衛門だったが、食い扶持のない親子を見捨てるわけにも行かず、面倒を見ることにする。

本来濱島が助けるべきは昇太郎のような者であって、元々洲崎に私塾を開いたのも貧しい者にも学ぶ機会を提供しようと考えたからだったはず。しかし濱島の目線は今そこになく、江戸を変える方を向いている。世直し衆が得た金も配っておくよう指示を出すだけで、一体どんな者の手に渡ったのかを濱島は見ていない。

さて、卯之吉(中村隼人)が幸せを考えねばならぬのは美鈴(新川優愛)のことである。おカネ(若村麻由美)は美鈴に厳しく家事を指導する一方、台所仕事も算盤もできる菊野(稲盛いずみ)を卯之吉の嫁にと推す。菊野もなぜかまんざらではない様子で、ますます形勢不利になる美鈴。徳右衛門(竜雷太)は卯之吉に結婚についてよく考えてほしいからこそ、おカネに店を任せているのだという。そんな話は卯之吉にとっては初耳なのだが、徳右衛門とおカネ何か思惑がありそうで……。

追加の開拓費用を三国屋が融通したものの、足元を見て利息を釣り上げたのだと言う坂田。このままではますます金の力が強くなり、貧乏人がぞんざいな扱いをされると、坂田は濱島を煽る。
世直し衆が貧しい物たちに金を配ることを民衆は喜んでいるが、それは一時的に懐を潤すのみで根本的な不景気の解決につながるものではない。将軍は新しく土地を開拓することで雇用を生み出し、継続的に経済を循環させようと考えているのだから(そして景気が好転すれば上昇した利息分の返済も容易くなる)、客観的には正しい政策を遂行していると思われる。冷静に考えれば、学問に長けた濱島にそれがわからないはずもないのだが。

師匠と弟子、母と子。重なり合う関係性が描き出すもの

そんなある日、三右衛門の大親分・権平(花王おさむ)が何者かの手で殺される。父の顔を知らない三右衛門は権平を親のように思って育つ。任侠は堅気の迷惑にならぬように振る舞わなければならないという権平の言葉を胸に、人の役に立とうとして生きてきた三右衛門。
権平はかつて子分であった猪五郎(比留間由哲)の行いを諫めようとして殺されたのではないか、というのが三右衛門の推察。猪五郎の特徴は右腕の猪の彫り物で、それは昇太郎の父親を手に賭けた犯人の手掛かりと一致している。猪五郎を殺しかねない勢いで飛び出していった三右衛門。卯之吉と銀八(石井正則)は三右衛門に殺しをさせてはならぬと流れ者の溜まり場・洲崎に先回りする。
卯之吉と銀八が洲崎で見つけたのは、同じく猪五郎の正体に気付き、父親の仇を討とうと様子を伺う昇太郎の姿だった。卯之吉らの気配を感じ取った猪五郎たちとあわや斬り合い……というところで、卯之吉はお約束の気絶。三右衛門に助けられる。

だが三右衛門は決して猪五郎を斬ったりしない。斬れば自分も猪五郎と同じ人殺しになってしまう。それは昇太郎にしても同じで、三右衛門は昇太郎に仇を討つことを許さない。もしも人を殺してしまったら堅気ではなくなってしまうし、何より昇太郎が罪に手を染めてまで仇を討っても、母親は悲しむだけだからだ。

幼い頃に父を亡くし、ある手習いの師匠に育てられた濱島。彼の境遇は三右衛門とよく似ている。父親がおらず、女手一つで育ったという意味では昇太郎にも重なる部分がある。
大親分の教えを守り、どれほど憎くても猪五郎を殺さなかった三右衛門。母親を思い、仇討ちを思いとどまった昇太郎。同じようで、濱島と三右衛門、昇太郎の間には大きな隔たりを感じる。
美鈴に母の面影を見出し好感を持つ濱島だが、その母は今どこでどうしているのだろう。今の濱島を見たら、母はどう思うのだろう。

木を見て森を見ず、ならぬ森を見て木を見ず、の危うさ

しかし猪五郎は連行される際、清少将(辻本祐樹)に斬られてしまう。猪五郎が隠し持っていた金は、彼らが世直し衆として窃盗行為を行って得たもの。足がつけば世直し衆の正体が明らかになるからと、坂田が清少将に口止めを依頼したのであった。
坂田と清少将の関係を知らない濱島と笹月。猪五郎を捉えて正体が明らかになれば、八巻が世直し衆を潰したと世間の恨みを買うことになる。だから八巻が猪五郎を殺したのだと言う坂田の言葉に、濱島と笹月はさらに使命感を強める。

顔の見えない民衆のために罪に手を染めるか、大切な誰かを幸せにするために正しい道を貫くか。
おカネに見限られそうになっても「卯之吉様に食べていただきたい料理があるのです」と食い下がる美鈴の表情は、剣を持った時と同じように凛として美しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?