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ドラマ8『弁護士ソドム』第3話レビュー:ギリギリで保たれる渉の心のバランス

あらすじ:小田切渉(福士蒼汰)に、ガン専門の医師・栗原浩二(片桐仁)から弁護依頼が。患者の娘・江梨花(内藤理沙)に訴えられたのだ。栗原のクリニックは、認可前の怪しげな治療を行い費用も超高額、という明らかな詐欺クリニックだった。穏便に済ませたい栗原は和解を望むが、社会的制裁を望む江梨花に拒否され、交渉は決裂。渉は次の手を考えるが、この依頼には渉の失踪した父(勝村政信)に繋がる大きな手掛かりが潜んでいた。

公式サイトより)

第3話も小気味よく。ドラマのお約束もハマってきた

こちらだってもうわかっている。弁護を依頼してきたガン専門医・栗原(片桐仁)が、次の渉(福士蒼汰)のターゲットなのだと。
渉の「地獄の炎で焼き尽くす」の決め台詞を聞くことにちょっとした快感も覚えるようになり、このドラマ上のルールが視聴者側にもしっかり浸透した感じ。いよいよストーリーにのめり込む準備が整っての第3話である。

認可前の、いかにも胡散臭い治療法で高額な費用を巻き上げる栗原。一向に症状が改善しないと患者の娘・江梨花(内藤理沙)に訴えられるが、穏便に済ませたいと示談を望む。
しかし栗原が営むクリニックの悪事を世間に知らしめるために、あくまで裁判に持ち込みたい意向の江梨花。渉は治療費の倍額を示談金として提示し、江梨花側に不利な証拠を見せて示談を迫る。

だが、渉の本当の目的な栗原の失墜である。裁判になれば詐欺罪を立証することは困難だとわかっているのだから、まずは示談を成立させなければならない。
渉の取った策は、カイ(加藤清史郎)・天音(山下美月)に加え、まどか(玄理)にまで役割を振って患者本人・剛士(おかやまはじめ)から示談に使えそうな情報を引きだすこと。
まどかが剛士に話を聞くと、行く病院行く病院で治療の見込みがないと告げられ、諦めかけたところに出会ったのが栗原だったという。栗原に必ず治すと言われ生きる希望を取り戻した剛士は、治療がデタラメだと知りながら騙され続けていたのだ。剛士の言質を録音することに成功し、ついに渉は江梨花に訴えを取り下げさせる。

示談金を得た剛士は費用の不安も解消され、治療に前向きに取り組むように。
もし剛士が栗原に出会わなかったら、果たしてここまで望みを捨てずにいることはできたのだろうか。栗原の行いは悪であっても、結果的に剛士の「生きたい」という気持ちをつないだのは事実。
第1話から繰り返し語られる、善悪に境界線を引く難しさというテーマが第3話でも描かれている。

無敵な渉の弱さを知る者たち

栗原は、詐欺の手の内を明かす様子を天音に隠し撮りされている。その動画を使って栗原を脅し「牧師」につながる情報を聞き出す渉。情報を提供したにも関わらず動画は流出し、さらに警察にも持ち込まれたために栗原は逮捕される。目的をきっちり果たした上で栗原への制裁もしっかりと与える渉は冷徹だ。
でもきっと、渉の精神状態はギリギリで保たれているんじゃないだろうか。
母親(高岡早紀)が亡くなる前、夫(勝村政信)と口論をしていた目撃証言があるとまどかに告げられ冷静さを失う渉。
「父さんが、母さんを殺して逃げたって言うんですか」
その口調には渉の動揺が表れている。普通、渉のような社会的地位のある成人男性は、他人の前で自分の親を「父さん」「母さん」と呼んだりしない。呼ぶなら「父」「母」である。渉にとって家族の絆が失われたことは、それだけ自分を素の状態に引き戻され、感情を揺さぶられる事案なのだ。
いつもと違う渉の様子に、まどかは何を感じただろうか。

家族の喪失は、心身ともに屈強な渉にとって唯一の弱みである。同じく家族に飢えているカイと天音。彼らは渉の強さに憧れを抱きながらも共通の痛みを通じてシンパシーを感じることができるし、強い渉を自分たちが支えているという充足感も得ることができる。渉は渉で、家族以外に心から信頼できる仲間という役割をカイと天音に担わせているようにも思える。
3人は互いに依存し合っており、結びつきは強固だ。天音はまどかを決して仲間として認めようとしないが、それは今のバランスを崩す他者が入って来ることを恐れるゆえかもしれない。今まで3人で完結していた世界は、ささいな衝撃で壊れる危険性を孕んでいるのだと、天音はたぶん気付いている。

目的が見えないから、孝介が怖い

それにしても、孝介(古川雄輝)がここまで渉にこだわるのはなぜなんだろう。情報提供を口実に元カノ(?)のまどかをカフェやレストランに誘い出すのはまぁ、よしとしよう(まどかの反応、イマイチっていうかイマニくらいだけど)。しかしある意味まどかを利用してまで、渉の正体を探ろうとするのはなぜか。
いかにも「善」の顔付きをした孝介。だからこそ、この作品のルールに則れば、孝介のこれからの行動が結果的に「悪」に働いてしまうことだって十分にあり得る。

「牧師」が10年以上病院に匿っている男がいる、という噂を確かめに行く渉。病室にいたのは失踪したままだった父だが、その姿は心神喪失状態に見えた。果たして母の死の真相は、父と「牧師」の関係は……。
第3話にして父が見つかり、「牧師」の正体と事件の真相に一気に近付いた感じ。勿体ぶらない、潔いストーリー運びが素晴らしく、次週の展開が楽しみだ。

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