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ドラマ『私と夫と夫の彼氏』第2話レビュー:傷付けたくない、傷付きたくない

あらすじ:結婚記念日当日夫の悠生(古川雄輝)が男性とキスしているのを目にした仲道美咲(堀田茜)は夫から「男性と付き合ってる」と明かされる。離婚を告げられるが、美咲は「別れるつもりはない」と突き放す。そんな中かつての教え子、伊奈周平(本田響矢)と再会。好きだと告げられキスされた過去がある周平を前に美咲は動揺を隠せない。周平から家に行きたいと言われ美咲は断るが、その直後周平が美咲の後方に向かい放ったのは「悠生」とい言葉。振り向くとそこには愕然とした夫の姿が。夫の交際相手がかつての教え子だったと知った美咲は家を出る決意をして――?

公式サイトより)

優しさと残酷さ

「ほんと、ごめんね、こんなに」
素敵な結婚記念日にしようと頑張って食事を用意した美咲(堀田茜)に、悠生(古川雄輝)がかけた言葉。悠生の喜ぶ顔が見たかった美咲の願いが叶えられないことも、応えてあげられない悠生も両方が苦しくて、悲しい。
ごめんねじゃなくて、嘘でもありがとうと言えたらよかったのに。けれど状況が、悠生の心がそれを許さないのだ。

悠生は美咲とのセックスを先延ばしに先延ばしにして来た。美咲に懇願された夜は結婚記念日にしようと提案し、当日の朝になれば、早く帰れるかと尋ねる美咲に「なるべく」早く帰ると答える。だって悠生にとってはそれくらい気の進まない、覚悟のいるものだから。

悠生が美咲との行為を避けて来た理由は最悪な形で明らかになる。美咲は玄関前で男性とキスをする悠生の姿を見てしまう。「男の人…だったよね」という反応がからわかるように、美咲にとって受け入れがたいのは夫に他に好きな人がいるらしいということよりも、相手が男性だったことの方だ。
自分が性的対象ではない、というのは女性として愛される可能性の消滅とイコール。まだ希望を捨てたくない美咲は、酔った勢いではないのか、もう自分を女として見ていないのかと悠生に問う。だがあえて「男の人と」付き合っていると悠生が告げたのは、美咲が性的対象から外れていると明示するため。女性としての魅力がないから抱けないのではなく、女性として見ているから無理なのだと。
今でも人として美咲のことが大好きだと悠生は言うけれど、女性として愛されることがないという絶望の中で、その優しさは残酷にすら感じられる。

悠生はきっと、決定打を恐れていたんだと思う。自分で期限を切ってしまった結婚記念日の夜。セックスせざるを得ないけれど、もしできなかったら?自分に魅力がないからだと美咲を傷付けることになる。そうじゃないのだと理由を話すこともできない。ギリギリまで追い詰められたところで男性との関係が明るみになって、悠生はむしろホッとしたんじゃないだろうか。

でもその現状を認めて離婚して欲しいと美咲に頼むのは、美咲を人として好きだからこその甘えのような……。悠生は美咲を傷付けたくないのと同じくらい、自分が傷付くことも避けている。どうしたってソフトランディングなんて望めるはずもないのに。

似た者同士の三角関係

しかし、美咲を待っていたのはもっと大きな衝撃だった。美咲と、美咲のかつての教え子・周平(本田響矢)、悠生の三者が偶然顔を合わせ、悠生の恋人が周平だったことがわかる。学生時代からずっと美咲のことが好きだったという周平。周平が悠生と付き合っていることも、まだ自分を好きだということも、美咲には受け止められず混乱する。悠生も、周平が美咲を自分の妻だと知っていたこと、しかも美咲のことも好きだという事実が理解できない。

美咲と悠生は、人にを気を使って自分を抑えて苦しくなるとことが似た者同士だと周平は言う。そこが自分の「性癖にぶっ刺さる」と。「性癖」という言葉を選ぶからには両方が性的対象ということだ。両方とも本気で好きで、例え悠生を傷付けたとしても自分に正直でいたいという周平。

自分を抑える悠生と自分に正直でいたい周平は一見真逆のようで、だから互いに惹かれ合うのだろう。でも悠生と周平にも共通している部分がある。2人とも美咲の言葉で自分を肯定されていることだ。悠生は同性愛者だし、周平は複数を愛すことができる人。マイノリティであることを周りに言えずにいたり、言うことができても認めてもらえなかったり。自分が自分らしくいるために美咲を必要としているのは同じで、悠生と周平も似た者同士なのだ。美咲と悠生と周平の三角関係は必然的なものにも思えてくる。

自分に正直に生きるなんてできるのか

過呼吸になった美咲に手を重ねられた時に悠生が見せる、ほんの少しの躊躇。美咲のことを人として好きでも、触れられればそこに性的な意図があるかもしれないと一瞬警戒心が働いてしまう。なのに周平には一度は抵抗しながらも唇を重ねられてあっさり心を開き、触れられたい気持ちに流されて行く。誠実であろうとしても本能的なところで自分に嘘をつくことができない。古川雄輝はそういう葛藤や弱さの表現が本当に上手いし、対美咲と対周平で色気のスイッチのオンとオフが見事だ。

おそらく周平は三人が居合わせるシチュエーションを偶然でなく意図的に作り出して、悠生が秘密を抱えながら美咲と結婚生活を続けていることや、自分が美咲に会えずにいる現状を打破したかったんだろう。でも、悠生も周平のように自分に正直に生きられるだろうか。悠生に女として愛して欲しいという思いの行き場を失った美咲が自分に正直でいることはできるだろうか。

いずれにせよ、過去の幸せにはもう戻れない。どんな形であっても、こことは違う場所へ進んで行くしかないのだ。荷物をまとめて家を出た美咲は、どこに向かうのか。

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