(実例編)愛知県選挙管理委員会資料に見る、直接請求における署名有効無効判定
はじめに
先に投降した「愛知県選挙管理委員会資料に見る、直接請求における署名有効無効判定」の続編になります。
当該資料の中の、実質的審査の判定基準として記載されているものから、興味深いものをピックアップしてみます。
なお、無効となる事由別で資料記載されていますので、それに準じて記載、論考してみましょう。
リコール活動について、不正追及派も、不正を防止したい推進派も、不正によりある種の目的を実現したい反対派、利用派の方も、皆さん必見です(笑)。
なお、無効となる事由の中でも、興味深いもののみピックアップなので、項目は一部飛ばしているものもあります。
3.必要記載事項の記載を欠く場合 その1
・住所または生年月日の記載のない署名は、無効とするのが原則である(昭25.12.11 実例、昭28.8.25実例、昭32.7.11実例)
・住所のない署名は無効であるが、署名の記載順序等から同一住所と推定される場合は有効と解する(昭28.8.25実例)
すなわち、住所・生年月日は必須。だけど連続した記載(家族の連続記載等)から住所が推定される場合は、住所記載なくとも有効という事です。
収集者向けには、迷いを生じるから住所記載はしたほうがbetterですね。
3.必要記載事項の記載を欠く場合 その2
・署名年月日、住所又は生年月日が自著でないものであっても、氏名が自著であれば有効である(昭23.8.9実例、昭23.8.13実例、昭25.12.11実例、昭27.2.13実例)
さて、ここで重要になるのが「自著」というフレーズ。
国語辞典等で調べると、以下のように出てきます。
自著:自分で書き写した書物
なんかまだもやもやします。
そこで、ちょっと別の法律を見てみます。
新商法第32条
この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。
「署名」と「記名」というフレーズが出てきます。上記の商法では、
自分で書いたものでなくとも、名前と押印があれば、自分で書いたものと同等だよ
としていると捉えるのが適当と思慮します。
つまり、記名とは「自分で書いた名前」でないものも含んだ、広義の名前という事と解釈してよいでしょう。
回りくどくなりました。
「自著」でない=「他人の代筆」ととらえる方も多いでしょう。
しかし正確には、自著でないものとして
・他人の代筆
・印刷、ゴム印等の活字
だと捉えられます。なお、回り道しましたが、選管資料にはところどころ「ゴム印で押されたものは…」のフレーズが出てきます。
さて、それらを踏まえて、もう一度引用
・署名年月日、住所又は生年月日が自著でないものであっても、氏名が自著であれば有効である(昭23.8.9実例、昭23.8.13実例、昭25.12.11実例、昭27.2.13実例)
つまり、住所や生年月日が活字印刷や、極論他人が記載したものであっても、氏名が本人のものであれば有効である、とういうことですね。
(けれど、誤解を招くようなことは避けたいですね)
3.必要記載事項の記載を欠く場合 その3
・署名年月日の月日が判然としない場合でも、法定の署名収集期間中に署名したものであることが前後の状況によって明らかに認められるときは有効である(昭32.1.22実例、昭28.12.24新潟地裁)が、署名簿の中途部分(全体の3分の1程度)には署名年月日の記載があるものの、その前半及び後半部分には署名年月日の記載がない場合は、署名年月日が署名期間の中に入ると推定できない限り、当該署名年月日の記載のない部分の署名は無効である。
署名収集期間内に署名をした事を示す事項である、署名年月日ですが、早く始めすぎても、遅くなってもダメという事です。ただ、連続した署名簿の中途が空白であっても、その両端が日付があれば有効と認められうる(有効とも無効ともとらえられる)ということです。
4.氏名が自著でない場合(有効な代筆署名でない場合を含む)その1
署名は、必ず自著であることが必要であり、自著でない署名は無効である。ゴム印、活字、字型等による氏名の記載のように自著でないものは無効である。
大原則ですね。ところで「字型」って、テンプレートの事かなぁ?今時の人たちは知っているのだろうか(苦笑)?
(私は手書き図面世代です)
4.氏名が自著でない場合(有効な代筆署名でない場合を含む)その2
・たとえ本人の押印があっても、氏名が自著でなければ無効とする(昭21.12.27実例)
会社職場の契約書等でよくある、氏名を印刷した書類に押印するパターンは無効です、ということですね。
4.氏名が自著でない場合(有効な代筆署名でない場合を含む)その3
・明らかに同一筆跡による多数の署名(例:同一家族の数名の署名)は、その代筆であることが明白な場合は、本人の自著と認められるものを除き無効である(昭23.6.18実例、昭23.12.1実例)。ただし、この場合、連著のうち何人を有効とするか判断が困難な場合には、証人尋問等により確認の上、決定することが望ましい。
同一筆跡・多数署名の時に、本人が書いたと認められる1筆は有効という事です。ただし、だれのが有効かは尋問等で確認しましょう、ということ。ただし、この同一筆跡については以下もあります。
4.氏名が自著でない場合(有効な代筆署名でない場合を含む)その4
・署名中に2個以上の同一筆跡のものが存する場合には、反証のないかぎり、同一筆跡で書かれた氏名をもつ者のうち1名が他を代筆したものと推測しうるとしても、実際においてその1名の者が自己の氏名を自著したことの証拠がないかぎり、これら署名のいずれをも自著と認めることはできない(昭29.9.30神戸地裁)
こちらは、同一筆跡で、何故に同一人が書いたか判然としないものは、すべて無効という判例ですね。
ここまでで、同一人筆跡の複数人署名があっても、1名有効となる場合、全員無効となる場合の2ケースあることがわかりましたね。
ただし、大事な事として「反証がないかぎり」「証拠がない限り」というフレーズ。
すなわち、無効と判定されても、異議申立で再審査の余地があるとも解せますね。
4.氏名が自著でない場合(有効な代筆署名でない場合を含む)その5
・名の部分が自筆であれば、その氏の記載が自筆でなくても有効である(昭23.10.31実例、昭24.1.20実例)。
家族の連名や一族連盟のケースでしょうかね?氏をだれかがまとめて書く、ゴム印押す等であっても、名だけ自筆ならよい、という事かな?
5.印がない場合 その1
押印することは氏名の自著とともに有効要件であり、これを欠く署名は無効である
大原則ですね。
5.印がない場合 その2
・押印の代わりに拇印を押した署名も有効とする(昭23.4.12実例、昭23.8.13実例、昭29.9.30神戸地裁、昭37.3.20佐賀地裁)が、なるべく印鑑を用いることが適当である。
拇印で有効ということ。ただし、印鑑がbetterですな。次が微妙な解釈をしようと思えばできなくもない。
5.印がない場合 その3
・他人の印鑑を借りて押印した場合でも、署名者がそれを自己の印として使用する意思で借用押印したものであれば、自己の印鑑と同一視し、有効な押印と解すべきである(昭28.12.26徳島地裁)
あくまで、署名者の意思によるものであり、印鑑そのものが本人のものである必要ではないという事ですね。
・印影の内容が署名者の氏名と関連性を欠く場合でも、署名者が自己の印として使用する意思をもってこれを押印したものであることが認められる以上、有効と解する(昭33.6.10最高裁)
これも、あくまで署名者の意思次第ということですね。
・署名者の意思に基づいて押印されている限り、必ずしも署名者本人が押印する必要はない(昭25.12.23広島高裁)
くどいようですが、署名者の意思が重要であって、押印作業の本人実施が必須要件ではないということですね。
さてここまで。署名者の不備しがちな事項を、意思を尊重して判断すべしという姿勢が理解できます。
一方、以下は邪推です。一連の「押印」は印鑑を用いたものを想定していますが、それを
・拇印は押印と同じ効力がある
・「押印」部分を「拇印」と読み替えたら…
というのは考えすぎかな?そんなリスキーな行為するかなぁ…
7-1.その他(第三者が収集した場合)その1
署名の収集は、収集権者(請求代表者及び受任者)により直接行われるべきであり、それ以外の第三者により収集されたと認められる署名は、無効である
大原則ですね。
7-1.その他(第三者が収集した場合)その2
・収集委任前に集められた署名及び郵便又は回覧式により収集した署名は無効である(昭28.8.25実例、昭33.1.11実例。昭26.9.10実例)
実はこの「回覧式」というフレーズは、約10年前の名古屋市議解散請求時も出てきたフレーズです。
一部から「回覧版とともに回ってきた」との証言があったとか…
関係あるかどうかはわかりませんが、非常に多数の無効判定が出て、異議申し立て、再調査でひっくり返って…がありました。
このあたりも、名古屋市議解職請求での「ノウハウ」でしょうね。
(しかし今にして思うと「回覧版」は事実なのか、嘘情報なのか…ただ、そんな噂を立てるだけでも、直接請求そのものに胡散臭さを付与することは十分可能ですね)
・数人の受任者が1冊の適法な署名簿で署名を収集した場合で、その中の1名が無資格者であったときは、その無資格者が収集したと認められる署名は無効である(昭33.1.11実例)
これもなかなかポイントと思います。「受任者」が「無資格者」とは何か?端的に言うと、「署名収集できる地区」以外の「受任者」も該当します。
例えばの想定です。
請求代表者Aさんが、受任者欄空欄の署名簿で署名収集活動をしていたとします。そこで、別地区の受任者Bさんも応援で呼びかけ活動していました。第三者同伴での署名収集は問題ありません(昭28.6.12最高裁)。
しかし、署名をした人が「Bさんの呼びかけに応じて署名しました」「Bさんに説明してもらいました」と証言した場合、その署名は「無効」と解釈できます。
リコールの会ボランティア誓約書で「受任者と名乗ってはいけない」というものがありました。当初、私も何故だろう?と疑問に思っていましたが、本件理由で、署名が無効となることを防ぐため、と解釈すると納得できました。(正しいかはわかりませんが)
振り返ってみると…
さて、ほかにも要件、実例はありますが、興味深いものをピックアップしました。これをえいやっと丸めると
・少なくとも氏名の名前だけは、自著しないとだめ
・押印ないし拇印は必須。押印は本人の意思の下であれば、本人が押すものでなくともよい(後からまとめ押しでもよい、という解釈ではないと思いますが)。
・住所や日付が自著でなくともよい
一部報道や、問題提起の仕方について
一部請求代表者、ボランティアの方が、「不正署名」の問題を提起していらっしゃいます。また、報道(東海テレビ)も追跡取材等を実施しています。
不正を疑い、世に問う姿勢は理解できます(手段を理解するかは別ですが)。ただ、日付の不備、住所の同一筆跡だけでは、すなわち「無効」とはならないというのが見えてきました。
実際には、氏名部分、特に名の部分の同一筆跡等の確証をとられているとは思いますが、丁寧な説明としては、
プライバシーの観点から氏名部分は公開できないが、公開している住所部分と同様、氏名の特に名前部分についても、同一筆跡での筆跡が見られる。
ぐらい言えると親切だったかなぁと思います。
住所部分や日付部分の同一筆跡をことさらにアピールするのは、上記判例・実例を知らなかった、調べなかっただけだと思いますが、実際はどうなんでしょうね。(マスコミさんはどうなんでしょうね?素人が調べられるぐらいだから、それぐらの裏どりはしてると思いますが)
愛知県選管の調査方法と公表の仕方
さて、調査をするといっている愛知県選管(実際は各市町村選管が実施でしょうが)。有効数を公表するとの噂もありますが、先のnote記載記事からも、本記事からも、署名者聞き取り・証人尋問無しでは
①確実に有効なもの
②確実に無効なもの(形式的にダメ等)
③有効、無効の再調査が必要なもの
の3通りにしか分類できません。また、我々は1回目の選管調査で、これら①~③の比率が「いつもどれぐらい」なのかが判りません。
ゆえに、公表の仕方次第でミスリードしかねません。
・①のみ公表⇒②+③がすべて無効ととられかねない
・①②③の比率公表⇒おそらく②が多い。それはそれで、報道の仕方次第で「怪しい署名が多い」とあおる事もできれば、「署名の有効性判定というのは難しい」と課題提起もできる。
(まぁマスコミさんの多くは前者でしょうが)
聞き取り調査は選管はやらないけど、警察・検察が行う、なら、個人的には納得感があります。
最後に
判定の難しさ、公表の難しさが見えてきました。
選管の取り扱い、警察・検察の動きに注目したいです。
また、一部の数字を「政争」に使う輩が絶対に出てくると思います。それらの点も留意しながら、経過を見守っていきたいですね。
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