直接請求における委任状の押印について(私見)

はじめに

愛知県知事リコール活動。この記事執筆は2021/1/18ですが、署名簿の選管調査ももうすぐ終わりそうですね。調査内容もですが、選管の発表内容にも要チェックです。

さて、そんなさなかに、委任状における押印印章の名前が、請求代表者の姓と違うもので運用されていたとのツイートが出ていました。
今回はそれについて、各種調査内容と合わせて、私見を書いてみたいと思います。

なお、くどいようですが、法律関係の素人が、自分なりに調べ、考え記載した記事です。正確なところは、弁護士等の法曹関係者や、選挙管理委員会等に確認してください。

委任状とは?

最初に委任状について記載してみます。
直接請求の署名収集は、決められた人しか実施してはいけません
それは以下の2名(2種類)

・請求代表者
・受任者

また、各々で収集にあたっての制限もあります。

・請求代表者:署名活動範囲内どこでも収集可能
・受任者:自らが所属する選挙区内でのみ収集可能

また、受任者になるためには、請求代表者からの委任が必要です。
正規の受任者である事を証明するのが、委任状の役割。

ゆえに、署名を行う人が、その署名収集がいかがわしいものでなく、直接請求活動のものである事が確認できるように、受任者収集時は委任状の提示が必要となります。

ちなみに、他に提示必要なものは、請求代表者証請求要旨になります。
また蛇足ですが、10年前の名古屋市議会解散請求時は、委任状等を両面刷りにした署名簿に対して、「裏を見ないと確認できないような署名簿は収集違反で無効だ!」と行政訴訟を起こした名古屋市議さんがいましたね。だれかはわかりませんが。

委任状の必要要件

委任状は、以下の項目が必要です

①委任する相手の姓名等
②受任した年月日
③委任行為を行う人(請求代表者)の氏名及び押印

ここでの姓名等や氏名、日付は、自著の必要はないです。しかし一方で、押印は必須です。
過去の直接請求事案を見ていても、複数請求代表者の署名活動において、この委任状に押す請求代表者の押印が1名抜けていただけで、その署名簿すべてが無効とすべきという行政事例はあります。

また、日付も重要ですが、日付記載無についての無効判定は微妙(後述)。一方で、日付記載のいつ委任を行ったか?が大事です。
具体的には以下です。

・請求代表者が「私が請求代表者だー」と宣言できるタイミング以降
且つ
・受任者が、「私が受任者だー」として署名を収集するタイミング以前

一つ目の「請求代表者だー」宣言は、実例では請求代表者が請求代表者証の交付申請をし、受理されたタイミングとされます。
この手続きは、

①請求代表者証申請の受理
②選管による請求代表者の資格確認
③請求代表者証の発行
④公報等での発表

の4つのタイミングがありますが、①以降であれば、請求代表者証発行の③を待たずして実行できるようです。

ちなみに、この日付も、署名の有効性確認の判定項目に当たります。

以上のうち、委任状の押印不備及び日付不備の実例は以下

まずは、押印無しは無効、日付記載なしも無効の実例

〇委任状の不備と署名の効力
(昭和二五、七、二五、自行発第一五二号 徳島市選挙管理委員長宛 行政課長回答)
問 令第九二条第一項の署名簿に付した委任状の委任月日及び請求代表者中一人印もれがあった場合において、第七四条の三第一項第一号の規定を適用し無効としてさしつかえないか
答 お見込みのとおり

もう一つ。こちらは委任状の瑕疵に対する実例

〇委任状の瑕疵と署名の効力
(昭和三〇、一二、一、自丁行発第一八一号 広島県総務部長宛 行政課長回答)
問 令第九二条第二項の規定による署名収集の委任状に次のかしがある場合、その委任状を付した署名簿になされた署名は、法令の定める正規の手続きに寄らない署名として無効であると思うがどうか
一 委任年月日の記載が全く欠けている委任状
二 請求代表者の氏名が自著されているが、印がない委任状
三 請求代表者氏名が記名(自著でない)されているが、印が無い委任状

答 一 当該署名簿の署名が委任後になされたものであることが明らかである限りは、当該署名は当然無効とは解されない
二、三 お見込みのとおり

この二つの実例から、委任年月日記載については、瑕疵であると認められ、且つ委任年月日と署名の年月日の整合性が取れれば有効となる可能性があると思われます。

しかし一方で、一つ目の実例のように「日付記載ないから無効」というのも正しい判断

ゆえに、本件は正規の有効数に達した場合の審査としては、詳細調査ないし、縦覧後の異議申し立て有効・無効どちらにもなりうるものと、私は推測しました

押印の姓名違いに対する有効・無効判定

私の自己流の調べによる結論を先に述べます。

請求代表者の姓名と、印章の姓名が異なっていても、必ずしも無効にはならない。また、有効ともならない。どちらの可能性もある。

そんな馬鹿な?と思う人も多いと思います。
実例集に載っている内容を抜粋します。

〇委任状の瑕疵と署名の効力
(昭和三一、五、三〇、自丁行発第三七号 茨城県総務部長宛 行政課長回答)
(長いので前略)その委任状に次のようなかしがある署名簿の署名は、「法令の定める成規の手続きによらない署名」おしてその全部が無効となるか。
一 請求代表者に「大畠」の姓を有するものと「大端」の姓を有する者とがある場合において
イ 「大畠」の氏名の下には「大端」印を、「大端」の氏名の下には「大畠」の印をそれぞれ取り違えておした委任状のとき
ロ 「大畠」の氏名の下には、成規の印をおし、「大端」の氏名の下には、右の「大畠」の印を押した(他の署名簿に付してある委任状には、それぞれ成規の印が押されているから、明らかに「大端」の印をおす意思はあつたと認められるが、誤って取り違えたものと思われる。)委任状の時。
(後略)

答一 イ、ロとも押印が単に取り違えてされたと認められる場合に限り有効と解する
(後略)

次は、委任状の押印ではなく、署名者の押印についての記載内容。
ただ、読んでも強引な解釈と受け止められるのをわかった上で記載します。

〇内縁の妻の用いた印
(昭和二九、七、二六、自丙選発第三七号 山口県選管宛 選挙部長回答)
問 県下某市の議会解散請求において甲野太郎の署名(印は「甲野印」)の次に左記署名がある甲野花子の署名の効力についてご教示願いたい。
一 甲野花子(印は「甲野印」)
二 甲野花子(印は「山田印」)
三 甲野花子(印は「山田花子印」)
備考
 甲野花子は河野太郎の内縁の妻(戸籍は山田花子)で一、二、三とも自著し、他に署名無効の理由が無いとき、選挙人名簿に甲野花子と登録されている場合と本名の山田花子と登録されている場合とに分ち、それぞれのしょめの効力についてご教示ください。

答一 選挙人名簿に甲野花子と登録されている場合。
  一 有効と解する。
  二、三 本人の印と認められる場合は、有効と解する。
 二 選挙人名簿に山田花子と登録されている場合
  一 本人の署名及び本人の印であることが確認できる場合は有効と解する。
  二、三 本人の署名であることが確認できる場合は、有効と解する。

実はこの氏名と押印名称の違いに関する、署名の有効性判定はかなり種類があります。家族共用の印鑑、名前付きの印鑑、名前付き印鑑の名の部分を隠した印鑑 などなど。

ただ、総じて言えるのは、

有効とも無効とも解せる
判定には、本人の意思がどうだったか
が必要

だと、私は理解しています。

対処はどうすべきだったか?①押印印章間違い

さて、ここからは私論です。まずは押印印章間違い

最初に、押印用印鑑の作成ミス。押印用印鑑の発注&検定について。
間違った原因は、発注時のミス、業者のミスの可能性はありますが、一般的に取引上では、物を受け取り支払いの約束となる検定行為が重要になります。残念ながら、今回のリコールの会の当該検定者は、基本的な事務的行為を行う事が出来なかったのかなぁと思います。

次に、仮に気づかずに押印し、受任者に配布してしまった後で気づいた場合。
一番よいのは、当該間違い署名簿を回収&廃棄し、もう一度署名を取り直すことです。当然ながら、受任者及び署名者に負担を強いりますが仕方ありません。

それができないと判断するならば、そのままでは選管での審査時に無効と解される可能性が十分あります選管に相談し、私であったら間違えた委任状の配布先なり、委任期間なりを伝え、審査時の有効判定をお願いします
選管がダメと言ったら、最初の回収しかありませんが)

一方で、選管相談しOKがでればこの限りではありませんが、署名収集後に委任状の押印を訂正するのはNGと解されるのでは?と考えます。
それは、委任行為を署名収集後に行ったと解されるのではないでしょうか?
であれば、間違ったまま提出し、選管に「間違えて押しました。請求代表者本人押印意思はあります」としたほうがbetterと思います

いずれにせよ、すぐに選管に相談することが一番大事ですね。

対処はどうすべきだったか?②委任年月日未記載

委任年月日の未記載について、それが瑕疵であれば有効と解される可能性はあります。が、わざわざ審査が微妙になるような状態で提出するのはいかがなものかとも思います。

ゆえに、日付未記載に気づいたなら、署名簿破棄なりして署名を取り直すのが一番良いやり方と思います。

一方で、白紙委任状を渡して「あとで日付書くから」との発言をどなたかが行ったとの情報もありました。
これが事実だとすると、そもそもその行為がNGかと。

委任を行った日を、そもそも書こうとせず、あとから記載するというのは、瑕疵に当たるでしょうか?むしろ偽造に当たるのでは?

その発言をされた方は、制度を理解していないか、契約等事務手続き能力が欠落されているかのような方だったと推測してしまいます。残念ですが。

最初から無効を狙った行為か

一部で、これら行為が「最初から無効を狙った行為」との批判も見られます。たしかに可能性としては否定できませんし、請求代表者全員がグルであれば十分あり得る話だと思います。

一方で、請求代表者の一部ででも、当該日付未記名、ないし押印が瑕疵によるもの、と主張すると、非常にややこしいことになります
事務局内ないし請求代表者の一部が仕組んだこととすれば、単に選管の審査を混乱させ、結果無効にもならない可能性を残す、非常に稚拙で残念な手法と私は思います。

結局のところどうなのか

一連の事象が瑕疵であるとすれば、事務処理能力、異常発生時の対処能力に難ありな残念な事務局の担当者がいた、という事だと考えます。
一方で一連の事象が故意であるとすれば請求代表者37名全員グルで悪だくみを行った、許されざる行為である、もしくは、事務局ないし請求代表者の一部が仕組んだとすれば、制度理解も研究もまともにできてない、素人が邪魔しているだけの阿呆の実行かな、と思うところです。
(個人的には、37名全員がグルとは思えないですが…)

最後、ちょっと言葉が汚くなりました。

皆様はどう感じられましたか?

今回はこれぐらいで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?