署名簿書式を科学する 署名の無効化を防止するために(超おおざっぱ)

はじめに

愛知県知事リコール活動を考察するうえで、約10年前の名古屋市議会解散請求の事案の振り返りを行ってきました。その過程で、解散の直接請求にかかわる裁判の内容や、今回の愛知県知事リコール活動で用いられた署名簿の書式情報を見ていくうちに、よく工夫されてるな、改善の余地はまだまだあるな、と感じました。以前、受任者への発送作業に係る記事を上げましたが、今回は署名簿の書式について、生産工学的視点で、署名の無効化を防ぐためにどうしたらよいかの私見を述べます。

今回は陰謀だとか不可解だとかの要素少な目。
(いや、つながるんだけどね)
いたって専門的で真面目なお話です。

なお、今回もあいかわらず文中にFTAの手法を使っています。片手間で記載したものなので、超おおざっぱです(苦笑)。興味を持った方は、ググってみて、自分で勉強してみてください。日常生活での作業ミス防止にも、ロジカルに考えるという点では参考になりますよ(笑)。

<前回記事です>

署名の無効化:署名簿そのものが無効になるとき

不正署名だ偽造だ云々の前に、署名簿そのものが一発無効となる事案があります。署名者の記載内容などを吟味する前無効判定です。それはどんな事案でしょうか?

詳しく確認したい方は、上記記事をお読み下さい(笑)。

選管における署名簿判定フローは

形式的審査 ⇒ 実質的審査

のフローでした。

私が今回取り上げる署名簿の一発無効は、この「形式的審査」で無効となる事案です。

形式的審査の内容

前に私が上程した記事をコピペします。

ア 署名簿の提出:法定期間内に提出されたものか?
これは、仮提出も含め期間内に提出されたものであること。期間外提出は審査せず却下です。(ここでいう却下も重要な用語なので注意。受け取らないという事です。)
イ 署名簿の審査:正規の形式的要件を備えたものか?
ここでの審査事項は以下の5項がポイントです。
 ①受任者が選挙人名簿に登録された人か?
 ②請求書があるか?
 ③証明書があるか?
 ④委任状があるか?
 ⑤その他(ってなんだよ?)

今回取り上げるのは、上記の「イ 署名簿の審査」の内容です。

署名簿の審査で無効となる事例

①~⑤の審査内容がありました。このうち、受任者を決める以前で無効となる可能性のあるものは、②~④。
ぶっちゃげ、落丁などです。

署名簿ver1.0 古典的署名簿

まず、従来から使われていたと思われる署名簿の様式です。
ここでは、署名簿ver1.0と称することとします。

署名簿1.0

これは、請求要旨や委任状、署名簿など別々の紙で用意し、ホチキス等で綴じて作るものです。束になりますので、署名「簿」と称するのかもしれませんね。
ちなみに、2020年末に実施されている、横浜市長リコールの署名簿はこの形式のようです。
詳細未確認ですが、地方自治法施工例等でも、この様式が書いてあったような…(ここはうろ覚え・未確認)

署名簿ver1.0 使用上の注意

たくさんの束を作ることになりますので、落丁させるリスクがどうしても生じます。また、各種判例・実例から、注意点として以下が挙げられます。

束をばらして収集はダメ(目的を隠して署名させる可能性)

ばらして綴じなおした形跡がある場合、書類整理のためなら有効目的や委任状等を隠しての署名収集なら無効
 ⇒いずれにせよ、有効性に対し異議申し立ての対象になりうる

・請求代表者印は1個でも欠けたらだめ

・請求代表者証受付日と委任年月日と署名の年月日の整合性も必要

結構、関連判例で「綴じなおし」審議が見られます。
署名活動過程で外れてしまった場合の綴じなおしは有効ですが、その綴じなおし痕跡を以て「請求要旨を隠して署名させたのでは?」の疑義は言われてしまう可能性が十分残存してしまいます。
それが、今回注目する署名簿ver1.0の課題です。

署名簿ver2.0:奈良県生駒式署名簿

名古屋市議会解散請求では、新しい書式の署名簿が使用されました。

前回の上記記事ではさらっと流して詳細は触れませんでしたが、裁判の争点の一つが「署名簿の書式」でした。

このあと紹介する署名簿ver2.0は、奈良県生駒市市議解職請求で用いられた書式のようです。それと同様のものを、名古屋市議会解散の署名活動で使用されていました。

署名簿2.0

あまりに大型アップデート、画期的と感じたため、勝手に署名簿ver2.0と名付けました(笑)。
これは、4種の書類を両面刷りで1枚に仕立ててしまうという手法。
印刷の仕方を間違えなければ、「綴じる」というプロセスがなくなり、落丁のリスクがゼロになります

この手のリスク対策、ダブルチェックだーチェックリストだーでは、多少リスクの低減はできてもゼロにはできません
しかし、署名簿ver2.0では、落丁に関してはゼロにできています
このように、作業プロセスを省略することでミスを減らすというのは、生産工学的には非常にオーソドックスな考え方、ですが実際はなかなか考案できないものです。

蛇足ですが、私の会社でもトラブルや失敗に対して、すぐに「チェックリスト」「ダブルチェック」「管理職による確認」を対策にしようとします。
まぁ、管理者の実力が落ちていて、見切れていないのも実態ですが。。。
んでもって、その上の上層部が、今の管理職を育ててこなかったことに起因するのですが…
あとは、部下側から見て、一部上層部は「ダブルチェック」「管理者チェック」で満足してしまうというのを見透かしており、そういう対応ばかりしているのもあると感じています。。。だめだこりゃ。

署名簿ver2.0のFTA的評価:無効化の確立算定

さて、プロセス省略で得られる効果を算定してみましょう。
一旦、入れ忘れ等をすべて2%の確立(50枚に1枚)と置きました。

FTA署名簿

署名簿の不備・不完全を最上位事象におき、次の事象は「書類不備」「記載不備」の二つ、さらにそれらの要因を分解しています。

綴じ形式のver1.0から、両面擦り形式のver2.0にすることで、赤枠部分の発生可能性が0%になります。
トータルでは、15%の不具合確率だったものが、7.8%まで低減できていることが予想されます。

このことから、直接請求活動事案に関しては2つの事が言えると思います。

①奈良県生駒市のリコール活動で、この署名簿を考案した人はすごい!

②名古屋市議会解散請求で、生駒の署名簿を見つけてきて、運用した人はすごい!

ともに、私には「凡ミスで無効署名が生じないようにしたい」との思いを感じ取ってしまいました。

新たな課題と署名簿ver2.5への大型アップデート

ここまで、署名簿ver2.0のすごさを記載していきましたが、それでもいろいろな課題感が生まれました。

詳細は、上記の名古屋市議会解散請求をふりかえる その5を参照ください。

議員からの質問で、一部飛ばしのように思える質問もありますが、不正な収集活動、不正を疑われる収集活動について言及がありました。

ちょっと長文ですがコピペします。

 テレビの映像や実際の署名の場面を見ておりますと、この署名簿を裏返しにしまして、署名欄だけで並べて署名を集めておられます、呼びかけております。これでは、実際、署名をしようとした方に、請求の趣旨が署名をやる方は読めません。しかも、この署名用紙は、ここに本来、受任者の名を書く欄がありますけれども、これは裏返しにしてありますから、だれが集めているのか、受任者の名前が見えません。
 そして、お聞きするところによりますと、請求代表者と受任者の署名について、同じものをどうも使っておられるようであります。街頭で各区の署名用紙を並べている場合に、請求代表者の署名なのか、受任者の署名なのか、外からは判然としないわけであります。
 これではだれが署名を集めているのか不明であり、署名の収集方法が適切とは考えられませんが、選挙管理委員会としてどのように対処されるのか伺います。また、収集に使われている用紙は、法律に定められた様式から外れており、署名簿とは言えないと思いますけれども、いかがでしょうか。
 市民の皆さんからいろいろと通報をいただきます。その一例を紹介しますと、金山の駅で16区の署名用紙を並べて署名を集めていたので、請求代表者はいるのですかと尋ねたら、今、こちらに向かっていますと、こういう答弁でした。この場合、請求代表者がいないのに他人が署名を集めていたということで、違法行為であります。
 この間の土曜には私自身が確認をしましたけれども、三越前でネットワーク河村のTシャツを着た若者が数人、画板に署名を16区分束ねて署名の勧誘を行っていました。あなた、何区ですかと言うと、開いてくれるんですね。受任者なんですかとお聞きしたら、違うと言うんですね。あそこにいる請求代表者から頼まれて集めているんだと、こういう話です。中日ビル側に請求代表者が見えましたけれども、実はこれも違反だと思います。
 そのほか、喫茶店に置いてあったとか、回覧で回したとか、マンションの掲示板に張ってあったなどと市民から通報がたくさんあります。そのうちの幾つかは選挙管理委員会にも通報が行っていると思います。
 先ほど私は、市長が署名を主導することは法の趣旨に反すると指摘しましたが、署名の現場でも違反行為が続出し、法律が予想もしなかった事態となっています。このような事態に対し、選挙管理員会としてどのように対処されるのでしょうか。街頭署名の現場に立ち会って指導するとか、調査を行い、不法行為を是正するべきと考えますが、いかがでしょうか。

ざくっとポイントをまとめると

・署名する欄の裏に請求要旨が書いてあると、請求要旨を見ずに署名させるのではないか?
受任者用と請求代表者用を一緒にしていると、だれが集めているのかわからない
請求代表者の収集の場合、選挙区ごとに署名簿を分けて準備しないといけない(署名者に何区かと聞き、署名簿を取り出す手間がある)。

じつはこれら3つ、少なくとも後ろ2つは、愛知県知事リコール活動の署名簿では改善されています。これを署名簿ver2.5と称したいと思います。

署名簿2.5

受任者用署名簿と、請求代表者用署名簿を分ける。
かつ、請求代表者用を1枚1筆とする。

これは、上記の「受任者か請求代表者か」を解決し、且つ「請求代表者用に選挙区ごとに署名簿を準備」を無くしています。

特に「選挙区ごとの署名簿」レス化は、以下事項のミスのゼロを実現しています。

・署名者の住所言い間違い
・署名者の住所聞き間違い
・選挙区ごと署名簿の取り出し間違い

その代わり、請求代表者用署名簿の選挙区ごと仕分け作業が必要にはなりますが、上記3リスクで「異なる選挙区に署名」した場合、その署名は無効になります。また、後から署名の分割(ちがう選挙区へ1筆だけ移す)もできなくなります

愛知県知事リコールにおける署名簿は、名古屋市議会解散請求時の反省をしっかり活かして改善されているなーと思ったところです。

さらなる改善へ。署名簿ver2.8への道?

さて、愛知県知事リコール活動において、残念ながらヘンテコ署名の発生問題が生じてしまいました。
全貌はまだ見えていませんが、一つは、受任者用署名簿を請求代表者用として使用していたようなものも見られているようです。
ver2.5では、受任者用のものでも、使おうと思えば請求代表者用として使用できることが若干の課題感でしょうか?
また、今後ヘンテコ署名の全貌が出てきたところで、次の機会に直接請求を行う方、団体が、さらなる発展形のver2.8(なぜか6と7飛ばしw)、ないし全く新しいver3.0生み出すことを期待したいと思います。

蛇足 リコール事務局(の一部)の思想

今回、こうやって調べ、まとめ、私の印象です。

愛知県知事リコール活動において、今回の署名簿の書式やシステムを考えた方は、よく地方自治法や過去事例を勉強し、研究し、成果を出されていると思いました。私は技術者として、その姿勢・成果を尊敬します。

さすれば、これを考えた人はあくまで真面目にリコール活動をしようとしていたんだろうなーと思うところです。

そう思わせ、信用させることを目的に…だったら、少なくとも私はまんまと騙されたわけですが(笑)

皆様はどう感じられましたか?

今回はこれぐらいで。


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