なぜ分院展開・複数医院展開している歯医者は質が低いのか

下記のnoteにも書きましたが、いわゆる分院という形で、一人のオーナーが複数の医院を経営している歯科医院は、ほぼ粗悪な医院と断定してさしつかえありません。

これはもう事実としてそうなので、「そういうものだ」とだけご理解頂ければ十分です。


しかしながら、他の業種を連想すると、例えばマクドナルドやユニクロ、セブンイレブンなど、全国的に広くチェーン展開されている企業は商品品質も安定していて、信頼のおけるものばかりです。

ですから、「歯科医院もたくさん医院を展開している方が一定の信頼をおけるのでは?」と考えるのは、自然な発想でしょう。


しかし残念ながら、歯科医業というビジネス(あえてこういう言い方をしますが)は非常に特殊ゆえ、この理屈が成り立ちません。
むしろ「分院展開・複数医院展開している」という事実は、「その医院が粗悪である」という、強い判断根拠となります。

今回はその理屈を詳しく話していきたいと思います。

結論に至るにあたって、いくつか前提を理解して頂く必要があるので、それらの前提から順にご説明していきますね。



前提1. 患者さんは歯科医療の質を判断することができない

これは下記のような記事でも繰り返し書いてきたことですが、患者さんは歯科医療の質を判断することができません。


それは下記は2つの理由があるからです。

1. 歯科医療の大半において、目の前の問題を解決することは容易であるため、医療の質で差が出てくるのは、数年後、数十年後だから

2. 歯は一本一本状況が異なるが、同じ歯を同時に複数の歯医者に治してもらい、比較することが不可能だから


要は
「結果が分かるのがメチャクチャ遅い」
「他と比較ができない」
わけです。


ラーメン屋さんをイメージしてみましょう。

あなたはラーメンを注文しました。そのラーメンが届くのは5年後です。
そのラーメンが美味しいかどうか、今すぐ分かりますか?

あなたは一生のうち一度しかラーメンを食べることができません。
今あなたが食べたそのラーメン屋さんが、世界で何番目に美味しいラーメン屋さんか分かりますか?

分かるわけないですよね。


歯医者というのは、こういった構造的な問題があるため、患者さんがその医療の質を判断することが不可能なんです。



前提2. 技術が高いだけでなく、誠実で倫理観の高い歯医者しか、質の高い歯科医療は提供できない

気難しい頑固オヤジがとてつもなく美味しいラーメンを作る。
いかにもありそうな光景ですよね。

技術は技術。性格は性格。
だから、技術が高くてメチャクチャ美味しい料理を作るけど性格は最悪。
そんな料理人はいますよね。


もちろん歯科においても技術は技術。性格は性格。
技術が高くて性格がダメな人もいれば、技術が低くても誠実な人はいます。

でも質の高い歯科医療を提供してくれる歯医者さんは、
・技術が高い
・誠実で倫理観が高い
両方を満たす歯医者さんです。
絶対に、必ず、です。

「技術は高いが倫理観は低い歯医者さん」が質の高い歯科医療を提供することはありません


これは先程の

「患者さんは歯科医療の質を判断することができない」

という前提があるからです。


5年後にならないと食べてもらえない(代金は今すぐもらえる)ラーメンにこだわりを持つことができるか。

世界中にラーメン屋は自分しかいない。
どんなに手を抜いてもお客さんはウチに来るし、どんなに頑張ってもお客さんは増えないのに、日々勉強し技術がを高め、目の前のお客さんに常に全力投球することができるか。

これはもう合理性で考えたら絶対にできないことです。


たとえ患者さんに理解されなくてもいい。
自分が評価されなくてもいい。
利益が出るどころかコストばかりかかって、お金を損したって構わない。

それでも5年後、10年後、数十年後に少しでも患者さんが健康でいられることが嬉しい。

そう思える、極めて誠実で倫理観が高い歯医者さんしか、質の高い歯科医療を提供することはありえません。

だって自分には本当に何の得もないからです。



前提3. 分院は医療の質を担保することができない

先に例を挙げた、マクドナルドやユニクロ、セブンイレブン。
みんな全国的に広くチェーン展開されていますが、商品品質はとても安定しています。
「このお店ならどこで買ってもいつもと同じものが手に入る」と信じられますよね。

ということは、歯医者さんも同じようにうまくやれば、きちんとした質を保った医院をたくさん展開することも可能な気がしないでしょうか?

歯科業界にはたまたま天才経営者が誕生していないだけでは?
そう思えますよね。


でも、そうではないんです。

その理由がここで説明する
「分院は医療の質を担保することができない」
という話です。


マクドナルドやユニクロ、セブンイレブンに当然のようにある前提。

それは「お客さんが、自分に提供された価値を理解できる」ということです。


美味しい料理が提供されれば、欲しい服が買えれば、欲しい商品が買えれば、それは嬉しいですよね。

まずい料理が出されたり、買いたい服が全然なかったり、買おうと思ったものが品切れだったりしたら、悲しいです。


お客さんは自分に提供された価値が自分で理解できているので、良いと思ったらまた行くし、お金を使います。
ダメだと思ったらもう行かないし、お金も使わない。クレームすることもあるでしょう。

だから、こういった店舗は売上や顧客満足度調査やクレームによって、そのお店がきちんと価値を出せているか、全体像をある程度把握することができます。
その上で問題があればひとつひとつ深掘りして解決することもできるわけです。


ところが、歯科医療の質が患者さんに分からない以上、売上や来院患者数は、医療の質を推し量る指標になりません。
どんな指標でも医療の質を推し量ることは不可能です。(10年間データを取り続けることで、10年前の医療の質をおおざっぱに推定する、くらいなら可能ですが、もちろん日々の現状把握や改善には役に立ちません)

ということは、質を担保しようと思ったら、もう常にその医院の質を監視する人を置くしかありません。
でも歯科医療は治療が終わってしまうと質が分からないものが少なくないので、ちゃんとやろうと思ったら診療中ずっと監視する必要があります。本当に質を保とうと思ったら、一人に一人ずつ監視が必要。

そしてその監視も高いレベルが必要です。歯科医療は極めて広範に渡るので、ちゃんと監視しようと思ったらすべての分野で専門医を持っているようなレベルが必要でしょう。
これはもうコストが莫大にかかるだけでなく、「この世に存在しないレベルのスーパー歯科医師」を大量に雇用する必要があります。

つまり不可能です。


分院を作ったら、もうその医院の医療の質は無視するしかないんです。

だから、分院を作る歯医者さんは医療の質を無視していいと思っている、つまり誠実さがなく、倫理観が低い歯医者さんでしかありえません。
したがって、医療の質が低い歯医者さんということになるんです。



補足. 質の高い医療を提供する歯医者は決して規模拡大を目指さない。目指すことができない。

「前提2」で、質の高い医療を提供する歯医者は、技術が高いだけでなく、誠実で倫理観が高い、という話をしました。

さて、技術が高く、倫理観も高い歯医者さんが、新しく勤務医を雇おうと思った時、どういうことが起こるでしょうか?


倫理観が高いので、自分の医院で質の低い医療が提供されるのは我慢ならないですよね。
ということは、自分とそこそこ同レベルか、自分以上の技術を持つ勤務医しか雇いたがりません。

ところが、自分の技術も高いと‥‥高ければ高いほど雇える人がいなくなってしまいますよね。


技術が高ければ高いほど、倫理観が高ければ高いほど、つまり医療の質が高い歯医者さんほど、勤務医を雇うのは困難になります。

実際、私が見聞きする範囲ですが、質の高い歯医者さんはほとんどの場合、歯科医師は自分一人で医院を経営しています。多くてもプラス1人。

5人も10人も雇っていて質が高いというケースはゼロです。


質の高い医療を提供する歯医者さんは、分院を作るどころか、たった一人勤務医を雇うことすらしない。できないものなんです。



結論

それではここまでの話を整理しましょう。


まず最初に、

前提1. 患者さんは歯科医療の質を判断することができない

という話をしました。


これによって、

前提2. 技術が高いだけでなく、誠実で倫理観の高い歯医者しか、質の高い歯科医療は提供できない

前提3. 分院は医療の質を担保することができない

という2つのことが言えます。


分院を作る歯医者さんは、医療の質を担保しなくていい、無視していいと思っている歯医者さん。つまり、誠実でなく倫理観が低い歯医者さんです。

誠実でなく倫理観が低いということは、医療の質が低い。

つまり分院を作る歯医者さんは医療の質が低いと断定できるわけです。


細かいことを言えば、分院のオーナーである歯医者さん(理事長といいます)自身の質が低くとも、実際に分院を運営する分院長がちゃんとすればまともな医療が提供される可能性はあるように思えます。

しかしながら、人事権や材料などクリティカルな部分は理事長が握ってしまいますし、売上のノルマを課すことで、患者さんの健康のためにやるべきことをどうやってもやれない構造に設計するのが常です。
また、分院長は売上に応じた歩合給を与えられ、5年後10年後自分が辞めるころに患者さんにトラブルが起きた場合にも逃げることさえ可能な状況に置かれるため、ほとんどの場合、理事長以上にモラルが崩壊し質は下降の一途をたどります。


分院がある歯医者に行ってはいけない、と覚えておきましょう。



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