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アンティークショップを営むアメリカ人の友人の家で見たもの

久しぶりに、アンティークショップを経営している友人に、国境を超えてアメリカに会いに行った。と言っても、うちから車で一時間半くらいなんだけど。

アンティークショップの女主人と言うと、どこか憂いがあって、物静かな、白いフリルのついたブラウスに黒いスカートで、紅茶すすってるイメージだけど、彼女はそうではない。

膝丈ジーンズに、スニーカーで、精力的にアンティークショップやら、ガレージセールをまわって、掘り出し物をいつも探している。

自宅をアンティークショップと兼用にしているので、玄関からベッドルームまで、売り物のアンティークが所狭しと置いてある。

今回久しぶりに会いに行ったので、家の中の在庫(?)が一新されていて、だいぶ長い時間をかけて、室内を見て回った。

彼女の扱っているアンティークは、王道のブリキのおもちゃや、ジュエリー的なものもあるけれど、なんだか怪しげで、よくわからないものも多い。

どれだけ怪しいかと言えば、例えば、おどろおどろしい上に、古いからペンキが剥げ剥げのピエロの操り人形とか、1950年台に作られた装飾された牡羊の角笛、1860年代の薬瓶とか、1950年代に描かれた人体解剖図などなど、そういうのが、そこらじゅうに置かれている。

天井からも、いろんなものが吊り下げられているので、とにかく、まわりに気をつけて歩かなければならない。

リビングに向かう廊下で、不注意にも天井からぶら下がっていた何かにぶつかってしまった。

「やばい!」と思って見てみたら、鉄製のでかいTバックって感じのもので、胴回りの部分には、ちゃっちい鍵もついている。

「これって……」
「あ、そうそう。19世紀の貞操帯」

……。

びっくりしすぎて、言葉を失っていたら、
「まあ、これは本気のやつじゃなくって、なんていうの? プレイ的なもので使われてたものだと思うよ」
とのこと。

あ、だったら別に……。

ってそういう問題じゃない。
とりあえず頭ぶつけちゃったじゃないよ、貞操帯に。

「ねえねえ、こんなにいろんなものに囲まれて生活して、気にならないの?」
「何言ってんの。自分が『いい!』と思ったものを仕入れてるから、それに囲まれて生活できるなんて幸せな事なのよ。たとえ、売れ残ってる物でもね」

彼女のお父さんも商売人で、しかも、ニューヨーク育ちだから、小さい頃から目利きをしていて、そのキャリアは何十年にもなる。

私もよく、お宝ハンティングにつきあうんだけど、例えば、だだっ広い体育館みたいなスペースを細かく分けて、個人の貸しスペースにしてあって、それぞれが家の中にあったものなのか、どこかで手に入れたものか知らないけど、とにかくランダムに古いものが、所狭しと展示されている。

ただの古本や古着にしか見えないものから、昔、おばあちゃんちで見たような花柄のずっしりと重い食器とか、使えるんだか、使えないんだかわからな古いレコードプレーヤーとか、ラジオまで、とにかく雑多に置いてある。

一度は、なぜか日本の『金鳥』のでかい木製の看板があって、思わず見入ってしまったこともある。

でもまあ、私なんかは、その物量に圧倒されてクラクラしちゃうんだけど、彼女はずんずん歩きながら、ピンポイントで手に取って、必要ならばどんどん購入していく。

店を出た後で、「これ見て」と言ってネットでみせてくれた商品は、彼女が支払った額の何倍もの値段で取引されていた。

私にはガラクタにしか見えないし、似たようなものでも、こっちのは高値で取引されてるけど、こっちのタイプは人気がない、とか、頭の中でデーターベースが完璧に出来上がっているみたいだった。

彼女とも、あちこち旅行に行ったんだけど、私が二日酔いで寝てる時でも、朝、静かに出て行っては、その土地で開催されてるアンティークフェアとか、ガレージセールに必ず足を伸ばしている。

だから、旅行から帰る時は尋常じゃない量の荷物になってたりする。ある時は、後部座席に子供くらいのサイズの大阪の『くいだおれ人形』みたいな古い操り人形にシートベルトして一緒に帰ったこともある。

なんていうのか、彼女が自分の仕事に誇りを持っているのは手に取るようにわかるし、楽しんでいるのもよくわかる。実際、学校出たとか、資格を持ったとかだけでは、絶対に手に入れられないスキルを持っていると思う。

そして、どうにもこうにも人を惹きつける魅力がある人で、だからこそ、くっちゃべりたいだけのために私も国境超えてわざわざ、会いにいくってもんだ。

ただ、せっかく会いに行ったのに、久しぶりのビールで眠くなって、ちょっとだけ昼寝、と言って、ひとんちで二時間爆睡したのは、我ながら、人としていかがなものかと思う。

焦って起きたら「私、あと一時間もしたら、就寝時間なんだけど」と、彼女に笑われてしまった。

どうやら、今はオンラインが主な販売方法で、コロナ以降、とんと人と会うことが少なくなったのが、とても寂しいらしい。

「どうでもいいけど、引っ越すとか言わないでよね」
と言われて、ちょっと日本に永久帰国しようかと思ってる、なんて言い出せなくなってしまった。

〜終わり