543. 多少でも役に立ったのなら

昨年10月頃、3軒の新築一戸建てが完成し売りに出された。
買い物に行く際に通る道すがらにあるので、否が応でもその販売状況を確認していた。

まず1軒、買い手が決定した。
その1軒は交通量が少ない道路に一番面している。
使いやすそうなので、真っ先に売れたのも分かる気がする。

残り2軒はなかなか決まらなかった。
目の前を通るたびに、不動産屋が掲げた看板が風を受けて寂しそうに震えていた。

そうこうしているうちに、2軒目の住人も決まったようだ。
看板には「残り1棟!」と書かれていた。
1軒目は引っ越しが完了したようで、自転車が2台止められていた。

普段、平日の夕方にその物件の前を通りかかるため、不動産屋のスタッフはいない。

ある日、土曜日の昼間に通りかかったところ、不動産屋の車があった。
どうやら土日の昼間は現地で店番をしているらしい。
看板をちらりと見ていたところ、「お客さんが来た!」と思われたのか、スタッフが車から瞬時に現れた。

話しかけられたので色々と話をしていたところ、自分が買い物に行く商業施設のことになった。
徒歩と自転車しか入れない別の入口があるのだ、という話をしたところ「そんな所に入口があるんですか!」と驚かれた。
不動産屋のスタッフが知らないのも無理はない。
彼らは車で「出勤」するので、実際の生活をした場合の想定はつきづらいのだ。

その他、この土地の良いところを瞬時に思い出しながら色々とスタッフにインプットした。
少しでも残り1軒の販売に役立ててくれれば良いなと思いながら10分ぐらい話をした。

その翌週はまだ売れていないようだった。
同じスタッフが店番をしていて、「裏の入口、分かりました!」と言っていた。
実際に行ってもらえて嬉しい。

そしてその次の週の平日の夜に通りかかったら、販促グッズはすっかり片付けられていた。
昼間は嵐のようだったので吹き飛ばされないように片付けたのかもしれないと考えた。
いや、もしかしたら売れたのかもしれない。

翌日、改めて確認したところ、土曜日だったのにも関わらず案内看板などは片付けられたままだった。
どうやら売れたようだ。

自分が不動産屋のスタッフと話してインプットした内容が成約のきっかけになったかどうかは不明だが、少しでも先の10分間トークが役に立ったのなら光栄である。

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