Shanghai Fashion Week | ユースパワー

ホテルのテレビでふと観た中国版ニコニコ動画「bilibili」のNASDAQ上場のニュース。“中国版“と言っても本家とは全く異なる会社—パクリだったはずなのにも関わらず、グローバル的に本家を抜いてきた事実が衝撃的だった。視聴者のほとんどが、いわゆるZ世代と言われていて、本家よりも最終的により良いクオリティのコンテンツを提供するようになったことがこの成果に結びついたという。(登録せずに誰でも観られるし、もやはNetflixもYouTubeもニコニコも全てが集約されているのだ)他にも中国版ウーバー「滴滴出行」が最終的にUBERの中国市場を譲渡されたという話題も以前盛り上がっていた。(総ユーザー数4億5000万人を味方にUBERと市場を争う中、今年2月にはソフトバンクと提携したことが話題に。今後日本でも普及するのだろうか)いままでは”パクリ“とレッテルを貼られていた中国も今やセンスがある若者たちによって、グローバルな系譜を取り入れつつ本家よりも飛ぶ鳥を落とす勢いで良質なものを提供しようとしていると感じる。それは上海ファッションウィークのメイン会場とその近くで開催していた若手プロジェクトのショー会場の違いにも表れていた。一人っ子政策を受けてきた新しい世代が変えていく力が強い時代に入ってきたのだ。

これまで何も注目を集めてこなかった上海ファッションウィークに急な白羽の矢が立ったきっかけは、LABELHOODと海外への繁殖にある。(と思う)いずれも、これまで中国では何十年か前にもデザイナーズブランドが輩出されたが、時代のマーケットとは沿わずビックヒットまで届かなかった。そして日本と同じでやはりSNSの波及力によりこの時代に生まれた新生児(若手デザイナー)は幸運に恵まれた。(なので、初めてデザイナーズブランドが生まれたというわけでもない)

(instagramでフォロワー数が少なく見えても実はweiboでのフォロワーはまあまあいたりする。日本でいうTwitter文化に似てる・・?)

彼らの登竜門が、上海ファッションウィーク中に開催されている若手支援プロジェクト「LABELHOOD」。

主催は、これまた中国若手ブランドを中心に取り扱っているセレクトショップ「長作棟梁」。共同経営者のTasha Liuは、去年日本でもトークイベントを開催していたが、2009年に同店を設立後、2015年と16年には「The People Shaping the Global Fashion Industry(世界のファッション業界をつくる人たち)BoF500」トップ500にランクインしている。

Tasha Liuはまだ33歳だが、同店を立ち上げたのは24歳の頃。31歳の頃ー2016年頃にLABELHOODをスタート、そして今回はメイン会場から歩いて15分程の距離に会場を設置して徐々に上海ファッションウィークの目玉コンテンツとしての勢いを創設後早2年で見せ始めている。会場内のスタッフは、ほとんどが20〜30代前半。LABELHOODと書かれたコーチジャケットやベストを自分のスタイルと組み合わせながら、それぞれが個性的な格好を着こなす。

さて、なぜそんなにLABELHOODは注目されているのか、若者を魅了するのか。個人的にはロンドンのFASHION EAST, NEWGENに似たような仕組みをデザイナー、ショー、メディアと全てが束になって渦を起こし始めていると感じる。同時に、果たしてプロジェクトが期待されているように上手く継続するのか、それが今後の要なような気がする。(日本はファッションに限らず何故か国外から期待された後終息しがち)

1.デザイナー

デザイナーの経歴を見ると殆どがセントマ、パーソンズなど海外留学後帰国し活動をスタートしている。(少し前の日本の状況と似てるかもしれない)セントマの友人からも中国人留学生の数は徐々に増えてきたとは聞いていたが、デザイナーになるための方法の1つとして海外留学は欠かせない経験になってきているようだ。実際、海外留学を目指す学生向けの予備校も増え、講師には現役デザイナーが立っている。(ブランド以外の資金源が得られる)そうやって国内には逆輸入の波を複数人のデザイナーで作り出しながらも、対外的には留学時代にコミュニティを作る機会や中国人の横の繋がりで現地に根が張りやすくなるという傾向もある。それを後押しする施策もメディアによって行われていることは下記の2.メディア のパートで。

そんな彼らが目指す場所としてLABELHOODの存在が確立したのは公募制であることから。審査員には依怙贔屓にならないように主催者以外の人間もいるという。そのため、出場ブランドは特に同じPRに偏ることなく、ブランドの毛色もウェアラブル、パフォーマンス力、数シーズン活動を続けているなどそれぞれバラバラだ。参加したブランドは、会場貸し出し、ヘアメイク、モデルなどの協力が特典として付いてくる。

2.メディア

書店に行っても中国ならではのファッション雑誌は少なく、あったとしてもVogue,Numeroなどの中国版だ。むしろ日本の雑誌の方が多い。(フォトグラファーやデザイナー話していても日本の雑誌への憧れが強いようだ)

とはいえ、紙媒体に露出してなくとも、密かにグローバルウェブメディアの中国支局が存在しているのが今このタイミングで強い波及力を持ち始めている。

Bussiness of Fashion 中国支局

元々グローバルなメディアが中国支局を設けているのは、I-D CHINA, VICE CHINA, NYLON CHINAがある姿から察していたが、Bussiness of Fashionも存在する。今回はSusie Bubbleをおそらく招致して(初めて上海ファッションウィークに訪れたという)、こちら記事を公開。

https://www.businessoffashion.com/articles/bubble-speak/how-shanghai-fashion-week-got-its-groove

GQ china

日本でGQと聞くとなんともおじさん雑誌に聞こえるが、ロンドンメンズファッションウィークに行けばもっと寛容的な雑誌であることが見て取れる。ショー会場内のカフェスペースにはGQ UKが置いてあり紙面にもNEWGENなどに参加する若手デザイナーについての特集が組まれている。GQ chinaは、さらにフィジカルに、メンズコレクション中に彼らのスポンサード枠が設けられていて毎回中国ブランド1組がショーを発表できる。(次回はStaff Onlyが参加) おそらくそのままパリでの展示も経験できるのだろう。上海ファッションウィークに行く前からロンドンでなんとなく中国デザイナーの名前を覚えていたのはこの刷り込みによるものだ。

3.ショー

ショーの構成は2部に分かれていて、

11:00-11:30 Proffessional (メディア、バイヤーなど) / 12:00-12:30 Public(一般)といった感じで時間が区分されている。一般といっても、誰でも入れるわけではなく抽選で選ばれた人のみ入れる。

毎回テーマを設けてるのか分からないが、今回のLABELHOOD全体のテーマは「メトロ」。会場受付からインビチケット(インビを見せた後にさらにチケットがもらえる。そこにVIPと書いてもらえれば並ばずに入れる)まで徹底的な演出。

ショー会場は、Aホール、Bホールと二箇所で交代で行われる。良くも悪くも今回はメイン会場との連携もあり、都心部の会場で収容人数やダイナミックな演出は難しかったようだが、どのブランドにも一貫して言えるのは「アピール力」「プレゼンテーション能力」に長けていることだ。ランウェイショーをスタスタ行うだけではなく、インスタレーションに近い形でうまくブランドの世界観を表現している。(反対に製品の強度を演出によりカバーできるとも言える)

1日目 22:00 OUDE WAANG

CSM卒業後、ハイダーアッカーマンやチャラヤンでインターンシップを経験し、2016年にはRCAのマスターコースへの入学をフックアップされ、卒業コレクションではvogue italiから"vogue talent"の賞をもらう。このような輝かしい実績は、現地の若い子たちにも伝わり会場内も人で溢れかえる。

(RCAの頃の作品)

RCAの頃に制作していた服を想像していたが、おそらく「ウェアラブルな服」への意識が高くなってしまい、削ぎ落とされたオリジナリティというよりリックを連想させるような雰囲気になってしまったように思う。とはいえ、現地の子がショーの後熱狂気味に「コンセプチュアルな雰囲気が好き」と言った言葉が印象的だった。おそらくまだトレンドを意識するかナラティブなブランドが多いのだろう、その中でアートとファッションの間を揺らぐような、なにかミステリアスな魅力を持ったブランドは珍しいのだと思う。


2日目 22:15 ANGUS CHIANG

今のところレディースもメンズも問わず参加できるLABELHOOD。LVMH PRIZEのリストにもノミネートしたことのあるメンズウェアが2日目の最終枠にて現地バンド「chinese football」のドリーミーな生演奏とともにショーを披露した。

台湾出身の彼は、故郷のShih- Chien Universityを卒業後、台湾代表としてLondon Graduate Fashion Weekにてコレクションを発表する。その後もFashion Scout、バンクーバーファッションウィークなど2015年にブランドを設立したばかりにも関わらず、既にパリとロンドンメンズでもランウェイショーを行ってきた。

日本であれば「こんな派手な異素材ばかりで購買に繋がるのか・・」と疑問を持ってしまいそうだが、この2日目あたりで様々な方向性のブランドを見てもどれも「我が道を行く」という良くも悪くもある意味アイデンティティをしっかりとみんな持っていることに気がついた。(闘う場所は国内ではなく海外という視点を持っているような気がする)はっきりとした販路先などは分からないけれど、「ショー」という場所でどのようにブランドの輪郭を形作るかというプレゼンテーション能力が高い。そういう姿勢からもどこかロンドンと似たような空気を感じる。(現地の子ともプロダクトは日本の方が良いのに、中国ブランドの方がアピール力が高いという話をしたり)

3日目 22:00  ANGEL CHEN

圧倒的な集客と熱気を沸かせたのがこのブランド。2014年にセントマ卒業、同年にブランドを立ち上げた。スキンヘッドの小柄な女性デザイナー本人もブランドのアイコンとなり、若年層のファンに包まれた会場となった。

中に入ってみると、3箇所のダンスフロアをスタジアムのように人々がそれぞれ囲む。現地のダンス番組Street Dance of Chinaとのコラボレーションにより、番組で踊るダンサーたちが新作コレクションを着用し、3箇所順番にダンスを披露した。(中には子供のダンサーもいた。)とにかく集客人数がとんでもなく多く、3箇所順番に踊っていくごとにそれを追いかけるかのように人が移動したりする躍動的な現場。

普通ならこの会場だけで終わるところを3日目最終枠とあってか、観客は最上階に誘導される。映画「パプリカ」の映像や曲が流れる中、ここでやっとモデルが着用した形でプレゼンテーションが開催。(とはいえ、本当に凄い人だかりで服は見えなかった。が、それでも会場を覆う熱気は私も興奮するものがあった)

4日目 12:00 SIRLOIN

ストックホルム出身のデザイナーと日本出身のデザイナーで結成されたブランドとあって、近年日本でも名前を聞くSIRLOIN。(以前ギンザのウェブでも取材した https://ginzamag.com/fashion/newgeneration_sirloin/)ブランドにミューズを掲げない代わりに「スチューピッドエレガンス」というコンセプトを軸にしてきた彼らの表現はこれまでも私たちを皮肉ぽい笑いに誘ってくれた。

ショーの前に渡された紙にはQRコードが。(少し余談だが中国は想像以上にQRコード文化だ。支払いだって、wechatpay,AlipayなどのQRスキャンで済ませる程現金が古い存在になってきている。)読み取りながらも会場に入ると、一面(カメラマンでさえも)緑。そこに携帯をかざすと目の前に砂浜と海の光景が広がる。

オンラインショップやアドバタイズメント、VRやARなどからインスピレーションを得たというコレクションは最近他のブランドでもフューチャリスティックな表現で発表されてきたように思うが、sirloinは実際に私たちがショーで携帯をおのずと片手に持ってしまう習慣をアイロニックに客観視しながらも2Dと3Dの境界線がない無二の世界を作り出した。この写真だとなんとも臨場感が伝わらないが、ここまで飄々と表現してしまう彼らのセンスには脱帽した。(展示会で実際に服を見ると意外にもディティールや素材への拘りに感心してしまう)


他10ブランド程見たが、ここでは一日ごとに印象の残ったブランドを。

日本は「凄いらしい」という噂が1流れればそれを既に打ち勝てない100%のものとして捉えがちだが、まだ上海ファッションウィークはオペレーションやプロダクトなど寄りで見れば日本の方が良質な所も全然ある。が、やはり異様なまでの発展のスピード感がこれから彼らのプレゼンテーション能力(訴求力)と合わさった時どのような化学反応を起こすのかと思う。彼らは国内でどんぐりの背比べはしない、闘う場所はみんなで団結して海外と、ということを知っている。




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