LABELHOOD Tasha Liu と話してみて

みんながカフェや行き場のない中、真冬のような寒さに凍えながらもショーを待つ。そんな辺鄙な場所でも4日間で2万人以上(東京ファッションウィークは1週間ほどで同じくらいの来場者数)が集まる、現実の寒さとは裏腹に熱狂に包まれる上海ファッションウィーク期間中に開催されるプラットフォーム「LABELHOOD」。

(毎回LANBELHOODが掲げるテーマに沿って、特設チケットカウンターが登場。ここで、自分の名前を名乗ってようやく メディア向けショーのインビが渡される)

今回はその「LABELHOOD」のファウンダーでもあり、ディレクターでもあるリュウ・タシャにやっと直接会い、数時間インタビューも兼ねてお互いの国のファッションシーンについて話した。これだけ隆起をみせる中国の経済ともに、ファッション、ITなどに、お互い対等な目線で日本の現状とともに中国の教育や今後のことについて質問すればするほど、終始、日本のファッションシーンへのリスペクトを伝えてくれて、マーケターとしての興味から逆に質問をしてきたりと活発的な対話を続けようとするその姿勢に結局、話を聞きにきたこちらが何故か励まされるというファッションを本当に好きであるならば共有できる初心に戻れた貴重な時間だった。(インタビューは近々日本の媒体で公開予定)

ファッション以外の分野でも言える、よく日本は国内経済でまず地位と売り上げを保てるという話の通り、国内には様々な同じジャンルの企業が乱立し、3大巨頭が各々の分野にいることが普通だが、中国では1つの企業がその分野を独占している状態に近い環境がざらにある。(もちろん最初は乱立しているそうだが)

バラバラのものをひとつに集約し、巨大化してみせるという手法が、LABELHOODにも見られることは前回の上海ファッションウィークについての note記事でも書いたが、今回もう少し詳細や現地のLABELHOOD関係者と話して分かったこともあったので、忘れないうちにここに書いておこう。

果たしてLABELHOODは / LABELHOODに参加しているブランドは、何で「凄い」思わせているのか?

この問いを自分で書きながらも困惑するというどうしようもない事態だが、行ったことないみんなに聞かれる質問でもある。

タシャのマーケターという背景からも考えると、インタビュー中にもタシャの口からも出たマーケティングの基礎である4Pの考え方(そして4Cは特に言及してなかったが、LABELHOODがパブリックに対してオープンなものを目指したいという意図から必然的に4Cも含まれるだろう)がこの盛り上がりの起因の一つになっているのではないだろうか。

4P と 4C

1. Product(製品) → Customer Value(顧客にとっての価値)
2. Price(価格) →Customer Cost(顧客が負担する費用)
3. Place(流通) → Convenience(顧客にとっての利便性)
4. Promotion(プロモーション) → Communication(顧客とのコミュニケーション) 

まずはLABELHOODの会場を見渡すと感じられる通り、そしてLABELHOODが公開する資料を見るとわかる通り、ほとんど運営側も来場者側も22〜30歳ほどがメインになっている。若くてある程度、「新しい」を探究できる年頃、彼らに対して、LABELHOODが意図的に、継続的なブランドの中に、デビューしたてのブランドを織り交ぜ、さらに活発化してる様子はターゲット層へのアプローチとして正しい。
LABELHOOD を「プチ原宿化」させていることから、スポンサーも「22〜30歳」と消費意欲に活発な年頃に向けてアプローチできるということで、年々そのスポンサーのグレードも上がってきている。

(DIESELは会期中 POPUPとワークショップを開催)

(ピンボケしてしまったけど、会場のスポンサーブースでは、 ポテチ会社 Lay's がLABELHOOD限定のフレーバーを何種類かその場でつくってくれて、寒くて腹ペコなショー待ちのみんなを唯一少し救ってくれた良きスポンサー)

なにより、ブランドがショー開催時にぶち当たる壁 = シューズ問題 を NIKE、CONVERSE の2ブランドを迎え入れることにより、なんなくクリアしている様子は、見ていて羨ましい。そして、CONVERSE においては、特定のブランドとのコラボスニーカーも登場。販路がどこにあるのか不明かつ、JWのコラボ程ニュースにならないものの素直に欲しくなるデザインをこなしてる。 (日本の伊藤忠とは違って、本国は2ブランドとも母体が同じ会社)


3. の考えは、LABELHOODが母体としてる「店舗」に帰結する。「中国でいま活躍してるブランドをまとまって見れる場所」として、国内外のポジションを取り、また運営側もお店発であることから、一般のお客様を巻き込むことの重要性も熟知している。そして、まさに「場」としてのパワーを増せば増すほど、お客様にとっては「あそこに行けば、服を買う以上の'何か'を手に入れられる」というほかとは違う特別な体験を意識、期待されることとなるのも予想済み。つまり、「LABELHOOD」が主語に立ち、それが関わるものならチェックすべき、という構造をつくった。

4. のプロモーションは、まさにLABELHOODの「なんとなく凄いらしい」を拡散させたきっかけそのものだ。LABELHOOD関係者との会食でも、「とにかくプロモーション!」と度々ブランドにアドバイスするほど、コミュニケーションと売買ともにSNSとオンラインをメインストリームとしてる彼らにとって理にかなうベストな手法なのかもしれない。
メディアによる効果よりも先に、自らプロモーションを仕掛けることで国内だけではなく国外にも直接リーチできる。(LABELHOOD公式資料には、PR VALUE(広告換算値?)が1シーズンにつき5千万RMBと記載してあるが日本円にすると気象庁と並ぶ巨額なのでたぶん私の解釈ミス)

LABELHOODオフィシャル資料によると、とんでもない数字の閲覧数が記載してある。

#labelhood2018ss #官方微博互动话题页面 の 閲覧数:5,338,000
(Weibo カルチャー枠ランキングで1位に。)
#LABELHOODSS2019 #官方微博互动话题页面 の 閲覧数:710.1 万


またプロモーションと謳う具体的な施策には、Zhang JiachengAudrey Hu、WALLPAPER CHINAを筆頭にフォトグラファーやスタイリスト、編集総力戦でビジュアル表現で世界へ発信する、そこを緒にブランドを知ってもらう、という仕掛けもタシャは理解して行っていた。それはロンドンで若手ブランドが輩出される時の様子とも似ているように個人的には感じる。

さて、 1. と 2. に関しては、LABELHOODだけではなく、中国のブランドも関係してくるが、ここに関しては これまで路面セレクトショップを主な販路としてきた日本のブランド、ファッションシーンの方が冷静に見ると成熟してるように感じる。
そんなの感じてると当たり前の話かもしれないが、「なんだか盛り上がってるらしい」という話と、このディティールの話はまた別なはずなのに、勢い負けでプロモーションに助長をかけるメディアもいるから、別の話であることを念のため明記しておきたい。

今回一緒にショーを回った、クレカ複数枚持ちが当たり前のファッションフリークで溢れてた90年代から今を見つめるバイヤーの方やその時代を青春とするデザイナーたちが言ってた通り、どんなにブランド名が大きくメディアに出たとしても(プロモーション効果が絶大だとしても/業界を味方につけれたとしても)店頭やオンラインでふと見かけて、購入に繋がる可能性まで含めた服づくりが最終的に肝になってくる、という話は改めて頷ける視点だった。
(可愛いけどNatasha Zinko が強気の値段でリステアで消化率100%という理由はNatashaフリークがいたら教えてほしい程に謎だが。)

タシャも話していたが、上海のライフスタイルは、taobaoなどオンラインショッピングが主流なため、(shushutongも朝から夜まで、衣食住すべてオンラインで賄えると言っていたがプロセスを聞くと本当だったことに驚くし、オンラインだけ成熟して路面はそのままの原風景というギャップはなんだかSFのようにも感じた)ブランドが自らオンラインを始めても芽が出ないし、かと言ってtaobaoにブランドが出すかというのもブランディングに関わる。そして路面店は毎シーズンごとに新旧回転し続ける、とリテールに関しての基盤がこれから成熟することで、1. と 2. に変化の影響が現れそうだった。(日本の場合、その成熟さが裏目にも出ることがあり、なぜかジャーナリストがその素材や価格帯、自分が着たいという気持ちを織り交ぜてブランドを持ち上げることもあるが)

そんな中、ANGEL CHENは、国内外にも卸先を持ちながら自社オンラインも開設。デザイナー自体が神格化されるブランドの性質上、どのようにオンラインとショップで区別をつけるのだろうと思うが、この考え方は日本の市場においての話だから海外や中国においては戦略があっての、かもしれない。http://www.angelchen.com/types/women

今回は ファッションウィーク中のメイン合同展のうちの一つである「ONTIME SHOW」にBritish Fashion Council と並ぶ目玉ブランドコーナーとして、特別感を放ち、ショーが始まる前には、ファンたちとその展示会で話せる時間を設けるなどしていたそうだ。(前回はショー終わりに、列をなしてファンが握手会を行っていた)

(Terminal A と B がある巨大合同展。今回はLABELHOOD会場が目と鼻の先だったため、さらにこの地域は優位だったようにも感じながら、上海に参加している東京ブランドは、もう一つの巨大合同展のMODE SHANGAHAIでもブランドによっては特に影響なく右肩上がりだったそう)

デビュー当時から、デザイナーの匿名性やコンセプチュアルな表現からLABELHOODで異彩を放つ、OUDE WANG はデビューコレクションから個人的になぜ人気? とハテナマークだったけど、今回のショーは更に実際のモデルが殆ど出てこない見せ方で、服を欲しいと思わせる意欲をどうかりたたせてるのか不思議だった。おそらく他ブランドと違って、コンセプトや表現に憧れて買う層が多いのだろうか。

東コレにも参加したSHUSHU/TONGは、東京で驚く程好評で、上海においてもヨーロッパ圏のバイヤーや国内大型百貨店の中にも入ったりと、着々と販路をちゃんと広げている。今のところ、LABELHOODの中で一番生き残りそうな気がしてる。もちろん、上海でも ギャルソンらしさは感じるか? という質問を受けたことを含めての今後の伸び代を期待して。( 中国 らしい という外野からの面白さは、ダントツでANGEL CHENだが)

(他のブランドはIG ストーリーに保存してあるので https://www.instagram.com/yoshiko_kurata/)

消化率や具体的な数字がないと、はっきりと比較はしづらいけれど、3. と 4. の力の掛け方や構造の組み立て次第で、ここまで 凄い と思わせられるのか、と改めて勉強&仕掛けたタシャを尊敬する一方で、まだ 1. と 2. に対しては、経済や文化、街の成熟を先に遂げた(流通も浮き沈みもすべて経験した)東京のブランドの方が、東京のブランドの服の方が、まだ優位であるように、LABELHOODに3回ほど通ってみて冷静な気持ちで感じた。

とはいえ、タシャは既に東京のセレクトショップやリテールとブランドの関係、そしてこれまでの東京のファッションシーンの変遷を理解していて、今の上海ブランドに必要なことは?と質問すると、いくつかの答えの中には、グルーバルのリテールを理解すること、も述べていたのだから「将来、ビジネスや経済、環境の変化とともに一緒に何か上海と東京でできることがあると思う」という言葉は確実に近い将来やってくることになると思う。

(インタビューの後は、「LABELHOOD」とは違った雰囲気のショップ「ASURNAMEbyLABELHOOD」に連れてってもらい、最上階には ギャルソンなどのアーカイブがどっさり。)

・・・おまけ・・・

ちょうど滞在中の土日2日間だけで、日本人オーナーが運営しているセレクトショップ「FASICART」にて、出版社・Same Paper のPOPUPが開催されてた。スクエア状の店舗に人がぎゅうぎゅう詰めでなかなか写真集を手にとってみるところまでも至らなかったけど、これだけ紙雑誌というよりwechat上の雑誌とかがメインストリームな中で、エッジな出版物ってどんな需要があるのだろうか、と想像してたことが可視化できて個人的にスッキリした体験だった。

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