見出し画像

なぜ、日本式の舌で発音指導してはダメなのでしょう(後)

英語の発音を指導しているすべての方と、本気で英語の発音を身に付けようとしている方 必読。

なぜ、日本式の舌、つまり舌に一切力を込めない状態で英語の発音を身に付けさせてはダメなのかと言いますと、そのような舌の状態では、発音を簡単に習得することができないだけでなく、日本式の舌の状態で身に付けた発音は、しばらく発音しないでいると、発音の仕方を忘れてしまうということになるからです。
また、幾ら発音練習をしても、学習者が身に付けたいと思っている英語の発音(音声がよく響くうえに呼気の勢いが強く、日本語の発音の調音位置が自動的に英語の発音の調音位置に移動する、…等)にはならないからです。

英語の発音に対し真摯に向き合っている人たちは、従来の日本人の英語の発音習得の方法に強い疑念を持ち、何とかしたいという思いから、“喉発音”や“腹式呼吸”あるいは “筋力の強化”といったように、色々な角度から「英語の発音の壁」の突破を試みました。
しかしながら、いずれの試みも幾つもの層からできている“発音の壁” を打破することができませんでした。

これらの試みを検証してみると、それぞれの試みの課題が見えてきます。
▶喉発音が“発音の壁”を突破できない原因は、一般的な英語学習者が喉発音で発音を習得しようとした場合、すべての発音を習得するのに6カ月あるいは1年もかかると言われています。
幾ら英語の音声の響きが身に付くからと言っても、これでは長過ぎではないでしょうか。
確かに喉発音をすれば、音声は英語のような響きになります。
そのため、発音指導者や学習者は、この響きにとらわれてしまって、習得に要する期間は気にならなくなってしまっているのではないでしょうか。
喉発音の信奉者の中には、発音を指導している人たちも多数いるようですが、発音を身に付けるのに何か月も掛けなければならないというのは、喉発音にとって致命的なエラーなのではないでしょうか。
また、喉発音をしている人たちの発音が、一律に低音だということも問題を含んでいるように思います。


(アメリカ)英語の発音には、音声の響き•呼気の強さ•(自然な)音声変化•(私たちにはアに聞こえる❲実際にもアと発音している❳英語の)ア系母音の区別の仕方 等々幾つもの側面があります。
これらの側面の中から1つだけを取り出して、“これが(アメリカ)英語の発音だ”と言われても、長年 アメリカ英語の発音を研究してきた私たちには???とならざるを得ません。

▶腹式呼吸が発音の壁を突破できない原因は、日本人は胸式呼吸で 英米人は腹式呼吸だという誤った情報を信じてしまったからではないでしょうか。
実は、私たち日本人も英米人と同じように呼吸しています。呼吸するたびにお腹が膨らんだり凹んだりするのが 腹式呼吸だとするならば、私たちも腹式呼吸をしていることになります。
私たち日本人が、シャシュショやチャチュチョを発音したときの息の勢いが弱いのは、胸式•腹式といった呼吸の仕方の違いではなく、単なる舌の状態の違いなのです。
これは、蛇口にホースを取り付けて水を出す場合、同じ水の量でもホースの先の水の出口を狭くすれば水の勢いが強くなるのと同じ原理です。
つまり、舌に力を込め、舌の後部を盛り上げて、舌の後部(奥部)と上あごの奥の部分(=軟口蓋)との空間を狭くしておいて発音する英語と、舌に力を込めていないために(=舌を緊張させていないために)、舌と軟口蓋の間が広いままで発音している日本語とでは、呼吸の仕方に関係なく、息の勢いが違うのは当たり前のことではないでしょうか。

腹式呼吸をし、絶えず息を強く出すことを意識しながら話すのと、意識しなくても自然に強い息を出せる状態で話すのとでは、どちらがストレスが小さいのか明白です。

▶口周りの筋力を強化しても英語の発音の壁を突破できない原因は、英語の発音を習得するのに筋力の強化は必要ないということだったのではないでしょうか。
筋力を強化するよりも、発音に慣れる、あるいは馴染むことのほうが優先されるべきではないでしょうか。
ひょっとして、慣れることや馴染むことを、“筋力の強化”と言っていたのならゴメンナサイ。

これまで長い間、日本では舌に力を込めることなく、(従って 舌の奥部を盛り上げることもなく) 英語の発音を身に付けようとしてきました。
その結果がどうなっているのかは、指導者や学習者の皆さんがご存知の通りです。


日本語には、アは1つしかありません。しかしながら、英語には、私たちにはアと聞こえる音が幾つもあります。
実は、(アメリカ)英語もアは1つなのですが、彼(彼女)らは口の開き具合を変えたり、声の出し方に強弱をつけることで、1つのアを幾つものアまたはアー(ə,ʌ,ɑ,ə:,ɑ:,ɚ)として発音しているのです。

日本式の舌では、口の開け方を変えて発音しても、声の出し方に強弱を付けて発音しても、アはアのままで変わりません。

ところが、(アメリカ)英語の舌にしておいて、先程と同じように口の開き具合を変えたり、声の出し方に強弱を付けたりして発音してみると、明確に幾つものアになることが確認できます。

昭和の時代に、当時 英語教育の第一人者と言われていた大学教授は、日本の英語学習者が母音の発音を身に付けるには、1年かかるとおっしゃったそうです。

当時の英語の学習環境と現在とでは、大きな違いがあると思いますが、私たちが日本語を話すときの舌の状態と、英語ネイティブの人たちが英語を話すときの舌の状態が大きく違っていることや、私たちの舌の状態を英語ネイティブの人たちと同じようにすることで、英語の発音があっけないくらい簡単に身に付くことに気付いていない点は、令和の今も遠い昭和の昔も同じだということです。

今日は、この辺りで終わります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?