松明花の在る所:喫煙席は貸切

「…それは、何、俺と別れたいってこと?」

少し減ったコーヒーに砂糖とミルクを入れてる彼。
笑ってはいるけど、とんでもないこと言ってしまったなぁ、と後悔。

「ううん、別にそういう意味じゃなくてさ。」
「ほんとに?」

目が笑ってない。
「に?」で口角が上がった口元はそのまま横にきゅっと縛られた。

そのやけに真剣な姿と誰に嫉妬してるの?私がそんなに好きかい?って笑いと、そんな自分に酔ってるだけで本当は私じゃなくてもいいんでしょって自傷が入り交じって数秒の間に自己嫌悪。

「ほんとだよ。優先って言ったけど、それは約束を破るわけじゃなくてさ……。例えば、あの子が泣いてたら、」

あの子は私たちの同期で私が1番仲の良い同期で友達。私が唯一恥ずかしげもなく迷わず言える相手で、あの子も私をそう思ってくれてるだろうって確信が持てる存在だった。私達が仲が良いって言うのは周知で、飲みや食事何かで周りの人がわざわざ2人の席を空けて「座りな」と進める程だった。
そんな子の話題だから名前は出さずとも、彼は私の言うあの子が誰か分かっているだろう。

「例えば、あの子が泣いてたら、迷わず私は話を聞いて味方になるよ。きっとあの子のことだから、自分の非と理不尽さに困惑してるだろうから、それも含めて絶対に否定しないで頷くと思う。」
「俺が泣いてたら?」
「…………、それも話を聞くだろうね。でも、おかしいなって思うことがあったら「これってこういうこと?」って質問しながら理解しようとするだろうね。」
「俺的には優しく宥めて欲しいんだけど。」
「それは私じゃなくてもお節介な誰かがしてくれるでしょ。」

不服そうに冷えたフライドポテトを咥える。さっきまで吸ってた煙草と味が混ざらないのだろうかとどうでも良い疑問が浮かんだ。

「ただ、それか同時だったら私はあの子を優先するよ。だから勝手に泣き止んでね。」
「……酷くない?」
「あの子を泣かせっぱなしにする私で良い?」
「せめてハンカチ……」
「貴方は少しくらい放っておいても大丈夫って信頼と甘えから来てると喜んでいただきたい。」

「そんなにあの子が大事?」やや不機嫌そうだ。しまった、やっぱりやりすぎた。どうして、こう、言い過ぎてしまうんだろう。せめてもっと冗談ぽく可愛い感じで言えてたら良いんだろうけど、そんな私はきもいな。
1本だけ、と言って火をつけていた煙草が灰皿に増えていく。「1本って言ったじゃんね。」と笑いあったのは1時間前だ。

「あの子は私に共感してくれて、貴方は私を肯定してくれるんだよね。あの子は同じ目線で、貴方は対等な立場で話が出来ると思ってんの。だからどっちも居心地が良くて困るんだよねぇ。」

次は何飲もうかなって、次入れる飲み物と味が混ざらないように氷で薄めた液体を啜る。

よく男だったら、女だったら、彼女と、彼と付き合ってた、とか表現するじゃん?
けどね、男だとか女だとかそういうの関係無しにできればあの子とはずっと一緒にいたいの。でもきっとずっと一緒にいたら私のことだからもっと「あれしてこれして」って言葉にはしなくても要求してしまう。そうなったらあの子も私自身も嫌いになってしまうから今の関係がいいな。
貴方は私に「好き」って言ってくれたでしょ?それに、貴方は男で私は女。だから、付き合ってるんだろうね。私は貴方にすごい甘えてるって自覚と罪悪感があるよ。

基本何でも貴方に話すけど、これだけはこの関係が壊れるんじゃないかって怖いと感じる言葉があるんだよ。

貴方、私のことそんなに好きじゃないでしょ?

そんなこと聞いたら悲しんで怒る貴方が目に見えてるから言えない。
知らないだろうけど、私も結構好きなんだよ。執着心なんかは私の方が強いかもね。
きっと別れて悲しむのは貴方の方だろうね。でも、きっといつまでも引きずるのは私だと思う。

「ラストオーダーの時間です。」

店員さんの声にふと、我に返る。
駄目だ、今日は考えてしまう。こりゃドツボにはまるぞ。

「何か頼む?」
「いや、いいかな。」
「じゃあ、私何かデザート頼む。」
「まだ食べるの」

飽きれたように言われたけど、聞こえない。
コーヒーゼリーにしようか、みかんゼリーも美味しそうだ、いや、アイスも捨て難い。

「すみません、ブルーベリーソースのヨーグルトとアイスを1つずつお願いします。」

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