「しんどい」と言った私のお母さん


何の話をしていてその話になったのかは忘れた。


でも、その日初めてお母さんの口から「しんどい」という言葉を聞いた。22年間弱音一つ吐かなかったお母さんが、だ。


私はたくさんたくさん泣いた。


どうしていいのかわからなくて、自分が親不孝なのではないかと思って、泣くことしかできなかった。

父方のおばあちゃん


私のおばあちゃん、お母さんの姑は、母と典型的な「嫁姑問題」の関係であった。


なぜかおばあちゃんはずっと昔から、私のお母さんを好ましく思っていない。それは私も知っていた。

嫌味を言ったり、子育てに関して口を出したり。


「嫌な感じ」とはお母さんも言っていたし、癇癪持ちでヒステリーを起こしやすいおばあちゃんには呆れていた。大きな癇癪を起こしたのは、私がまだ幼く記憶もない頃だったが、兄は鮮明に覚えていると言っていた。

おじいちゃんのこと


そんな姑となんとか母が付き合っていけたのは、おじいちゃんのおかげだ。


おじいちゃんはおっとりした性格で、私も映画館に連れて行ってもらったり、何に関しても否定はせず、ギスギスした雰囲気を和ませてくれる存在だった。


しかし、2年前だったか、もう向こうに何年も帰っていないので忘れてしまったが、おじいちゃんが倒れた。
幸い、お話もできるほど回復し今は施設で暮らしている。無論、もう認知症も進んでおり私のことは覚えていないのだがそんなことはどうでもよかった。



しかし問題が起こったのは、おばあちゃんの方である。

「おかしい」と気づいたお父さん


おじいちゃんが施設に入ったことでおばあちゃんがおかしくなっていき、異常行動が目立つようになり、このままでは精神が衰弱し自殺してしまうのではと思ったほどだ。


そんな話はなんとなく聞いていたが、当時の私には無縁のことで(どうすることもできないという点で)「大変だなぁ」と思うだけだった。


そんなことは私自身の問題と捉えず数年が経ち、2022年に私は大学を休学し2ヶ月間旅に出た。


親もいってらっしゃいと送り出してくれ、毎日投稿するInstagramの日記も楽しく見てくれていたとのこと。


無事に旅を終え帰ってきたその2週間後、私はお母さんの口から「しんどい」という言葉を聞くことになる。


というのは、私が旅に出ている間の数日間、両親がおばあちゃんの元に行っており、そこで精神に大きな傷を負ってしまったのだ。


施設に入ったおじいちゃんの諸手続きを行うため、また、おばあちゃんの様子を見に行くためであった。


その数日の間に、おばあちゃんが今までに無い大声を上げてお母さんを怒鳴ったという。

買い物から帰ったお母さんに向かって、「何もせんと遊んでばっかりで!」と。
お母さんが何か言おうとすると「何を口答えするか!」と、怒鳴りつけられたという。


他にももっと酷いことを言われたのだろうが、お母さんはそれくらいしか言わなかった。
言わなかったけれど、どれだけ怖くて辛かったのかは痛いほど感じられた。


後に聞いた話なのだが、私が旅に出ることに対しても良く思っておらず、「どんな育て方をしたんだ」とも言われていたそう。


私のお父さんは、今までおばあちゃんを「そういう人」としか見ていなかったのか肩を持つことも多かったが、その時初めておばあちゃんが「おかしい」と気づいたのだという。


お母さんにも、その出来事を詫びたと言っていた。

「しんどい」と言った私のお母さん


その出来事があってから、もう無理だと思ったお母さんはすぐに家に帰ったらしい。


しかし、今日、この話をしてくれたお母さんはこう言った。



「家に居ても、あの怒鳴られたことがきっかけで今まで言われてきた色んなことがフラッシュバックして何をしても気が気じゃない、リビングにいても台所にいても。

だから、仕事をしたり英語の勉強をしたりして気を紛らわせている。

PTSDになったみたいに、しんどい」


私は泣くことしかできなかった。

そして、その話を聞いて、そんな辛いときに娘が一人旅をして、さらに心配させるようなことをして申し訳ないと思ったことを伝えた。


「逆にいなくてよかったよ」とお母さんは言ったが、それが「梨沙もしんどくなるから」という意味なのか、「一人の時間が欲しかったから」なのかはわからない。


22年間で、こんなに辛そうに話すお母さんを見たことがなかった。


吹奏楽部で弱音を吐いた時に喝を入れてくれて、

受験を応援してくれて、

いじめに遭ったときは先生の対応に納得がいかず学校に電話してくれて、

喧嘩して家出した時も静かに受け入れてくれて、

休学して世界一周したいと言ったときも「いいじゃーん!」と言ってくれたお母さんが。


ずっとずっと、お父さんと結婚してからずっと、耐えてきたのだ


どうしたらいいかわからない今の私



お母さんの子どもである私がどうすることもできないとわかっているし、私のお母さんのことだ、気が病んでおかしくなる前に自分でなんとかするだろうとは思う。
私のお母さんはそういう人だ。



それでも、私はお母さんの「しんどい」という言葉を気にせずにはいられないのだ。



「このまま私はまた旅に出てもいいのだろうか。」

「私が居ない間に、もっと病んでしまっておかしくなってしまったらどうしよう」

「旅をすることは親不孝なのではないか」


父は単身赴任中、弟は大学の関係で一人暮らし、兄は仕事。ペットのボタンインコがなんとかお母さんの心を落ち着かせてくれるだろうか。


まとまりがなくてすみません。


たった4文字、お母さんの口から初めて聞いたその言葉を、私はどう受け止めたら良いですか?

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