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怒りと不満は(心の)垢である 中部#5 無垢経 読了

2023/05/05 に 中部#5 無垢経 Anaṅgaṇasuttaṃ を読了しました。

二大弟子であるサーリプッタ長老とマハーモッガッラーナ長老による「垢 (aṅgaṇa)」についての問答です。サーリプッタ長老らしい論理的・分析的な表現が散見される経典です。

「垢」に相当するパーリ語 aṅgaṇa の語釈は以下の通りです。

  • [水野] aṅgaṇa 穢, 煩悩

  • [雲井] aṅgaṇa 塵, 汚水, 穢 (漢), 罪障 (漢)

サーリプッタ長老は「垢」について次のように説明します。

‘‘Pāpakānaṃ kho etaṃ, āvuso, akusalānaṃ icchāvacarānaṃ adhivacanaṃ, yadidaṃ aṅgaṇa’’nti.
友よ、この〈垢〉というものは、もろもろの悪しき不善の欲求領域の同義語です。

片山訳 MN. I. 27

サーリプッタ長老は、「自分の思い通りにならない比丘」の例えを使って「垢」についてさらに説明します。

  1. ある比丘に欲求が起こる

  2. その欲求とは違う事が起こる

  3. その比丘は「怒りの者」 (kupita)、「不満の者」 (appatīta)となる

  • [水野] kupita a. n. 怒った, 瞋恚の, 憤激の, 混乱, 動乱

  • [水野] appatīta a. 不満足の, 喜ばない

比丘に起こる欲求としては、「他の比丘達、比丘尼達、在家達は私のみを尊敬し、敬愛し、供養するであろう。」というようなものが複数挙げられています。

この「怒り」と「不満」の両方が「垢」であると説明されます。

Yo ceva kho, āvuso, kopo yo ca appaccayo – ubhayametaṃ aṅgaṇaṃ.
友よ、実に怒りなるもの、また不満なるもの、この両者が〈垢〉なのです。

片山訳 MN. I. 27

比丘の状態を表した形容詞(過去分詞) kupita, appatīta の名詞にあたる単語が kopa, appaccaya です。

  • [水野] kopa m. 忿恨, 憤怒, 怒気

  • [水野] appaccaya n. 不満, 不機嫌, 不興, 憂悩

Itiha te ubho mahānāgā aññamaññassa subhāsitaṃ samanumodiṃsū’’ti.
このようにして、かの大龍は、お互いによく説かれたことを喜び合った、と。

片山訳 MN. I. 32

最後の文でお二人のことを、「大龍」(マハーナーガ, mahānāga)と表現しているのも素敵ですね。

パーリ文: tipitaka.org
片山訳: パーリ仏典 中部 根本五十経篇I 片山一良 (大蔵出版)
パーリ語釈 [水野]: 増補改訂 パーリ語辞典 水野弘元 (春秋社)
パーリ語釈 [雲井]: 新版 パーリ語佛教辞典 雲井昭善 (山喜房仏書林)

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