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必ず女性の女子プロレスファンは増えると確信した

強くなりたいと強く思う。心と体を切り離して生きてきた。しかし、心が辛ければ体は動かない。体が動けば心は躍動する。体を強くして、心を常に躍動させたいーー。キックボクシングジムに入会した。


これまでの人生でほとんど体を動かしてこなかったので、単純な動きすらできない。トレーナーの真似をして動こうとしても、打撃力とか以前に、体が思った通りに動かない。
昨年10月から一人で走ったり筋トレをしたりしているが、これらは難なくできる。考えずともできる。しかし、キックボクシングのミット打ちは、まず左足で踏み込んだらその勢いで左手をまっすぐ伸ばす、そのとき手の甲が上になる、体は真正面を向いたまま、重心は左足で、などと考えていると、体は頓珍漢な動きをしている。前の私はこういう時に「えへへ、できないや」と、とりあえず笑ってできないままにしていたが、今は真剣に強くなりたいので、笑わないようにしている。笑ってる場合ではない、「できないや」で済ませて笑ってたら、一生できない。この話を島田桃子氏に話したところ、大いに賛同し、励ましてくれ、とてもうれしかった。できなくていいと思うことならそれでいいし、できないことは悪いことではないが、できたいのにできない自分を自分で笑うのは良くない。冷笑ムーブを自分にまでカマすことを30年近くやってきて、そうやって私は今まで自分で自分の自己肯定感を削ってきた。しかし、もうそれはやめだ。

暑い朝だった。強くなりたい思いが勢い余って、私は仙台行きの高速バスに乗っていた。仙台女子プロレス道場が目的地だ。片道2800円。格安である。だから車内は劣悪な環境、ではなく、むしろwifiが飛ぶなどして、非常に心地よい環境であった。日本のサービス水準の高さとそれに見合わぬ価格設定に思うところはあるが、それは置いといて、強くなりたいという気持ちを沸々とさせながら、7時間弱揺られていた。

仙台駅からそれなりに歩くが、でも歩ける距離に仙女道場はある。私は迷子になったので1時間かかったが、多分30分程度で行ける。赤地に白字で「仙女道場」と書かれた看板が目に入った。明朝体だった。仙女道場の言葉以外にはなんの説明もなく、極めて硬派である。

仙女サークルはたった1000円で選手からの指導を受けられる。道場に到着、緊張。挙動不審な私を見かねて岡選手が更衣室の場を教えてくれた。更衣室で橋本選手に「歳近いっすね」、リングでチサコ選手に「お、初めて?」と話しかけられた。正直、かなり照れた。体育会系のノリって苦手とこれまで敬遠してきたが、素のまま話しかけてくるこの人たちは、眩しかった。映画館に一人でこもってニヤニヤしていた昔の自分、たまには外に出よ、仙女サークルへ行こう。

リングにいるときは、頑張って動こうとしてしまうのは、一般人とて同じなのかもしれない。
サークルが終わってロープをすり抜けた瞬間、足がガクガクして、腰は曲がり、よろよろ歩きになってしまった。それくらいに、私はリング上で無理に動いてしまった。
見たことあるからイメージである程度は動けるかと思ったけど、まず全然無理だし、というか、想像の倍以上、どれも高さとか硬さとか反動とかがある。リング上で自分以外の人が動くだけで、マットが揺れる。どんな人がどんな動きを、マットのどの辺でやるとこんなふうに揺れる、というのがレスラーの皆さんはきっとわかっているし、体幹が大木なみの揺るぎなさだから無事だけど、正直、カノン選手がロープワークしてるだけで、エプロンにいる私は落ちそうでした。参加者の若者が見かねて、「危ないから捕まった方がいいですよ」とタッチロープを示してくれた。選手は掴まずレフェリーに注意されるなどするが、素人はこれ掴んでないと下に落ちます。選手たち、これ掴まないで普通に立ってるのはなんなんでしょうか。私が個人的に一番揺れるなと思う電車である上信電鉄に迫る揺れ方でしたけど。。タッグの見方が今後は変わるなと思いました。

最後はなぜか、ソーラン節を踊るという。橋本選手に「ソーラン節知ってますか」と問われ、「はい知ってます、これですよね」とどっこいしょどっこいしょの手の振りをやったら、驚かれた。出身はどこと問われ東京と答えると「東京でもやるんだ」とさらに驚かれる。
人生には、過去にたまたまやったことが役に立つことがある。これを「スラムドッグミリオネア現象」と個人的には呼んでいるが、まさにソーラン節を知っていたことはそれだった。
みんなで輪になって数回練習した後、即席の発表会が行われた。チサコ選手と橋本選手が見守る中、リング上でソーラン節を踊る。見られていると思うと、恥ずかしくて、全力で踊れなかった。振り付けをちゃんと覚えてないものと心の中で言い訳したが、やはり、全力でやり抜くべきだった。チサコ選手に最後に、ちゃんとメリハリつけて、とお言葉を頂いた。(※あくまでも和やか!)それを聞き、次に参加するときは絶対に恥ずかしがらず、全力でやろうと思った。いやいや何を本気になってるんだと思われるかもしれないが、リングの上で何かをして見せるのがこんなに緊張して恥ずかしくて、これが観客がいたら全方向から見られてて、名前呼ばれたりブーイングされるって、耐え難いなと思った。それをみせているレスラーの覚悟とか矜持にも思い至った。だから、たとえソーラン節だとしても、私はリングの上で見せる機会を与えられたならば、全力でやるべきだったと反省した。

レッスンが終わり、リングから降りて、チサコ選手や橋本選手に興奮気味に色々と話しかけてしまった。体を動かしまくって、ロープの弾力を知って、マットの反動を知って、エプロンに立ってる時の心許なさを知って、トップロープの高さを知って、興奮してしまったのである。お二人に困惑されてしまった気がするが、それらを知ったことで、私の中でのある仮説がまた一つ説得力を持ってしまったから、興奮してしまったのである。それは、これだけのすごいことをやり遂げている彼女たちの存在とその表現するものが、必ずたくさんの女の心に突き刺さり、それはそのまま心に強い揺らがぬ芯として残り、生きのびるための強さを与えるに違いないということ。女子プロレスが今よりさらに女性ファンに支持される未来を確信し、「女の答えはリングにある」という書籍は、また一歩、ベストセラーに近づいてしまった。興奮やまず、サイゼリヤで肉の塊を食べた。

宿泊費をケチって、カプセルホテルに泊まったが、仙女サークルに参加した日は、ちゃんとしたベッドの部屋を取ることをお勧めする。かろうじて私は翌日起き上がることができはしたが。

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