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情けない日にプロレスを

心ここにあらずで生きているので、「ミス」をしがちだ。電車をのりすごしたり、さっきまで覚えていた30分後の打合せを急にど忘れしたり、映画館に来たのに前売りチケットを忘れたりなど、日常茶飯事。ああまたミスしてしまった、と、いつも私は情けない。

今日も情けなかった。

プロレスを観に、電車にのっていた。携帯の充電は、昨晩のうちにプラグにさすなんてこと、もちろんしなかったので、あと30%しかない。でも、今見ている韓国ドラマ「ロマンスは別冊付録」で頭がいっぱいだから、充電もないのに、それを見ていた。


それで、京急蒲田駅についた。PASMOのチャージ残高がどれくらい残っているかなんてのも、もちろん把握していません。いちかばちかでタッチしたところ、やはり、残高不足。チャージしようとしてリュックをあけると。財布がない。そうだ、今朝コンビニへいったときに別のバッグに入れ、そのままだ。

ここで途方にくれてしまった。チャージが出来なければ、改札の外に出られない。駅員さんにお金が借りられないか聞いたところ、それはできないという。試合が始まってしまう。ひとまず後で返すので、ということで、外に出させてもらった。

京急蒲田駅から大田区総合体育館までは少し距離がある。その道すがら、私は情けなかった。

到着すると、試合はもう始まっていた。暗闇に目が慣れず、自分の席を見つけるために、人々の視界を遮ってしまった。本当にどうしようもない迷惑人間である。

ようやく座ると、上谷沙弥選手が美しかった。泣いてしまった。さっき改札から出られなかったとき、大人だから泣かなかったけれど、本当は泣きたかった。大泣きしたかった。情けないし、何より心細かった。だから、舞うように技を繰り出し、倒されても食い下がっていく上谷選手を見たら、堰を切ったように涙が溢れてしまった。

その後の試合も、ことあるごとに、選手の皆さんが強くて美しくて、自分が情けなくて、泣き続けてしまった。

刀羅ナツコ選手は、自分の役割みたいなものを受け入れていて、美しい。

林下選手がこんなに感情むき出しというか、丸出しというかが見られて、嬉しい。

朱里選手の叫び声が、力強くこだましている。

どの瞬間にも、涙がこみあげた。


プロレスは、自分が情けなければ情けないほどに、泣いてしまう。

いつも心ここにあらずで、人生がままならなくて、でも生きづらさを主張するほどには生きづらくなく、ちょっと恵まれていて、でも情けなくて。泣いてる場合じゃないぞと生きている。

そういう私にとって、プロレスは、女子プロレスは、美しい。カッコいい。かわいい。憧れる。強い。偉い。すごい。好き。

すべての試合が終わり、とぼとぼと京急蒲田駅へ向かった。帰りの電車賃も、もちろんなかった。でも、クレジットカードはあるので、タリーズで高いラテを飲んだ。そのうち、父が迎えにきてくれた。

私を見つけると手をふってくれた。走って駆け寄ると、満面の笑みで私の頭をぽんぽんとたたく父。すごく久々に会った。思わず泣きそうになったけど、泣かなかった。

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