溜池

   溜池には、少女の屍体のようなものが投げこまれる。
 月のない晩、延々と森の中を引きずられてきた屍体のようなものは、長いため息とともに溜池へ投じ入れられる。それが本当に屍体だったか、あるいは精巧につくられた人形だったのか、知っているのは歌だけだ。外れた調子が正調とされる古い民謡だけが、一片の真実を伝える。
 月のない晩、溜池のまわりで酒盛りを続けてきた坊主たちは、間遠に手を拍ちながら古い民謡を唄う。同じ顔をした目のない坊主たちが一人残らず眠ってしまうまで、溜池のまわりで宴は続く、続いている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?