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「武闘派アルストロメリアとはなんなのか」/シャニマス/SideM雑記

夏だ。


そこで蝉が鳴いている。アスファルトから立ち上がる陽炎が世界を揺らし、小さな日陰に生き物たちが身を寄せている。

夜中家の前で鳴いていた蝉が、翌朝ひっそりとその6本脚を畳んで黙り込んでいる。


夏の思い出。


早くに起きて嫌々向かっていたラジオ体操は、いつの間にかいい思い出になっていた。

プールの冷たい水も、熱々のプールサイドも、全身を覆う疲労感もイヤだった筈なのに、今は友人と笑い合いながら過ごした自由時間が、私の記憶野にありありと刻まれている。



夏だ。


今も、昔も、ただ暑い夏。



0.前提

表題にある武闘派アルストロメリアについて語る前にひとつ、前提の情報を共有したい。

私がこれから話すのは、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』に登場するアルストロメリアと、『アイドルマスター SideM』に登場するTHE 虎牙道である。

もしも他の武闘派組織アルストロメリアなる集団がいたとしてもその話はできないし、あと別にTHE 虎牙道は武闘派集団アルストロメリアとして広く認知されている訳でもないことを承知しておいて頂きたい。

あと本当に、アルストロメリアとTHE 虎牙道に公式的な直接の繋がりはマジでない。


1.アルストロメリアとTHE 虎牙道

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画像左 アイドルマスターシャイニーカラーズ公式サイトより引用
画像右 アイドルマスターSideM GROWING STARS公式サイトより引用

武闘派アルストロメリアという言葉が生まれたキッカケは、単純に彼らが担うユニット内での立ち位置が類似していることだと思われる。

例えば両ユニットの各最年長である桑山千雪、円城寺道流は、おおらかで優しく、メンバーの2人を大切に思いやる描写が多い。
 大崎甜花と牙崎漣は傾向は違えどマイペースな所があり、ユニットにおいてある種の精神的支柱となる事もあった。
 大崎甘奈と大河タケルは年下2人の中では妹/歳下でありながらしっかり者の一面もあり、メンバーの世話を焼いたり叱責したりしている。尚、2人とも各ユニットのリーダーである。

シューティングゲームが得意な甜花と大河、ギャルの甘奈とギャルみたいな格好の牙崎という振り分けもあるらしいですね。マジで!?

 ただまあ、さすがに違う所もあるだろという声もありますし、そりゃあるでしょうねとも思うんですが、3人のその身内感、雰囲気のあたたかさが所謂擬似家族的な魅力を醸し出していて、その類似性が武闘派アルストロメリアを産んだのかもしれません。どうしたんすか冬優子ちゃん。なんかのモンスターみたいな言われようっすよ。

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 じゃあ武闘派アルストロメリアはその擬似家族的な共通点にTHE 虎牙道の格闘家要素をキメラしたモンスターだと締めてしまうのも味気ないので、もうちょっとだけそれぞれを掘り下げていくことにします。


2.ライバルだって思ってるから

アルストロメリアは当初「アルストロメリアは、3人で1つの花」というキーワードを筆頭に、“楽しいも嬉しいも幸せも共有して、3人でどんな困難をも乗り越えていこう”、という姿勢でいるように見えたが、2020年のイベント『薄桃色にこんがらがって』から“いつでも3人で同じものを共有できる訳ではない、いつまでも変わらないでいることは難しい”、という描写が増えてきている。

そんな折千雪が発した言葉は、春のうららかな日差しが差し込むようなアルストロメリアにとって突如差し向けられた氷の矢のようでもあった。

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『薄桃色にこんがらがって』は、甘奈の今の幸せを失いたくないという恐怖と、千雪の過去の思い出に嘘をつきたくないという執着と、2人を想って悩む甜花の3人に、企業側が描く雑誌の未来、プロデューサーが願うアルストロメリアの形が混ざり合い、それらを繊細に描き出したコミュだ。

自身にオーディションの声が掛かった雑誌が千雪のバイブルであったこと、千雪がカバーガールの選考オーディションに出たがっていることに気づき、本当に自分が出場して良いのかと悩む甘奈にとって、千雪本人の口から「アプリコットは私にとって特別な雑誌」「私もオーディションを受けたいの」と言われるのは、その悩みに対するトドメのようであった。

しかしこの千雪の宣言によって、甜花が“甘奈のグランプリは既に確定している”ことを知ってしまった事が甜花からプロデューサーに伝えられる事となる。かくして3人は真実を知り、大切な河川敷で反対ごっこという形で本音を明かし合うことになる。

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このイベントで描かれた「甘奈と千雪の勝負」は、これまでのアルストロメリアにとってあまりにも痛烈であるが故に、3人がアルストロメリアであり続ける為に必要な事柄であったとも思う。

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今まで2人のやさしいお姉さん的な立ち位置にいた千雪が、嫉妬という子供じみた性質を覗かせ、(もちろん今までの言葉も本当の気持ちではあったが)改めて本音を口にできるようになったという転換点だったのではないだろうか。

所謂ターニングポイントだ。

そしてそのターニングポイントはTHE 虎牙道にも、奇しくも「ユニットメンバー同士の勝負」という形で訪れていた。


3.ライバルとして見てくれるとは

THE 虎牙道は当初強い野心を持つ大河と牙崎が常日頃から競い合い、円城寺が後ろからサポートするスタイルのユニットだった。
 そもそも3人にはアイドルを志した明確な動機があり、活動していく中で大河と牙崎がその一片を明かし始めたことが、円城寺をよりサポーター側の人間にさせていった。

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そもそも元柔道金メダリストという異色の経歴を持つ彼がラーメン屋店主を経てアイドルを目指した理由は、端的に言えば大金を手に入れる為だった。
 そんな中で共に戦うこととなった2人に対し、円城寺の態度は些か老婆心気味に映ることもあった。大切な弟分である彼らの出生はあまり普遍的ではなく、恐らく自分と比較し、より支えてやりたいという気持ちが出ていたのだろう。

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そうして元来の人の役に立つことを第一に考える性格故か、いつしか2人をサポートすることで目的を達成しようと考えていた円城寺にとって、2人から挑まれた勝負はとても新鮮に映った。
 2人が円城寺のことを、傍で支えてくれるサポーターとも、ただお節介を焼いてくれる兄貴分でもなく、同じユニットのメンバーであり、ライバルだと思っていることが伝わった瞬間だった。

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こうしてTHE 虎牙道はほんの少しだが明確にその性質を変え、互いが互いに「絶対負けたくない」と口にし合う燃え上がる闘争心を持った3人組ユニットになったのである。

こういう所がストレイライトとも似ているという話もあるが、今回は趣旨を外れるので割愛。



4.なんも できない

『薄桃色にこんがらがって』において印象的な動きを見せたのは、オーディションに出場した甘奈と千雪だけではない。
 千雪の気持ちに気づき揺れ動く甘奈に寄り添い、自分なりの言葉を重ねた甜花は間違いなく甘奈の支えになっていた。

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それがまるで、友達に自分の大事な隠れ場所を教えるような子供じみた言葉であったとしても。

甜花は終始自分に自信のない言動を繰り返す節があるが、それは本人の性格と共に、“自分に自信を持てる結果を得たことがない”ことが起因している。
 いやな事から逃げることは、自分を守る大切な手段だ。だがあらゆるちょっといやな事から隠れ続けた甜花にとって、その自身の行いが今を頑張り続ける甜花を縛り付けている。

315プロが強烈な過去を謳うアイドルが多数在籍する事務所であるなら、283プロに在籍するアイドルたちは至って普通の過去を持つことが多い。

しかしその普通とは、何不自由せず育ち、高い自己肯定感を育まれたという事ではないということを、しっかりと念頭に置かなければならない。

甜花のように実績を持たない人間は多くいるが、いるからこそ、彼女の不安と困り事の度に誰かに寄りかかろうとしてしまう性質には共感が生まれる。彼女が普通の人間だからこそ、アイドルという特殊な仮面を被ることで露呈する歪さもあるということだ。

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訂正すれば、甜花は本当に“なんもできない”訳ではないのだ。無機質なレンズの向こうにファンを捉え、自分にできる範囲で歌い、踊り、笑うことができる彼女は既に立派な1人のアイドルであるが、甜花にはその自身の頑張りが、まるで自身と共に仕事をする関係者達の手柄のように思えてしまっている。

だからこそ彼女は、自分自身の為に頑張れるような自信をつける必要があった。それはG.R.A.Dで語られたアイドルフェスに向けた一幕であり、そうして得た“自信を持つための経験値”が、彼女の自己肯定感を少しだけレベルアップさせてくれたのだろう。

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5.不可能はない

甜花の自己評価の低さと対照的に、牙崎の自己評価は人一倍高いものとなっている。
 それはやはり牙崎の生まれ持った性格と共に、“彼の人生に裏打ちされた実績”を持っているからだろう。

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強いて言えば甜花が無能でないように、牙崎も万能ではない。フィジカル面での特異な才能が突出する反面、その粗暴な言動や気まぐれな態度、天才を自称する割に勉学はからっきしなど、少々ビッグマウスな面も見られる。
 だが彼のそういったスケールの大きな発言が、時に迷うメンバーを支えているのも事実だ。

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目的の為に周りを見る余裕を無くしていた大河を、自身は後ろに下がり2人を褒めるばかりの円城寺を変える1つのキッカケになるような言葉を、牙崎はただ自分がその時そう考えたから発言する。

甜花の“大切な人を思いやる優しさ”とは真逆の観点で、しかし同様の洞察力を持ってメンバーと高め合う牙崎は、まさしく最強大天才なのかもしれない。

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6.ずっとこのままでいたい

アルストロメリアにおける千雪が場に石を投じるトリガーの役目を果たし、甜花が潤滑油のような働きを見せるなら、甘奈は登場人物であると同時に読者であり、彼女が挟む栞がしばしば訪れるアルストロメリアの揺らぎの一段落となるように思う。
 それは何より甘奈自身が、この3人の中で一番早くに“アルストロメリアで在り続けること”を強く望んだからではないだろうか。

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この命題はファン感謝祭から、『薄桃色にこんがらがって』G.R.A.D『アンカーボルトソング』まで甘奈の中に残り続け、次第にアルストロメリア全員の命題となっていく。

甘奈のスペックは高く、また器用な面もあり、公私共に交流が多く任されたことは必ずやり遂げる。しかし甘奈自身は時折「自分が得意なことは何なのか」、「思い切り努力して出来ないことにぶつかる事が怖い」といった甜花とは少し違った悩みを打ち明けることがあった。

私が甘奈に共感してしまうのは、甘奈ほど器用に物事をこなせないにしても、似たような経験をしたことがあるからだ。
 特別好きでも得意でも何でもないことを少しなぞった程度で人並み以上にできてしまうのは、いつか頑張ることへの恐怖に繋がることもある。多少優れているという理由で期待され、新たなタスクが生まれ、それを完遂し、期待される──甘奈はそれを繰り返して生きてきたからこそ、積み上がった期待にいつか答えられなくなるのではないか。いつか全ての信用を失ってしまうのではないかと恐怖心を募らせていったのだろう。

恐らく甘奈と似た悩みを持つ学生は多いと思う。社会に出ると案外人は自分にばかり期待していないし、できなかったからと言って全てを失うこともない。甘奈ほどの気配りができる人であれば、出来ないことを事前に相談し、全体で解決を目指していく動きができるだろう。

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 甘奈がそこを割り切れないのは、きっと彼女自身が言った「結局は甘奈のため」というのが大きい。失望させたくない気持ちと失望されたくない気持ちが一体となって、甘奈の心を沈めていく。

そんな彼女にとって、不変の関係がどれだけ心を安らげるかは想像に難くない。それがアルストロメリアで、千雪と甜花との関係ならば、それが崩れそうになる度に恐怖で体を震わせるのも、何もおかしなことではないのだ。

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ではその不変の関係が、何の前触れもなく変わってしまったら?

理不尽に奪い去られてしまったら?

思い出ばかりが、永遠に輝くのだとしたら──


7.かけがえのない宝物

THE 虎牙道は全員が元格闘家という肉体派ユニットであるが、わずか17歳である大河がプロボクサーからアイドルに転向したことにも理由がある。

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幼少期を弟妹と共に施設で過ごした彼は、しかしその幸福な時間を唐突に取り上げられた過去を持っている。その委細はいまだ深く掘り下げられたことはないが、大河は仕事に向かう度、ポツリとその記憶を懐かしむように吐露することがある。
 過去。今目の前に広がる情景と同じものを見ていた筈なのに、思い出は何倍も輝いて見える。今の大河には夏の刺すような暑ささえ、きらめく陽光に照らされて光る水しぶきを纏って無邪気に笑う弟妹の姿を思い起こさせるのだろう。

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少々飛躍した話ではあるが、甘奈の悩みが共感性の高いもの、大河の過去が共感性の低いものとするなら、まるで弟妹を失わなかったが故の悩みを持つ大河と、大切な人を失くしてしまい追い詰められる甘奈のifのように見えてしまう事が、私にはあったのだ。

もちろんユニット内での役割が似ているというだけで、甘奈と大河はかなり性質が異なる2人だ。

持ち前の器用さからすぐに一定の成果を出せる甘奈、不器用が故に努力を重ね続けることで成果を出す大河。
 愛想のよさから交流が盛んな甘奈、少し無愛想な為に不機嫌なのかと誤解される大河。

2人の共通点を挙げるとすれば、アイドルになる動機に家族の存在が深く関わっていることくらいだ。だがそれは、彼らにとってのアイデンティティとも言える重要なファクターなのだ。



8.アイドルユニット「アルストロメリア」と「THE 虎牙道」

ここで改めてこの両ユニットの共通のテーマをひとつ挙げるとすれば、『日常』ではないかと私は思う。

それは守るものであり、守ってくれるものでもあり、取り戻すものであり、営み続けるものだ。

“過去の自分も今の自分も大切にして生きていけるように”と千雪が雑貨屋という日常を切り捨てなかったのも、
“今の自分を受け入れてくれた人たちの日常を守れるように”と円城寺が立ち退き期限までにビルの買取を目指すのも、
代え難い日常を送り続ける為の手段であり、彼らなりの決意だったと思う。

そうして戦い続けた先にある日常の中で、甜花はいつか甜花自身を認めていけるようになり、牙崎も少しずつ仲間を認めるようになるのだろう。


そして願わくば甘奈が“答え”を、大河が“宝物”を見つけられるその日まで、私は彼らの軌跡を見守っていけたらなと思っている。




追記
他に共通点ありますか?と聞かれたら、迷子の子供を送り届けたことかなと思ったんですが、牙崎だけはどちらかと言うと迷子側でしたね。

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(終)

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