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『バインダー・フィッティング』

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 トランスらしい話をしてみましょうか。

 6月だったか、外見の女らしさを削ぎ落とし出してからまもなくの話です。こちらのノンバイナリーの友だちで、日本に住んでいたことのある人に「さらし的なものはどこに売ってるの」と聞いたところ、Facebookのグループにつないでくれて、バインダーがどこにあるかを代わりに聞いてくれました。それで、地域のセクシュアリティに関する機関(仮にIとします)と、セックスグッズショップの一つにあることがわかりました。
 セックスグッズショップって、別にディルドとかバイブレーターを買わなくても、大学時代から利用していました。当時まだ珍しかった布ナプキンとか、フェミニズムに関する雑誌とか、レインボーグッズとか、そういうものはフェミニストやLGBTコミュニティの誰かがやっているセックスグッズショップでしか、見つけられませんでした。そういう意味で、私にとっては身近で先進的な場所で、シス男性向けのところ以外には、親しみがあります。

 早速赴くと、お店の店員さんが、あなたのサイズは今は在庫がないし、Iに行ってフィッティングをしてから購入することをオススメする、と言われました。理由は健康管理をしながら着ないといけないから。それに、テープ状のものは薦められない、とも言われました。
 健康管理!ってすごいなと思い、また日本で胸オペが始まった当初、私の世代やそれより上の世代が、若い時からサラシなどをぎゅうぎゅに巻いて過ごし、皮下組織が癒着しているせいで、手術の時に大変なことになったアレだわ、と思って、その旨を述べると「そうそう」とのこと。万国共通なのかと思って、苦笑いしました。私がトランスキッズのことをよく知らないだけで、今でも続く世代も超えた現象なのか。

 そういう感じの親切な人のことは素直に聞くタイプなので、ともかく後日、Iに行ってみました。入り口から入ったところに置いてあるチラシを見たり、フラフラして観察していると、フェミニンエクスプレッションの人が寄ってきて「何しに来たの?」と声をかけられました。バインダーを探している旨を述べましたが、フィッティングしないと売れない、とのこと。理由は健康管理のため。予約をして担当の人に会わないといけないそうで、予約したものの一ヶ月くらい後でした。プライドウィーク前ですごく混んでるらしいです。ハードルが高い。心の中は「なべシャツ買うのがこんなに面倒いんかい!」です。
 いよいよフィッティングの日が近づいてくると、なんだかナーバスになってきました。だいたいIで声かけられた時にも、めちゃくちゃナーバスになったので、「お前はティーンのトランスボーイかよ」と自分にツッコミを入れたくらいです。そうしたら、Iの担当者から「ナーバスになっているのはわかっているよ」というメールが来ました。お見通しです。そのメールには、フィッティングを経験した先輩たちからのメッセージっていうのが載っていて「ナーバスになるのは当たり前」とか「もしフィッティングに行って、その場で合うやつがなくても、必ずあなたに合うやつがあるから、めげないで」みたいなことが、いろいろ書いてあります。ものすごい親切です。

 さて、当日、予約した時間にフィッティングに行くと、担当者(プロナウンはthey/them)のフェミニンエクスプレッションの人が、バインダーは大手のバインダー製造メーカーからの寄付で、いろいろな会社から寄付されていること、会社や形によって合う合わないがあること、などを説明してくれました。そして、どんな色のどれくらいの長さのやつがいいか、どれくらいのフィット感のやつがいいか、などを聞かれました。
 私が身につけるものはコットン100%のものを選ぶようにしていること、短めが好き、圧迫感の強いやつは嫌、などと伝えると、それをもとに5枚くらい選んでくれて「着てみて、見て欲しかったら呼んでね」と。試しに言ってみたのですが、コットン100%のやつがあるのが、さすがです。バンクーバーで作られているやつだそうです。
 また「色は白いのは嫌だし、ベージュの薄いの(肌色!)も、アジア人だしインディジネスなので嫌だ」と言うと「わかるわかる」と。濃いベージュのバリエーションもたくさんありました。これは、ご存知のように人種やエスニシティにより、また個人差により色々な「肌色」があるからですね。

 着たことのない私にはフィット感とか言われてもよくわからないので、一枚ごとに担当者の人を呼びました。一目見て「あ、大きいね」とか「形が合ってないから、アレがコレが」みたいなことを言うので、ものすごいたくさんの人に着せてみていることがわかります。
 そうして、在庫にあるベストを選んでくれて、私のベストであろうものは「欠品してるから、届いたら連絡するので取りに来て」と伝えられました。1枚目はプレゼント。来る人全員の使うもの全ては賄えないから「あとは、自分で買ってね」とのこと。なお健康のため、着けるのは週5で8時間まで。

 しばらく経ってから、メールで満足度調査のようなメールが来て、最後の項目が「フィッティングにやってくる人にメッセージをどうぞ、匿名です」とのこと。もちろん、頑張ってメッセージを書いた私でした。なかなか良い経験をしました。

後日談:
 試しに着けて二度と脱げないのではないかと思いましたが、苦しくてしんどくなったり、ほったらかしたりしつつ、だんだん慣れてきて、結局よく着けるようになりました。でも、インターセックス的なホルモンバランスのせいか、女性ホルモンの接種をいっさいやめたら、乳腺はどこに行ったかという感じなので、乳首さえ押さえ込めば違和感なさそう。その旨をセックスグッズストアの当の人に相談しに行きました。そうしたら、トランステープというセックスグッズショップの人たちが若者に売りたくないやつを、乳首を押さえ込む目的のみに使い、胸と胸の間まで貼らないよう勧められました。しかも、本当は売りたくないので店に置いてないのに、オススメのメーカーまで教えてくれました。もちろん、売りたくない理由は、トランスの若者の健康のため、です。
 さらに週末に「クイア・バーベキューあるからおいでよ」と誘ってもらい、本当に行ったら「来てくれてありがとう、ハグしていい?」という温かい対応で迎えられて、そういうのも嬉しいです。
 ただ、こちらのバーベキューっていうのは、ソーセージかパテを焼いてパンに挟むだけ。レタスとかトマトとかもこの時はなしでした。毎回、バーベキューと言われると、韓国焼肉とか日本のキャンプ場でやるやつを想像して期待しますが、違います。アジア系は、みんな期待してガッカリするのを繰り返し、しょうがないと思うようになるようです。


トランステープ
日本的にやり過ぎかどうか知らんが
#Sylvester Stalletto


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