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映画「帰ってこなかった男」 全シーン雑感 S#11〜18

全シーン雑感 S#11 居酒屋偵察

問題のシーン。お笑い好きなので、執筆で筆が乗ってしまうとコメディにしたくなるんですよね。世界観が一つになると気持ち悪くて、それを壊したくなるのもあります。
ライブ見に行って「手を上げろー」とか言われると絶対上げたくなくなるし。ユダヤ人は多数決で10:0になると、何かの力が働いてると判断して、もう一度多数決やり直すそうです。本当に10:0なら多数決さえしないはずだと。
調子に乗ってコラムぽくしてます笑。

リハーサルでも現場でもシリアスバージョン、コメディバージョン芝居してもらいましたが、やはりコメディバージョンが面白い。結局本番でもそうしてもらいました。
(撮影順はこの前のS#10の方が後なので、それを受けてのS#10になってます)。

ボケの孝明とツッコミの佳奈。完全に漫才。そこに入ってくる第三の男の倉田(元夫の由紀夫?)。
倉田は「記憶喪失」なのですが、倉田(由紀夫)役の宮本聖矢(みやもとさとし)さんには空っぽな感じで芝居して欲しいとお願いしてて、そのルックスも相まって、本当底なしの男、いや底が抜けた様な男をバッチリ演じてくれました。お陰で記憶喪失という設定が説得力あるものになりました。

役者がそのイメージをわかってるので、ドンドン噛み合っていきます。アドリブも足してくれて、さらにシーンとしてコントラストついて強くなりました。このシーンだけ別でアップしても良いくらい。
イメージを共有する所までが監督の仕事だと思ってて、現場でああしてこうしてと具体的な動きをお願いするのは非常事態だと思ってます。芝居してる本人が一番状況を感じているはずで、外野からあれこれやってはおかしい。違和感あるのは、その状況を作れてないか感じられてないだけなので、こちらがやることは状況を立て直すだけだと考えてます。

サスペンスなのにコメディシーンを入れたり、全編サスペンスではあるのに、ブラックコメディだと思って作っていることもあって、これが自分の作家性なのかな、と完成するとわかりますね。しかし次回コレをなぞろうとすると失敗したりする。人は常に変化しているので、コレはその時の正解であって、今の正解では無いので失敗するんです。大事なのは今楽しい事を常に感じている事かと。

撮影照明は佳奈とユキのシーンと変えてます。
カメラは漫才の様に二人が対等に見える位置に。
照明も18時くらいのイメージに。バッチリですね。

音楽でもコメディを煽って、楽しいシーンになりました。



全シーン雑感 S#12 居酒屋前

前のコメディシーンに続くシーン。
ここでサスペンスを取り戻そうとしてます。
孝明の第二(本当は第三)の敵、居酒屋店長坂本登場シーン。
坂本にはねちっこくいやらしくやってほしくて、米元信太郎さんしか居ないなとお願いしました。
ここもアンサンブルが効いてます。

一つだけ失敗したなと思うのは、佳奈の板付きで始めてしまった事。店から出てくるところから始めればよかった。ちょっと舞台感感じる出だし。

このシーンは撮るのが難しかった。
三人の位置を心理状態で変えているので、シーン通して撮るのが難しいカットもあって、沢山撮ってしまいました。

怪しんでいるのか、素で本当に倉田の事を思って聞いているのか、どちらかあやふやな感じはさすが米元さん。出来て思ったのは、このシーン、もっと長くて良かったなと。変な間とかいろいろ芝居が出来るように。坂本初登場シーンなので、名刺代わりのシーンであるし、この後もう一回対戦シーンあるので、コレで良いのかもと思ったり。

その後残った二人。徐々に佳奈の本質を見せられ違和感感じる孝明。
佳奈「使っちゃえば良いよ」の後に呆気に取られてる孝明が全てを物語ってくれてます。
この辺りから孝明は状況を把握していきます。ワンテンポ遅れて理解する人居ますよね。

今回の作品は差し迫ったシーンでは引きを入れない様にしてます。
そうしたら引きがルーズな気がしてきて、ヨリばかりになりました。
引きの画も決まってるんだけどなぁ。

ここは照明は立ち位置上、孝明佳奈が暗めになってます。不穏な感じが出てるなと。これから起こる不安を感じて良いなと。

この撮影、数日前から台風直撃の予報が出ていて、このシーンを居酒屋の中で撮ることも考えてました。前作『マザーとの邂逅』はロケだけずっと雨だったけど、今作は雨は一切降らず、珍しく天気に恵まれました。小嶋組、3日撮ると必ず一日は雨降るんですが。
居酒屋の中だとここまで良いシーンにはならなかったかも。
天気はデカい。


全シーン雑感 S#13 喫茶店

二度目の喫茶店なので、カメラ位置だけ変えました。本当は座り場所から変えたかったんだけど時間無くて。

トントントンと進んで金に不安のある山本でリズムが止まるの良いですね。島林さん安定の不安げな男。黒田がフォローしつつ、白井が軽く追い込むのも効いてます。

あゆみは孝明を気にしつつ、半分惚けて「なんとかなるんじゃないですか?」。このセリフで更に孝明を追い込みます。
ここのあゆみのセリフはポイントなのですが、本人もそれがわかって力が入ったのか5テイク撮りました。現状はあゆみは孝明がお金を用意出来なくなるかも、という事を不安に思っている様に見えます。これもありだけど、イメージはもっとすっとぼけてる感じでした。あゆみは起業のことなんてどうでも良いと思ってるのだから。

あと黒田の冒頭のセリフも噛んじゃって4、5テイクやったなぁ。ハマることありますよね。

このロケ地、三時間しか取って無くて、時間ない中申し訳無かったです。

ここだけでは無いですが、カメラを据えたら微動だしない撮影ミズシマさんのカメラが芝居集中させてくれるので、人の機微を欠かさず掬い取りたい自分の演出に合ってると思ってます。ふわふわ何かしら撮りに行こうとして何も撮れないカメラマンも居るんですよね。

ここから不穏な空気は増してきます。
全尺で言うと、ここから次のシーンが真ん中ミッドポイントなので、段々空気は重くなってきます。
でもそれでは面白く無いので、その後、孝明は自宅にあゆみ呼んじゃうんですけどね。まだ自覚無い。男なんてこんなもんだなと。



全シーン雑感 S#14 居酒屋前

ここはファーストカットが失敗したなー。孝明が居酒屋の前を通っているのがわからないカットになってて。居酒屋覗き出すまで、期待感も何も無いカットになってしまって卯ノ原さん頼みのカットになってしまった。
あまりカメラが動かないこの映画でパンをしたかった。パンをする所にドラマがある様にしたかったばかりにこうなってしまった。もっとパンパンする映画が作りたい。

坂本店長のウザ絡みは良い感じで、出てきた倉田のポカーン感もいい感じで狙い通り。

もう一つ、覗く感じを何かさりげなく出来たら良かったのかな…。あの店の構造では難しいけど。

このシーンの意味は、孝明が不安に思っている事を動きで具体的に客に伝えるためと、その不安に坂本店長を含ませるため。

自分の脚本は意味、目的がないシーン(例えば雰囲気だけとか)は無い様にしてます。
キャストスタッフがそれを毎シーン理解していれば、確実に力になると思うので、ここからそれを書いていきます。
このシーンだって、無くたって成立はするし。



全シーン 雑感 S#15-17 路上での電話

逃げてきたその足で佳奈が不在になるのを知って、すぐさまあゆみを呼ぶ孝明の好きだらけの自己管理。
よくあるパターンですが、会話の最後まで使わずに、次のカットで正解を分からせる。映画のジャブ的なシーン繋ぎのためのシーンです。
お客さんがどうなるのかな、と自分で考えてもらった方が映画を能動的に見てくれて自分なりの何かを発見してくれるので、演出も芝居も撮影もそういう仕掛けが必要ですね。セリフも主語と述語をひっくり返すだけで面白くなったりひっかりができたりする。

ここ、失敗したのは電話する佳奈の鏡に映ったカット。やはり鏡かどうか一瞥でわからないのは勿体無いことをした。
見ている人に、佳奈の言っていることが本当か疑わせたい、もしくは嘘かもしれませんよ、とサインを送るために鏡越しカットを採用しているので、一発で伝わらないと意味が弱くなる。

作ってくれた美術もちゃんと見せられてないし、いろいろうまく行かせなかったなと。短いシーンですが反省です。

S#18は撮影せず。

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