マスクの下(7)

おまえいまこっちみてわらったろなにわらってんだよふざけんなこの出来上がった美男美女カップルがコンビニトイレ前の鏡に自分らを映してイチャイチャしやがってこっちは手探りでびくびくしながら不器用にやってるってのに肉の境い目すらごく自然に溶け合うかのような愛を貧民に見せつけやがってああこの世は不公平だよもてるものはますます富みもたざるものはぼんやりしているうちに借金だけが積み上がるって寸法だちくしょうコンビニ駐車場の車止めでこけるなんてさいあくなんだけど、あれ? k吾、なんでお姫様抱っこしてんの。おかげで大怪我せずに済んだけど、転びそうな女をとっさに抱きかかえるなんて器用な芸当ができる人だったっけ? ああ、妹のお守りをずっとしてたからか。助かるわ。でもちょっと恥ずかしいしどこも打ってないみたいだけどからだ全体がガチガチ。どうしよう。だいじょうぶかな。おい!なにまたこっち見て笑ってんだ、そこのジュリエット・ビノシュのにせものみたいな女! ぜんぜんだいじょうぶじゃないぞ、ギィィィィ…

「だいじょうぶ?」

「あ。ありがとう」

 n子はk吾の手を借りて立ち上がった。極度の緊張と怒りでどこが痛いのか分からない。少しずつからだを動かして傷めたところを点検する。心はバラバラに壊れてた。あの美女、ぜってえ許さねえからな。

「だいじょうぶ?」

「わかんない。けど、まあ…」

「ゆっくり帰ろうか」

「うん」

 思いっきり転んで恥をかいた場からは離れたほうがいいだろう。n子はよろよろと歩き出した。ときどき立ち止まって軽くストレッチしたり、k吾は女子がストレッチする姿がたまらなく好きな質なので秘密裡に軽く興奮したが、今はn子の身の安全を優先しなければならない。甘勃起は秘密。トップシークレット。

 少し歩くと、n子は自分の踵の痛みに気付いた。捻ってはいないが車止めのコンクリートに打ち付けたのかもしれない。

「ごめん。ちょっと踵が痛いみたい。」

「ああ、無理しないほうがいいよ。歩ける?」

 どうしようか。おんぶする? え、ちょっと恥ずかしいんだけど。でも、怪我は最初が肝心だし。そうねえ…ということでおんぶで団地まで帰ることになった。次号、刮目して待て!

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