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(未定稿) アメリカの障害者雇用における5つの動き (updated on March 4, 2016 )

https://www.facebook.com/notes/375501460257412/

アメリカにおる障害者雇用をめぐる制度的な動きには、ADAの第1章が定められて以降、特に大きなものは見られなかった。

しかし、昨年来、いくつかの大きな動きが出てきたのでまとめておきたい。

1. Employment First (EF) (雇用最優先施策)

Employment First (EF) (雇用最優先施策)とは、長年にわたる障害者雇用の低迷を打破するために、障害者雇用の実現を障害者雇用施策における最優先課題とする流れのことである。

EFは現在のアメリカの障害者雇用施策の基本となっているこの流れを指す呼称であり、EFについて明確に定めた連邦政府レベルでの具体的な法律があるということではない。

関連して唯一あるのは、連邦政府からの補助金を得て行われている Employment First State Leadership Mentoring Program (EFSLMP) という試行的プログラム(demonstration program)である。

これにより、現在、3州がモデルケースとしての取り組みを行っており、この3州とは別に、これらの3州に対してEF のパイオニアといわれているワシントン州に対してリーダーとしての役割が与えられている。

通常、連邦政府レベルの法制度はこのような試行事業を積み重ね、対象となる州を増やしていくことで、最終的に全米的な制度とされることが多い。

たとえば、かつて援助付き雇用(supported employment)が制度化される際にも同様の手法がとられた。

このEFで強調されているのは integrated employment ということである。

その具体的な内容は、

①最低賃金以上の給与が支払われていること

②日本のかつての授産施設にあたるシェルタードワークショップのような障害者従業員が多数を占める職場でないこと(この点では日本のA型や特例子会社はあてはまらないことになる)

③これまで雇用されることのなかった重度障害者を対象としていること

とされている。

また、実際の中心的な手法として用いられるのは customized employment と呼ばれるものである。

その具体的な内容は、

①職務の再編

②職掌の変更

③業務のシェア

とされていて、援助付き雇用の流れの中でいわれる職務再編成、仕事の切り出しなどと同様の内容である。

EF施策については、州知事によるEF声明のような形で宣せられることが多いが、既にEFを具体的な施策とした法制化している州も数多くでてきている。

下記のサイトは全米各州におけるこうしたEFの進捗状況をマップでわかりやすくあらわしたものである。

Employment First Map

http://www.apse.org/wp-content/uploads/2014/01/activity.html

なお、EFについての連邦政府のサイトは下記である。

http://www.dol.gov/odep/topics/EmploymentFirst.htm

また、EFについての専用サイトもでてきている

http://www.employmentfirst.net/

同サイトにはFBページもある

https://www.facebook.com/employmentfirst?fref=ts

その他、Employment First で検索すれば各州のEFについてのサイトなど数多くのサイトを閲覧することができる

2. Workforce Innovation and Opportunity Act (WIOA)

従来のWorkforce Investment Act を15年ぶりかつ初めて改正し(法律名まで改正)、あわせてリハビリテーション法など関連各法を改正し、2014年7月22日の大統領署名で成立した(発効は2015年7月1日)Workforce Innovation and Opportunity Act (WIOA)(労働力革新機会法などと訳される) は障害者を含む求職者全体の雇用・訓練・教育に関する包括的法制である。

このWIOA第461条の中で、リハビリテーション法第609条を改正する形で設置が定められている Advisory Committee on Increasing Competitive Integrated Employment for Individuals with Disabilities (障害者雇用促進審議会) は政府関連機関からの7人の委員、関連する6つの分野からの10人から12人の民間委員により構成される。

この委員会は年に最低8回開催され、議会および労働大臣などに対して障害者雇用促進する様々な勧告を1年以内に中間報告、2年以内に最終報告の形で提出するように定められている。

この委員会の役割のひとつとして最も関心を集めているのが、日本の労働三法にあたる公正労働基準法( Fair Labor Standards Act (FLSA) )の第14条(C)で定められている障害者に対する最低賃金の適用除外に関する認可とその運用についての再検討を行うことことである。

また、WIOAには、職業リハビリテーションサービスによって雇用の可能性の検証を十分に行うことなしに、24歳以下の障害者に最低賃金適用除外規定を適用したり、シェルタードワークショップへ移行させることを禁じる内容ももりこまれている。

これにより、これまで特別支援学校からシェルタードワークショップへと「直行」させられていた障害者が大幅に減少すると考えられている。

こうしたふたつの施策により、先述したEmployment Firstの動きなどともあいまって、シェルタードワークショップの存立そのものを廃すとともに、シェルタードワークショップのもとで最も多く適用されている働く障害者に対する最低賃金適用除外を実態的に廃し、もって制度そのものをも廃すための大きな潮流が生み出されたといえる。

WIOAについての連邦政府のサイトは下記である。

http://www.doleta.gov/WIOA/

Advisory Committee on Increasing Competitive Integrated Employment for Individuals with Disabilities についての連邦政府のサイトは下記である。

http://www.dol.gov/odep/topics/WIOA.htm

WIOAのポイントとリハ法との関係については下記に詳しい。

THE WORKFORCE INNOVATION AND OPPORTUNITY ACT

OVERVIEW OF TITLE IV:

AMENDMENTS TO THE REHABILITATION ACT OF 1973

http://content.govdelivery.com/attachments/USED/2014/07/25/file_attachments/310663/wioa-changes-to-rehab-act.pdf

WIOAについての日本語サイトとしては下記などがある。

「労働力革新機会法(WIOA)の成立 ―コミュニティの連携がカギ」

http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2014_10/usa_01.htm

3.リハビリテーション法第503条に関する連邦規則の改正

リハビリテーション法第503条は連邦政府との間で契約を有する企業に対して、障害に基づく差別を禁止するとともにaffirmative action(障害者差別をなくすための積極的是正措置)を求める条項としてよく知られている。

このたびこの条項のための連邦規則が改正され、同条の対象となる企業に障害者雇用率7%という目標が定められることになった。

その内容はパブリックコメントなどの手続きを経て2014年3月24日から発効している。

障害者の雇用率を7%に設定したということは、従来、日本のような雇用率およびそれに対する罰金制度(quota and levy system)という枠組みを決してとらず、あくまでもリハ法第504条やADA第1章にみられるように、合理的配慮(reasonable accommodations)の提供による機会均等(equal opportunity)の保障とそれに基づく自由な競争という枠組みを障害者雇用の制度的原理としてきた米国としては、従来とはまったく異なる考えに基づいた制度を導入したかのように見える。

これに対して政府は、この7%という数字は決して雇用率(quota)制度ではなく、あくまでも指標、目標(target)であると強調している。

連邦政府がこの改正を雇用率制度ではないと躍起になって否定するのは、アメリカ社会ではquotaと称してしまうと、それは平等原理に反しているという大きな反発が必ず生じてしまうからである。

しかし、この数字を達成していない限りは新たに連邦政府との間で契約を結べなくなることを考えれば、すべての企業に適用されるわけではないとはいえ実態としては雇用率制度にかなり近いものであるといえる。

というのも、連邦政府は首都ワシントンにおける省庁だけでなく全米中に出張所や様々な機関(たとえばNASAやCDCなど)を有しており、物品購入の単体としては米国最大の事業体ともいえるのであり、連邦政府との間で契約を有している企業のもとで働く労働者は全労働者の22%にも達すると言われているからである。

そのため、本改正内容は連邦政府との間に年間5万ドル以上の契約をもつ、従業員50人以上の企業にのみ適用されるものではあるが、最初の1年間だけで50万人以上の新規の障害者雇用が生み出されると労働省では予測している。

リハ法503条についての連邦政府サイトは下記である。

New Regulations:

Section 503 of the Rehabilitation Act

http://www.dol.gov/ofccp/regs/compliance/section503.htm

連邦規則そのものは下記である。

Affirmative Action and Nondiscrimination Obligations of Contractors and Subcontractors Regarding Individuals With Disabilities

https://www.federalregister.gov/articles/2013/09/24/2013-21228/affirmative-action-and-nondiscrimination-obligations-of-contractors-and-subcontractors-regarding

FAQは下記である。

Office of Federal Contract Compliance Programs (OFCCP)

http://www.dol.gov/ofccp/regs/compliance/faqs/503_faq.htm

4. Executive Order 13658

2014年2月12日にオバマ大統領は大統領令(Executive Order 13658)を発令した。

大統領令というのは大統領制度のもとでの独特の制度で、米議会の承認を必要としないにもかかわらず、議会で成立した法律と同じ拘束力を持つものである。

その内容は、連邦政府との間で物品納入や建設についての契約を有する企業において働く労働者の最低賃金を時給10ドル10セントとすることを求めるものである(今でもweb上に残っている、日本のあるマスコミによる、連邦政府で働く契約社員の最低賃金のこととされている報道は事実誤認である)。

この制度についての連邦規則の最終版が公表された。

これに対して関係機関からは、本規則を、現在はFLSAの14(c)にもとづき最低賃金を適用除外されている障害をもつ従業員にも適用することが強く求められていてその行方が注目されていたが、労働省はそうした意見を受け入れることを最終規則の中で明確にした。

この規則は2015年1月1日以降に連邦政府との間で新たに契約を締結もしくは更新する企業から適用される。

FAQを含めて大統領令13658については下記。

http://www.dol.gov/whd/flsa/eo13658/

大統領令13658に関する連邦規則は下記。

https://s3.amazonaws.com/public-inspection.federalregister.gov/2014-23533.pdf

連邦規則についての手引きは下記。

FACT SHEET: FINAL RULE TO IMPLEMENT EXECUTIVE ORDER 13658, ESTABLISHING A MINIMUM WAGE FOR CONTRACTORS

http://www.dol.gov/whd/flsa/eo13658/fr-factsheet.htm

障害者に対する最低賃金適用除外について定めたFLSA(14c)との関係については下記。

http://www.dol.gov/whd/flsa/eo13658/EO-factsheet.htm

FACT SHEET: RAISING THE MINIMUM WAGE FOR WORKERS WITH DISABILITIES UNDER EXECUTIVE ORDER 13658

http://www.dol.gov/whd/flsa/eo13658/EO-factsheet.htm

http://www.dol.gov/whd/flsa/eo13658/EO-factsheet.pdf

5.連邦政府機関の障害者雇用率12%へ引き上げの動き

アメリカ連邦政府機関の障害者雇用におけるaffirmative action(差別是正のための積極的行動)について定めたリハ法501条に関する連邦規則改訂案が24日、EEOCによって示された。 それによると、それぞれの連邦政府機関はなんと障害者雇用率12%、そのうち2%は特定の重度障害者雇用率2%とすることが求められている。 現在、連邦政府機関全体としては既に障害者雇用率12%を満たしているが機関ごとにばらつきがみられるため、これを是正することが目指されている。 さらに、就業中に、食事・トイレなど日常生活動作上必要な介助の提供も求められている。 4月25日までパブリックコメント受付中。


・EEOCの発表は下記
http://www.eeoc.gov/eeoc/newsroom/release/2-23-16.cfm


・改定案そのものは下記
https://www.federalregister.gov/articles/2016/02/24/2016-03530/affirmative-action-for-individuals-with-disabilities-in-the-federal-government


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