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読書ノート647「戦争とデータ 死者はいかに数値となったか」を読んだ

今年の大佛次郎賞の受賞作品を紹介する新聞記事に興味を覚えて読んでみた。
本書でいう死者というのは、戦争における、いわゆる文民、民間人の死者数のことである。
そんなもの正確に分かるわけないじゃないかと思われるかもしれない。
確かに、正確にはわからないのである。
しかし、統計学や解剖学などの科学的技術と知見を駆使していかに正確さを追求できるようになりつつあるかというのが、本書の内容である。
その前に、そもそも戦争において死者がどのように扱われ、カウントされ、国際的合意がとりかわされてきたかという歴史が長々と紹介される。
戦争における死者の数や取扱いについて関心がもたれるようになったことさえ、それほど昔のことではないのには驚かされる。
死者数に関して提出される統計データは、どの政治的立場によって出されたものかによって大きく異なっており、その差を埋め、名簿化し、さらには複数の政府、機関、団体による統計から重複する死者数を差し引くなどして正確さを追求するのは気の遠くなるような作業であることがわかる。
時には、虐殺を隠蔽するためにいったん埋めた遺体を別の場所に移し替えるなどということが行われていたこともあり、それらを掘り起こしてまで死者数を正確にカウントしようとする関係者の執念には頭がさがる思いだ。
しかし、どんなに、科学的には正確さを追求できたとしても、その結果は、戦争の渦中にいた当事者たちの受け止める実感とは必ずしも一致しないという悲しい現実には無力感を感じざるをえない。
そもそも論でいえば、死者をカウントする努力を戦争そのものの防止に傾注すべきというところだろうが、それを言ってもせんないことか。

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