ゲームして稼ぐ「Axie Infinity」の衝撃
2021年のビットコインの最高値である約700万円から、現在は半値程度にまで落ちました。
2017年12月の最高値から2、3年は下落相場が続き「暗号通貨の冬の時代(クリプト・ウィンター)」と呼ばれましたが、再び「冬の時代」がやってきたのでしょうか?
そんな向かい風を一気に吹き飛ばしたのがNFTゲーム「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」です。
アクシーと呼ばれるファンタジー上の生物を集め、育て、繁殖させ、そしてバトルする、いってみればポケモンのようなNFTゲームですが、ありえないぐらいのスピードで収益が急拡大しています。勢いがスゴすぎて、もはや意味をなしていないのが次のグラフです。
4月が67万ドル、5月が300万ドル、6月が1220万ドル、そして7月が1億1420万ドル(約126億円)・・・!!!???(7/26現在、残り5日)。これは収益(Revenue)のグラフです。信じられません。
さらに驚いたのは、Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)のゲームを開発する企業は、なんと東南アジアのベトナムのスタートアップだというのです。シリコンバレー(米国)でも、中国でも、ヨーロッパでもない。これはちょっと衝撃を受けました。。。
NFTゲームを開発するSky Mavis(スカイ・メイビス)は、2021年5月にシリーズAで750万ドル(約8億円)を調達していますが、シリーズAで100億円を超える収益を上げているのは異常値です。
今回のnoteでは、暗号通貨・ブロックチェーンビジネス業界関係者に衝撃を与えている「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」とは何なのか、業界外の人にもわかりやすくコンパクトに解説します。
Axie Infinityはどのようなゲームなのか?
Axie Infinityのゲーム自体はシンプルで、前述のとおりアクシーと呼ばれるキャラクターを集め、育て、繁殖させ、バトルする内容です。他ゲームとの違いはNFTゲームと呼ばれるように、キャラが「NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)」である点にあります。
かんたんに説明するなら、デジタルデータは通常ならコピーが簡単ですが、NFTは特定のデータを「唯一無二の本物」と証明できます。
NFTは暗号通貨と同じブロックチェーン技術が用いられていることが特徴で、新たなデジタル資産として今年に入って急速に注目を集めています。新たなデジタル資産(Digital Asset)として今年に入って急速に注目を集めています。
まずAxie Infinityのゲームを始めるには、キャラクターのNFTを購入しなければなりません。しかもチーム戦なので3体が必要です。安いキャラでも1体2万円ぐらいするので、最初に3体を揃えるのにだいたい10万円ぐらいかかります。(引用元:NFT navi、以下同)
日本円ではなく暗号通貨のイーサリアム(Ethereum)で購入しなければならず、取引所で「円→イーサリアム」に換えて、ウェブでウォレットをつくり、入金してキャラを購入するマーケットプレイスに行って……この時点で、めちゃくちゃハードルが高いゲームですね。
すごろく形式の「アドベンチャー」と他プレイヤーと戦う「アリーナ」という二つの遊び方があり、 それぞれで勝つと「Smooth Love Potion(SLP)」という暗号資産がもらえる仕組みです。
「アドベンチャー」はプレイを続けるとレベルが上がり強くなりますが、このレベルは「アリーナ」には適用されないため、「アリーナ」で勝つためには強いキャラクターを持っていることが絶対条件となります。
Axie Infinityはどう稼いでいるのか?
「高いお金を出して、強いキャラクター購入しないと勝てないのか……」そう思われてしまっては、「金持ちが勝つ」つまらないゲームです。新しいユーザーが集まりません。
そこで登場するのが「ブリード(Breed:繁殖)」です。自分のアカウントから2体のキャラクターを選び、ブリードにより1体の新たな強いキャラクターがつくれるのです。
ブリードについてはこちらの記事が詳しいですが、いくつものパラメータがあり複雑なものです。一定の配合ロジックがありながらも、ランダム性があり、何が出るかわからないワクワク感があるという意味では、スマホゲームのガチャにとても近いものです。
ではAxie Infinityの運営はどこで稼いでいるのか? 収益源は、1. キャラの事前販売(0.3%)、2. 仮想空間(Land)の事前販売(0.4%)、3. マーケットプレイス手数料(20.9%)、4. ブリーディング手数料(78.4%)、の4つがあります。つまり、99%は3.マーケットプレイスと4.ブリーディングの手数料です。
プレイヤーと運営側の関係を整理すると、次の図のようになります。(引用元:NFT navi)
ユーザー側が稼ぐ手段は、主に①マーケットプレイスでの販売収入、②バトルに買ったときにもらえるSLP(暗号資産)の2つとなります。
Axie Infinityが突然ブレイクした3つの理由
これまでの歴史で、Axie Infinityのように4月から7月のわずか4ヶ月で約170倍の収益になった企業は、かつてあったでしょうか? みなさんは、なぜ突如としてブレイクしたのかを不思議に思わないでしょうか? 私なりに整理すると、次の3つの理由があると思いました。それぞれ解説します。
(1) 「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」モデルの衝撃
(2) 「スカラー制度」という大発明
(3) 最大のボトルネックを解消した「サイドチェーン」
(1) 「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」モデルの衝撃
Axie Infinityの1日あたりのアクティブユーザー(DAU)は約50万人、その約60%がフィリピンにいると言われます。フィリピンの平均月収は5万円弱。同ゲームをプレイすると、フィリピンでは同じぐらいの生活費が稼げると言われています。
世界に驚きを与えたのは、こちらのYouTubeで配信された「ゲームして稼ぐ:フィリピンのNFTゲーム」と題したミニドキュメンタリーです。CNBCの記事にもなり話題となりました。現時点で約20万回ほど再生されています。
コロナ不況により仕事を失ったフィリピンの人々が、Axie Infinityをプレイすることにより「生活しています」「借金を返しました」と口々に同ゲームへの感謝を口にするのです。
スマホゲームをして小遣い程度のポイントを稼ぐのではなく、NFTゲームは生活費そのものを稼ぐのです。ゲームをするだけで仕事で得る給料と同じぐらい稼げるのだとしたら、今すぐ仕事をやめたい人もいるでしょう。
先進国と新興国では経済格差があるため、フィリピンではAxie Infinityで「プレイして稼ぐ(Play-to-Earn)」ことが可能です。暗号資産はかんたんに国境を越えることを実感します。
とはいえ、Axie Infinityのゲームを始めるには、すでに解説したとおり最初にキャラクター3体を購入しなければならず、日本円でだいたい10万円ぐらいかかります。フィリピンの人たちには大きすぎる初期投資です。実は、そのハードルを仕組みで解決したことがブレイクのきっかけになりました。
(B) 「スカラー制度」という大発明
「スカラー制度」は、Axie Infinityですでにキャラクターを複数保有しているプレイヤーが、保有していないプレイヤーにキャラを貸し出す仕組みです。こちらのページに提供者がリストアップされていますが、プレイヤーの取り分が最大75%、1日あたり30ドル(約3300円)ほど稼げるとオファーが出されています。
まさに資本主義における「資本家(キャラを保有してる人)」と「労働者(キャラを借りて戦う人)」の関係です。
この「スカラー制度」の仕組みは、Axie Infinityを開発するSky Mavisではなく、「Yield Guild Games(YGG:イールド・ギルド・ゲーム)」というフィリピンを拠点とする別のスタートアップが運営しています。ベトナムからフィリピンへ、イノベーションのうねりを感じざるを得ません。(先ほどのミニドキュメンタリーを提供しているのは、このYGGです)
YGGは2021年6月に400万ドル(約4億4000万円)の資金調達を終えています。そして、掲出されているホワイトペーパーによると独自トークンを発行し、Axie Infinity以外のNFTゲームへ「スカラー制度」を展開し、「プレイして稼ぐ(Play-to-Earn)」による新たな経済圏をつくると宣言しています。
こうしたエコシステムを支えるツールを1つだけ紹介すると、スカラー制度でキャラを貸し出す側(資本家)向けの「Axie Infinity Scholarship Tracker」というウェブアプリがあります。
スカラー制度用のウォレットアドレス、貸し出すプレイヤー(労働者)のユーザー名、レベニューシェア率などを入力すると、暗号通貨SLPの収益をトラッキングして、自動で計算してくれる仕組みです。スカラー制度をどう運用すればいいのかのコツ(Tips)は、フィリピンのウェブサイトにけっこうたくさんあります。
こうしたシンプルな仕組みは、ブロックチェーンという暗号通貨のための新たな金融インフラがあるからこそできるのだと思います。
さて、最後に残った疑問は「なぜ今になってブレイクしたのか?」です。正直に言えば、「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」モデルは、NFTゲームが過去にブロックチェーンゲームと呼ばれた2、3年前からありました。その最大の謎を解き明かすのが、次になります。
(3) 最大のボトルネックを解消した「サイドチェーン」
これまでのブロックチェーンゲームの多くは、暗号通貨の1つであるイーサリアム上につくられてきました。ビットコインに次ぐ規模であり、イーサリアムは分散型アプリケーション(DApps)の主要な開発プラットフォームです。
Axie Infinityがブレイクする前から、ゲームキャラクターやアイテムは取引されてきましたが、そうしたアプリケーションを動作させるためにイーサリアムでは「ガス代」と呼ばれる手数料が必要です。スマホの通信料のようなものをイメージするとわかりやすいです。
問題は、2020年頃からDeFi(分散型金融)の人気によりイーサリアムの価格が高騰したことで、ガス代も高騰してしまったことにありました。キャラクターやアイテムをイーサリアム上で発行すると大きな手数料がかかり、さらにそれをユーザー間で取引するときにも手数料がかかります。これでは「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」モデルも成り立ちません。
そこでAxie Infinityの開発チームは、イーサリアムの外に取引処理を分担する別のブロックチェーン「サイドチェーン」の「Ronin(ローニン)」を構築することを決めました(「サイドチェーン」の概要については日本銀行のレポートが詳しいです)。
そして、そのサイドチェーン「Ronin」に移行したのが2021年5月上旬でした。「ガス代」という余計な手数料がなくなったことにより、「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」プレイヤーの取り分も増え、新規プレイヤーの増加が一気に加速しました。
また独自の「Roninウォレット」内で法定通貨により暗号通貨を購入できるようになったことで、使い勝手が格段によくなりました(複数国を広くカバーするRampの仕組みを入れています)。こうした一連の動きが、大きなブレイクスルーとなったことは、結果が証明しています。
「Axie Infinityの未来」はどうなる?
ここまでAxie Infinityがブレイクした理由を、(1)「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」モデルの衝撃、(2)「スカラー制度」という大発明、(3) 最大のボトルネックを解消した「サイドチェーン」、という3つのポイントで説明しました。最後に「これからAxie Infinityはどうなるのか?」を自分なりに考えてみたいと思います。
現在の大ブームは、Axie Infinityの経済圏をつくっている暗号通貨「Smooth Love Potion(SLP)」の価格が上昇することで、さらに勢いを増しているところがあります。(※注:Small Love Potionは以前の呼び方)
同ゲームの運営に参加できるガバナンストークン「Axie Infinity(AXS)」の価格上昇は、より勢いがあります。AXSはコインを預け入れて毎週報酬を得ることができるなど、同ゲームをプレイする人だけではなく、経済圏の成長に期待する人にも人気です。
ほとんどの暗号通貨やNFTに言えることですが、Axie Infinityはユーザーの母数が増えることによりSLPやAXSの価格が上昇し、さらに参加したい人が増えるという「正の循環」が働き、ゲーム内の経済が成長しています。
しかし、おそらくAxie Infinityと同じモデルのNFTゲームがすぐに登場し、ユーザーの獲得競争になっていくのだと思います。
たとえば、競馬NFTゲーム「Zed Run」を開発するVirtually Human Studioは、先日シリーズAで2,000万ドル(約22億円)を調達しました。名門ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)も出資者に名を連ねています。
Axie Infinityが経済圏の拡大を続けるのか、それとも他のNFTゲームが登場することで新規ユーザーが頭打ちとなり、入れ替わっていくものなのか。NFTゲームの持続可能性のキーになるのは「コンテンツ力」ではないでしょうか。いわば「本当に面白いコンテンツへと進化できるかどうか」です。
ここで重要なのは、「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」モデルの枠組みの中で、「面白さ」の概念自体が「既存の面白さ」とは違う次元へシフトすることです。私はクリエイターの創作環境に革命を起こすことが「コンテンツ力」の成否を分けると予想します。
みなさんは「Axie Infinityの未来」、そして「NFTゲームの未来」をどのように予測されるでしょうか?
まとめ
かつてゲーム内のキャラクターやアイテムを、現実世界でお金で売買する行為は「RMT(Real Money Trading:リアルマネートレーディング)」と呼ばれ、ほとんどのゲームの利用規約で禁じられてきました。
しかし、CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)がガイドラインを定めることで容認する方向であるなど、NFTゲームの登場により大きな動きが起きつつあります。
今回のnoteを書きながら理解できたのは、Axie Infinityの行く末はさておき、「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」モデルは成立するということです。暗号通貨はすでに金融商品として定着しており、すでにフィリピンでは数万人〜の規模で生活している人がいることを考えると、「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」の流れは今後も広がっていくのだと確信しました。
読んでいただいたみなさんにバイアスのないようにお伝えすると、このnoteを書いているKOZO(Kozo Yamada)は、NFTゲーム「JobTribes(ジョブトライブス)」やNFTプラットフォームを提供するシンガポール拠点のDigital Entertainment Asset Pte.LtdのCSO(最高戦略責任者)です。
Axie Infinityについては「先に行かれて悔しい」と思う一方で、ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)の「向かうべき方向は間違っていなかった」とも思いました。もっともっと頑張らねば、という気持ちです。
常にNFTゲームの最新情報は追っていますので、よろしければTwitterをフォローください。長文となりましたが、ここまでお読みいただき大変にありがとうございました。