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「N高」から考えるメタバース──2万人が通う「仮想教室」の現在

約2万人が通う高校が日本にある。10年前に想像できたでしょうか。「すごい」のひとことです。KADOKAWA・ドワンゴが運営するN高等学校・S高等学校です。N高は2016年4月1日に開校しました。

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N高等学校・S高等学校はKADOKAWA・ドワンゴが創るネットと通信制高校の制度を活用した、新しいネットの高校です。生徒数は両校合わせて19,732名になります(2021年5月現在)。

N高を有名にしたのは、なんといっても「VRを使った入学式をやる高校」というインパクトです。制服を着た高校生全員がVRゴーグルを付けているという写真1枚だけで、「スゴい高校ができたぞ」という事件性を感じさせます。マーケティングも非常に上手いです。(引用

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「N高の生徒数」が伸びる、3つの理由

開校から5年。N高の生徒数は少しづつですが伸び続けています。すでに日本最大規模の生徒数になりました。

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KADOKAWAグループのIR資料によれば、(1)「ドワンゴが独自に開発した、ネット時代に合わせた 双方向型教育学習サービスや、VRによる体感型学習 サービス(普通科プレミアム)を提供」と、(2)「N高生徒数の順調な増加とS高の開校(21年4月) によりキャパシティ増加」の2つをトピックとして挙げています。

これを私なりに解釈し直して、N高のすごさを3つのポイントから伝えたいと思います。

(1) 有名人を巻き込む「生徒数」の魔力

・ギャルタレントのみちょぱ(池田美優)さん

・フィギュアスケーターの紀平梨花さん(2018年グランプリファイナル優勝)

・テニス選手の望月慎太郎さん(2019年ウインブルドン選手権ジュニア男子シングルス優勝)

・女流棋士の大島綾華将さんと加藤結李愛さん、囲碁棋士の上野愛咲美さん

・プロeスポーツ選手の相原翼さん(「第18回アジア競技大会 ジャカルタ・パレンバン」日本代表として金メダル)

・2020年度の大学合格実績は東京大学4名、京都大学1名、早稲田大学13名、慶應義塾大学16名、世界ランキング20位のエジンバラ大学1名、同25位のトロント大学1名…and more.

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N高は、たった5年間で非常にダイバーシティに富んだ生徒が在籍してきました。輝かしい実績が並びます。

ほかにも大手芸能事務所のワタナベエンターテインメントEXILEのLDHが運営するダンススクール「EXPGスタジオ」などとN高が提携するなど、華やかな話題を振りまいています。

しかし、よく考えてみると1万5000人ぐらいの高校生がいれば、ちょっとした有名人がいても、まったく不思議はありません。

文科省のデータによれば、高等学校の普通科は全国に3733校あり、約225万人の生徒がいます。単純に平均すれば1校あたり約603人。N高は平均の約25倍も巨大なマンモス校です。まさに数字が持つ魔力です。

(2) VRを交えた多様性に富む「特殊なカリキュラム」

N高は通信制高校のため、必要な学習を好きな時間にできるのが強みとなっています。年に5日程度あるスクーリングや期末テスト以外は、部活や運動会・遠足などの行事を含めて学校生活がすべてネット上で行われます

授業では「N予備校」というオリジナルアプリを使用し、映像授業を受けて、レポートを提出するまで、すべてがアプリ内で完結するそうです。とてもラクですね。

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N高・S高には年間で6600の講義があるそうですが、2021年度より1000程度の講義をVRに対応しました。

うらやましいのは選択肢の豊富さ。人気のプログラミングの授業はドワンゴがサポートし、芸能・ファッション・ヘアメイク・ダンスなどのジャンルは専門性の高いスクールと提携することでカバーしています。

起業部やeスポーツ部といったネット部活では、各界で活躍する専門家を顧問に招いていて豪華です。たとえば、N高投資部はライブドア事件で名を馳せた村上ファンドの村上世彰氏が特別顧問を務めています。村上財団が用意した1人当たり20万円の資金を実際に株式市場に投資をしながら”お金”について学ぶそうです。

ちなみに、政治部の特別顧問は国際政治学者の三浦瑠璃氏が務め、初回は麻生副総理が登壇しました。

さらに、「プロジェクトN」と呼ぶ、課題解決型プロジェクト学習があります。各省庁、日本テレビ放送網株式会社、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アドビなど名だたる企業が協力し、実践的です。このnoteを読むと雰囲気がよくわかります。なにげにnoteで情報発信する高校も新しいカタチですね。

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そのほかにも、ブロックチェーン卒業証書を授与したり、SCRAPの「リアル脱出ゲーム」を創ってみたり、フィリピンにバーチャル留学をしてみたりと、本当にバラエティに富みすぎです。

(3) 物理空間を超える「メタバース」の高校

極めつけは、2021年度4月から始まった「普通科プレミアム」です。「普通科プレミアム」では、VRゴーグルのOculus Quest2を生徒へ配布し、一般的な映像講義だけではなく、教室風のVR空間内で授業を受けることができるようになるのが最大の特徴です。

面白いのは、同じ授業を受けたほかの生徒の動きを記録し、自分の横にキャラクターを出現させて、同じ動きを再現させることができるそうクラスメイトの友だちといっしょに授業をしているような感覚を体験できます。好きな時間に学習する通信制高校ならではですね。

驚いたのはN高がSlackを当たり前に使っていることです。2016年から導入し、クラスのホームルームやネット部活、生徒同士の雑談などのチャンネルが開設され、現在では8500を超えるチャンネルがあるとのこと。Slackから表彰されていたりします。このブログを読むと、雰囲気がよくわかります。

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学年合同の「Zoom」使ったホームルームも月2回ほど開催しているとのこと。ここまでやるのかと思い、通信制高校のイメージが変わりました。

これを別の言葉に言い換えると「メタバース」に高校があるようなものです。すべてが3Dというわけではありませんが、物理空間に2万人が通う高校はさすがにつくれません。仮想空間に新しい高校をつくった感があります。

メタバース:《meta(超越した)とuniverse(世界)の合成語》インターネット上に構築される仮想の三次元空間。利用者はアバターと呼ばれる分身を操作して空間内を移動し、他の参加者と交流する。(デジタル大辞泉

N高に学ぶ、2つの大事なこと

学校法人角川ドワンゴ学園の理事を務める川上量生さんは、いろいろと話題になることが多いN高について、インタビュー記事でこんなことを言ってました。

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「僕たちはN高に通ってもらいたいから、将来の生徒に対して話題づくりをしているわけじゃないんです。『いま、N高に通っている生徒のためにN高が話題になるようにしている』だけなんです。そうすれば自分が通っている学校をまわりに隠さなくてもよくなる、ということが大切です」
僕たちは、N高を『不登校生のための学校だ』という言い方を一切しませんでした。『(あなたのような)不登校生のための学校を作りました』と言われて喜ぶ生徒なんて、ほとんどいないと思います。僕たちはN高を『未来の学校』『未来のエリート学校』だと言い張りました。これは実際、本当のことだと思っています。

川上さんの言葉には、とても大事なことが2つあると思います。

1つ目は、ニュースなどで話題になることで、初めて社会で認められるということです。直近で「​N高が労働基準監督署から是正勧告を受けた」と報道されましたが、これまでの​N高の受け入れられ方は「最先端のテクノロジーを使っていてスゴい」という好意的なものです。初めは「ネットで教育ができるわけない」と言われたそうですが、多くの人に知られることで偏見がなくなっていったのだと思いました。

2つ目は、「これはホンモノだ」と言い続けるとホンモノになるということです。VRを使った入学式などは「話題づくりか」と思わせるところもありましたが、実際に最先端のVR教材や仮想教室をつくってしまうなど、本気で実現してしまったのがN高の本当にスゴいところだと思います。どんなにバカにされようが言い続けることの大事さを学びました。

最後に

ここからは、自分にとってのN高からの学びについて書きたいと思います。私の専門はデジタルメディアとNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)です。NFTも同じようにニュースで話題になることで、複製可能なデジタルデータでもブロックチェーン技術を使ったNFTのデジタルデータならば価値があると社会から認められました。

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一方で、仮想通貨の価格が下がるたびに「NFTはバブルだ」と言う声も高まります。だからこそ、クリエイター全員で「NFTはホンモノだ」と言い続けることが大切だと思いました。

来たるクリエイターエコノミーの時代を迎えるにあたり、いちクリエイターとしても声を大にして「NFTはホンモノだ!」と私は叫び続けます

会社でもNFTプラットフォーム運営を手がけてます(最近「カードファイト!! ヴァンガード」とコラボしました)が、「ゲームで稼ぐ(Play-to-Earn)」と言い続けています。これもことあるたびに主張したいと思います。

デジタルデータからつくられる仮想空間に滞在する時間が長くなればなるほど、NFTはホンモノだと感じられるようになる。その意味でも、まったく違うアプローチで「仮想教室」というメタバースを創り上げたN高にはリスペクトしかありません。

もともと私はテレビ東京で、ニコニコ動画で活躍するクリエイターを取り上げていく「ドリームクリエイター」という番組を制作していました。そのご縁もあり、当時は夏野剛さん(現KADOKAWA社長)に番組出演いただく機会などがありました。その意味でもN高の存在は感慨深いです。これからも応援しています。

以上、初めてのnoteでした。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます! また書くので、よろしければフォローください。

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