「専門店化時代」が定着してきた!

牡蠣に雲丹に魚卵、フォアグラ...とキラーコンテンツ食材の「専門店」を前面に打ち出した居酒屋や酒場、バルが増えている。顧客からすれば「何屋かわかりやすい」、店側からすれば「売れ筋メニュー」を軸にオペレーションしやすいというメリットがある。

蟹やうにを前面に!

札幌で話題の繁盛店「居酒屋にほんいち」。同店の売りは、「かにぶっかけだし巻き卵」。だし巻き卵の上に、客がストップをかけるまで蟹の身を盛るパフォーマンス。もちろん身がこぼれて下のお皿に落ちる。「札幌一太いたらば蟹」もあり、水産問屋が営む鮮魚居酒屋という業態でありながら、「蟹専門店」的な打ち出しが印象に残る。経営はまだ30代の市川暁久社長のアイ・コンセプト。高田馬場で話題なのは「雲丹専門店」を謳った「利尻 うに小屋」。希少な「水うに刺し」(一人前980円)や「雲丹しゃぶ」(一人前1980円)など、キラーコンテンツのうに料理が売りだが、姉妹店の「あげ屋」の名物である「栃尾あげ」をはじめ、居酒屋メニューも並ぶ。店名こそ専門店化を打ち出してはいるが、実は「うに料理を掲げた居酒屋」である。経営はプラスフードシステム(勝俣賢治社長)。

チェーン化に成功した例も

こうしたキラーコンテンツ食材を打ち出して「専門店化」をコンセプトにした居酒屋、酒場、バルがこの数年増えている。ブレークした例として、「かき小屋」(ジャックポット)、「イカセンター」(スプラウトグループ)などがある。「かき小屋」は、祐天寺から始まり、いまや10数店舗を数える。「イカセンター」も、西新宿から始まり、多店舗展開中だ。これらは専門店の強みを活かしたチェーン展開を行っている。総合居酒屋や何屋かわかりにくい店と比べ、来店動機が明確になり、販促面でも顧客に訴求しやすく、口コミで広がるというメリットがある。同じ鮮魚系居酒屋でも、こうした特定の人気食材を店名に打ち出すことによって、認知度のスピードを上げることが可能なわけだ。鮮魚以外でも、銀座にある「銀座フォアグラ」「のどぐろ屋」などはとてもインパクトがある店名だ。店名を聞いただけで、「えっ!フォアグラの専門店!?」「のどぐろ⁉︎」という驚きがあり、「行かなきゃ!」といった来店動機が生まれる。

大衆業態にも専門化の波

そして、「専門店化」の波がさらに広がる条件として、レストランや居酒屋だけでなく、大衆酒場やバルの「専門店化」がある。例えば、ご当地ブランディングをコンセプトにしているファンファンクション(合掌智宏社長)の「北海道厚岸 かき酒場」、「炉端かば」のかばはうす新業態の「エビキング」、そして神楽坂の「牡蠣屋バル」など。これらは、「専門店の日常使い」を促すような流れをつくる可能性を秘めている。今後、「うにバル」「海老酒場」といった店が続々と登場してくるのではないか。しかし、この手の業態で注意しなければならないのは、“羊頭狗肉”では必ず失敗すること。高級食材であればあるほど、クオリティやポーションが中途半端だと、期待が失望に変わり、ネガティブな評価が口コミで広がる。やはり、「ハイクオリティ・カジュアル」(品質重視・低価格)のトレンドを外してはならないということだ。

PROFILE
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。

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