『毒婦たち 東電OLと木嶋佳苗のあいだ』

平凡な主婦にとって、毒や闇が必要だ。むしろ、平凡であればあるほど、毒や闇が必要なのだ。ちょうど、やじろべいがバランスをとるように……

東電OL殺人事件、私はこの事件をリアルタイムで追っていない。記事を見たら、「ああ、ああ、あったな、こんな事件」という程度の認識しかない。

昨年、東京都の小学校教員が新宿で売春行為をして懲戒免職になるニュースがあった。歌舞伎町の大久保公園で売春待ちをしていたらしい。しかも、逮捕は二回目だった。

なんで、そんなことするんだろうと思って調べてみると,地下アイドルに貢ぐためとかなんとか。なんで、そこまで……と、引っかかる。

そこから派生して、地下アイドルの握手会やら、お金だけじゃなさそうな売春やらと調べて、最終的に、東電OL殺人事件にたどりついた。園子温の「恋の罪」も、ドキドキしながら観た。佐野眞一さんの本も読んだ。

この本の、へーって思ったところ。

例えば、木嶋香苗のことについて

父親に対する二律背反的な思いが非常に強かったんじゃないでしょうか。「父の娘」だった佳苗にとって、父親は手記にあったような尊敬する理想の父でありながら、どこかで彼女はお父さんの空虚さを軽蔑していたろうし

36ページ

おそらく父親は、娘に対しては自立とか小倉千加子を薦めながら、妻に対しては「家にいて欲しい」と言っていたんですよ。家庭の中の嘘ですよね。

37ページ

朝日新聞を読んで、リベラルなことを言っているわりに、家庭の中は封建的……うちも、そんな家庭だったなぁ。結局、私が手に職を付けて働きたいって思ったのは、母親みたいになりたくなかったからだし。全部を否定するわけじゃないけど、今でも父と母が作った家族は、自分の居場所じゃないと思っている。

母娘にも相性がありますから。お母さん自身の女性であることに対する憎悪みたいなもの、ミソジニー的な自分への眼差しと日微妙にシンクロするんだと思います。
そうよね、特に思春期に色気づいてくる娘っていうのは、母親にとってほんとうにおぞましいでしょうね。

41ページ

母と娘の難しさ。相性があるって、頭で分かることって大事だと思う。そうやって割り切って、距離をとって、なんとかやっていくのも家族。

東電OLのことについては、男女雇用機会均等法より前に社会に出た世代だった流れで。

そもそもあの会社には、女性が出世できるようなキャリアパスがないから、選択肢もないのよ。
(中略)
一般職の女向け指定席しかなくて、ガラスの天井どころかはっきり見えるバンブー天井よね。この会社には居場所が内、居場所がないから頑張っても報われないとなれば、会社にイヤがらせするしかないじゃない。

48ページ

渋谷に立っているときの濃い化粧のまま会社に行ったという話も、末期の生活の荒廃っぷりが透けてみえるような、これ見よがしな態度だったんでしょう。見ないふりをする人たちに対して、これでもか!という気持ちが絶対あったと思う。
(中略)
リベンジ意識というのかな。一般職の制服を着てたってエピソードも、会社に向けて「あんたたちはこんな風に私を差別しているのよ」っていうすごいパフォーマンスじゃない。それを、東スポのお姉さんが(記事に)書いてるのに佐野眞一は書いてなかったんだね。

49ページ

見ないふりをする人たちに対して、これでもか!という気持ち……
どこかで、誰かが関わっていればってことあるよね。他の人達の東電OLさんを見ている空気まで伝わってくる。

なんで彼女は90年代に街に立ってセックスを売ったんでしょうか。
(中略)
女がパンツ脱いだくらいで寄ってくる、男ってこの程度のちょろい生き物だってことを、街に立つたび毎度確認するわけじゃない。
(中略)
(東電OLは)2000円とか、信じられない額に下げていく。彼女は自分を安くしたんじゃなくて、男につける値段を自分で決めていたんだと思うのだけれど。

51ページ

彼女はひとりでセックスワーカー労働組合的なこともしているんですよ。SM組合で働いているときにひとり組合で。

で、労使交渉やってたの?

労使交渉してたんですよ。6割が店、4割が女だったセックスワークの取り分を「6割女が普通だろう!」とその額をくれるまで帰らなかったっていうエピソードが残ってるんです。

51,52ページ

東電OLが、行くトコまで行ったのって、結局、孤独なんだ。会社でもひとり。売春婦でもひとり。戦う仲間がいたら、人生変わってたんだろう。仲間を作ることができなかった、孤独。

私が闇を追う理由。もしかしたら、闇落ちしている孤独な仲間を見つけるため?孤独じゃないって思うため?

うーん、自分の心の闇を見た本だったな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?