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糸島の観光について

ここ10年の間で、糸島が観光地化している。

「観光」という簡単で、すぐに現金化できるシステムに、素直な糸島の人々は真面目に取り組んでいる。

そもそも糸島が観光地という認識をされ始めるきっかけとなったのは、かつて前原市・志摩町・二丈町という三つの町が合併したのがきっかけである。

それまでは、独自に観光発信をしていたものの、それぞれの町で、山や田んぼがきれいだったり、海がきれいだったりという特徴があり、言い換えれば前原市にはお勧めできる海がなかったり、志摩町には山がなかったり、今のように一つの町の中に海も山もあるというわけではなかった。

ところが、10年ほど前に流行した合併ブームに乗り、この三町もかつて糸島郡だったころの区域(福岡市西区も糸島郡だったけど今は福岡市)糸島市となったのである。これが2010年の話。

その後、2011年3月に東日本大震災が発生したのをきっかけに関東からの移住者が目立つようになってきた。それに合わせるかのようにSNSの普及が加速しはじめ、移住者たちはアクセスが良く、美しい景観が日常に存在する糸島を個人レベルで発信し始めた。特に、今まで関東に住まれていた方々は、透き通った青い海には感動されるみたいで、私も東京に行ったときに、海の色を見て改めて糸島の海の青さを知った。

そういうタイミングがうまく合わさって、だんだん知名度が上がり、観光という部分に力を入れ始めたのだと認識している。

しかし、糸島には、手つかずの自然が身近にあるわけでもなく、九州でも、もっと田舎に行けば、もっと素晴らしい自然景観を見ることができるのだが、どうして糸島がこんなに人気になるのだろう。

その最大の理由は、九州の大都市である福岡市に隣接していることが大きな要因である。そのアクセスの良さたるや、糸島市のメイン駅である筑前前原駅から東京の浜松町まで、雨に濡れることなく約3時間程度で行くことができる。福岡市からは電車でも車でも約40分程度で糸島に行くことができる。

このアクセスの良さを考えたうえで、有史以前より人々が住み、山や海、田んぼなど歴史と自然の調和のとれた景観を感じることができるのが糸島だと考えている。

さて、人々にとって、「安らぎ」とか「非日常」とかいう部分は大事だと思っている。喫茶店やカフェに人々が集うのは、普段の生活から少し離れてリフレッシュすることが重要だからだ。もっと大きく言えば、社会に経済と文化が両立しているのと同じで、どちらかに偏ると途端に社会のバランスは崩れてしまう。経済部分は生きていくための現金や物を得るのに必要な部分であるが、あまり目に見えない文化の部分も、「経済が発展するための新しい発想」を生む点に於いて特に重要だと思っている。

糸島が担うべきは後者の部分で、日常空間である福岡市にとっての非日常空間であるべきだと思っている。都市に無いものこそが価値となると思う。

これまでの観光というのは点であった。太宰府とか柳川とか、一つの目的地があって、その周辺に商業施設が集まるから、その部分に行けば観光は達成できた。しかし、糸島はその大部分が純然たる農村地帯で、今までの観光地という気分で来られると、どこへ行って良いのかわからずに途方に暮れるという方も多くいたということを聞いた。

そういうことがコロナ以前では頻発しており、特に2017~2020年の3月にかけては、多くの人が訪れ、かなりの賑わいをみせたが、その裏では、自然景観が荒らされたり、自然景観に浸るために多くの人が来られているのに、受け入れる側の糸島では、ウケる場所を作るべく開発工事が進んだり、媚びた部分が多くなり、糸島らしさという個性が失われつつあった。

古材の森では、2018年より「糸島印象派」というタイトルの展覧会を開催している。自分が美しいと感じた糸島の風景を描く地元の画家 宮田ちひろさんの個展である。その絵には、観光地ではなく本当の美しい糸島が描かれているが、「印象派」と名のつく展覧会を開催するにあたり、あるコンセプトを持たせた。それは、印象派の画家達の活躍した時代背景と、現在の糸島の背景が似ているという部分である。

19世紀後半、フランスでは、交通の発達や市民生活の変化に伴い、都市の喧騒を離れ、豊かな自然が多く残るパリ郊外の村や町が身近な行楽地として人々を惹きつけた。今流行のマイクロツーリズムである。そこで、主に人々の生活を描き出した印象派の画家たちは、これらの自然や景観を主なテーマとして創作に励んだという。私は、現在の糸島もこれに似ていると感じている。

今まで漠然としていた糸島観光の主軸(コンセプト)として、この土地の魅力であり、財産でもある自然環境が、次世代へと引き継がれ、ここに暮らす人々や、ここを訪れる人々が心豊かに過ごすことができる「身近な自然環境こそが糸島の価値」を古材の森から発信していきたい。

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