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甍の波を縦横無尽!! 仕事に学びに全力投球。鯉を眺めてリフレッシュ。

令和2年度の「現代の名工」に選ばれた、古材文化の会理事の光本大助さんにお話を伺いました。

現代の名工

※「現代の名工」とは、卓越した技能を持ち、現役で活躍する人を厚生労働相が表彰する制度。令和2年11月9日に全国で150名の方が選ばれ、4名のかわらふき工の一人として光本大助さん(京都府瓦工事協同組合副理事長)が表彰されました。

―光本瓦店について教えてください。

 自分が2代目です。父親は学校の先生をしてから繊維会社へ働きに出て、後に瓦の会社に勤めて瓦葺き職人になりました。それから母親が商売の才覚を発揮して仕事を受注するようになり、瓦屋業を営むことになりました。私は子どもの頃から両親の商売を手伝っていましたが、瓦店を継ぐ気はありませんでした。けれど大学を出て他の仕事をするかを悩んだ結果、商売を継ぐことにしました。
 京町家のほか、宮内庁や文化財、堂宮などあらゆる屋根工事を手掛けて、瓦屋根の美しさとともに耐震性や耐久性も考えながら施工しています。昔の瓦工事は土葺きばかりでしたが、今は引掛け桟瓦葺きが主流です。阪神淡路大震災の後にすぐに瓦工事協同組合で技術委員会を立ち上げ、瓦落下の原因究明と新たな工法の開発に取り組みました。

取材中

――その研究成果は組合の「施工ガイドライン」にも取り入れられ、瓦葺きの技能と技術の伝承、業界の発展や技能士の地位向上に役立っています。そして、光本さんは瓦葺き以外に大工さん等の仕事にも興味を広げて学んだそうです。

 瓦葺きと木造建築のつながりから大工さんの学校でも学び、その後、板金の仕事も学んで、次は左官をと考えていた矢先に瓦葺きの専門学校で講師をすることになり、左官を学ぶことは断られてしまいました。
 それ以外にも10年ほど前ですが、同志社大学の大学院で勉強しました。難しい話を聴講するのですが、とても楽しい時間でした。大学院では経営者としての発言が特におもしろがられたようです。修論は、引退後の職人と未習熟の若者を結びつける構想(古材文化の会が関わっている現場)をテーマにまとめました。今でも瓦工事協同組合の外に、木造建築に関する様々な団体にも入っています。

――仕事とともに学ぶことにも全力です。古材文化の会でも創設時から活動されています。

(お話を伺った光本瓦店の)この蔵は山科区西野にあった土蔵を移築したものです。竹小舞や土壁塗りの一部を会のワークショップで施工し、階段や建具も徐々に整えてきました。今では皆さんに寄り合いの場として使ってもらっています。

光本瓦店

 古代瓦と平窯復元プロジェクトにも関わりました。平窯で瓦を焼くのが強いのではないかという試みで一晩中かかって焼きました。平窯を作るのに寝かせておいた瓦の葺き土を使って作ったのですが、窯を作るのに瓦も使うんですよ。最初の窯の瓦はどうして作ったのでしょうね(笑)

平窯

――近くにある光本瓦店の別の倉庫は、古材文化の会の古道具置き場として使わせていただいています。去年の秋には、古材市を開催しました。

古材市

――鐘馗さん(※)をたくさん集めてはりますね。
 瓦屋なので鍾馗さんは普段から仕事で取り付けているものです。屋根工事とは関係なく「鍾馗さんありませんか?」とよく聞かれるようになり、手配しているうちにたくさん手元に集まるようになりました。訪ねてきてくれる人にも見易いように雛壇のように棚を作って鍾馗さんたちを飾っています。建築士さん、お施主さんと一緒に鍾馗さんを作ってみたり、まちセンで鍾馗さん作りのワークショップをしたりもしました。最近、瓦店とは別に「京都鐘馗屋」という会社を設立しました。従来からある鍾馗さんも扱い、オリジナルデザインの鍾馗さんも製作する会社にしようと考えています。

光本さんtop

――庇・屋根の上の鍾馗さん、もっと知って欲しいですね。瓦と鍾馗さん以外に熱中していることはなんですか。
 錦鯉と金魚(らんちゅう)を育てています。金魚との出会いはお客さん宅でした。ただならぬ量の金魚に心奪われました。池を3つ作って、小さな時から大切に心込めて育てていくんです。品評会があって、見せ合って育て合うのです。
 一昨年の台風後は忙しくて大変やった。昼間は被害の点検に走り回って夜は電話に追われて。そんな時でも鯉や金魚の泳ぐ姿を眺めていると気持ちが落ち着いてきます。

――鯉や金魚の話は謙遜されていますが、品評会で入賞されているそうです。池も小さなものではなくプールのようなんだそうで、話されている姿がとてもうれしそうです。

 みなさん、いろんなリフレッシュの仕方があると思いますが、わたしにとっては鯉や金魚や畑作りがあるからこそ、さらに頑張れます。鯉も金魚も癒しです。

――カラオケで100点満点出すほど歌が上手と聞いています。

 歌は好きです。グリークラブにも入っていて、合唱コンサート等で歌ってます。他には、三味線はだめだったので、次はピアノを習うことになっていて、今はコロナ禍の状況やから見合わせています。

――お仕事の他にも趣味を超える八面六臂の活動ぶり。合唱コンサートや今後、ピアノにもチャレンジされるとか。楽しいお話をありがとうございまいした。

看板

イラスト・聞き手小出純子

──『古材文化』Vol.155(2021.3.1発行)より 一部加筆有り

※鍾馗さんについてもっと知りたい方は、NHKオンデマンドCore Kyotoの『Warding off Epidemics: Heartfelt Prayers for Safety』(2021.6.3)で紹介されています。

#現代の名工 #瓦屋さん #鍾馗さん #京都