医療事務が脳梗塞で入院した話・その10

いろいろな訪問者が来るわけですが、入院2日目の午後、ある意味衝撃の訪問者が来ました。

リハビリとかいろんな説明とかする人が入れ替わり立ち替わり来て、間に昼食なんかも入ってやっぱり1時間くらいかかったり、点滴の入れ替えがあったりと、なんだかんだありつつもすることがあるようなないような感じで、ぼんやりと、SCUの、家族が見舞いに来たときに入ってくる出入り口付近を見ていたのです。

そこは自分がトイレに行く時やリハビリや検査に行く時の出入り口とは違う出入り口で、そこが開くのはもっぱら午後と夕方にある家族の面会時間でした。

なんでその出入り口を見ていたのかというと、自分のベッドの位置的にちょうどいい感じでそこにあるからというだけで、そこに視線が行くことには何の意味も無かったのです。

その出入り口のドアがすーっと、面会時間でも無いのに開きまして、医事っぽい普通の事務服の人が入ってきました。

めっちゃ見覚えある人が、そこに!

手を振りまくる患者!(わたし)

向こうもわたしに手を振りまくりで近づいてきます。

「いやーもーこゆみ(仮)さーんびっくりしたー昨日入ってきたの見とったけど忙しくてー」

昨日はうちも総括ですからどこの病院もこの時期忙しいのは当たり前だし、医事なら当然電カルで入院患者などほぼリアルタイムで把握済みのはずです。

「ちょ…KKさん、ここ!?」
「ここなのよー」

わたしがKKさんと呼んだ事務服の人は、もともとうちの病院の病棟医事にいたのです。

当時2人ともパートだったので、一つの病棟を彼女と2人で回してた事もありますし、なんならパートなのに1病棟押しつけられてキャパオーバーでうつ状態になって心療内科に世話になってたのを彼女が育休から復帰して半分担当してくれて救ってくれたわけだし、その後彼女が退職するときにわたしに全部引き継ぎをしていったのだけど、その頃にはパートでも1病棟回せるようになってたので、わたしもそこまでは大丈夫だったわけで。

彼女が諸事情により退職した後は、特に連絡も取っていなかったのですが、ここの医事課で働いていたのかー!? まあここの制服着てそんな書類持ってくる時点で、そうとしか思えないけど! ていうか、医療職の世界は案外狭いんじゃないかと思っていたけど、医療事務員の世界まで狭いとは思ってなかったよ!!

で、持ってる書類が何をするものか、こっちも先刻承知なので
「書く書く!」
と、手を伸ばします。

彼女はこれ↑の申請用紙を持ってきたのです。わたしも仕事してる時は、緊急入院とかが入ってくると、限度額認定証の手続きをするように案内をするために、病棟に走ってました。

ご家族さん今すぐ市役所行って来て!今日は先生の話待ちなら明日でも良いけどとか、今すぐ会社の総務に電話して!とか、今すぐ用紙書いてっわたしがポスト入れて来るから!とかそんな感じで早く手続きしてほしかったやつですよ。

これ手続きして医事に見せてもらうと(当月中が望ましいけど無理なら翌月のレセプト締める前が良い)、医療費がまるまる3割負担ではなく所得に応じた上限額までの支払いに出来るから、絶対速攻で手続きすべき。で、認定証の現物が来たら速攻で病院の窓口に見せるべき。

だからもうね、脳外で入院なら案内して当然でしょ限度額超えるに決まってるんだからさ。

盲腸で緊急入院しましたー今から手術するわーなんて事になったらダッシュですよ、脳梗塞と違って盲腸もとい急性虫垂炎はすぐ帰っちゃうのよ、昔は1週間くらいいたみたいだけど、最近は3日で帰っちゃう人もいるから。

だから一般の人には「なんだ盲腸か、手術してすぐ治るから医療費も大したことないでしょ」って思われがちなんだけど、急性虫垂炎の手術は意外と高いんですよ、金額的に。

えーと虫垂炎の話はおいといて、そもそもDPCで主病名が脳梗塞になると、包括部分は結構高い点数になるんですよ。しかもわたし既にエダラボンで分岐してるし。そういう点数に決まっちゃってるんですよ。

今の話、わけわかんないと思いますが、日本の急性期病院の多くは、入院の医療費の計算を、DPC(診断群分類別包括評価)と言われる方法で計算しているのです。投薬・注射・処置・検査・画像診断などは包括、大きな処置とか内視鏡検査や生検などの大きな検査とか、手術・輸血、指導料などは出来高で算定しています。

入院してる人、病棟のどこかにそんなこと書いてある掲示があるはずですよ。

ものすごく大ざっぱに言うと、一日当たりの入院料が包括で計算されるんだけど、何の治療をしているか、もしくは何の治療に一番医療資源を突っ込んだかによって、一日当たりの入院料が変わるという計算方法です。

一日当たりの、と言っても入院何日目から何日目の包括点数が一日当たり何点、その後何日目から何日目の包括点数が一日当たり何点、またその後何日目から何日目の包括点数が一日当たり何点というのが、それぞれの病名によって全部違うというのがまた説明しづらいのですよ。

病院の窓口にそれを訊くとあわあわしちゃうのは、説明が面倒くさいというのもあるけれど、これを説明して一般の患者がわかるとはとても思えないからなのですよ。

それを説明しなくちゃってことで以前は説明の紙を配っていた時期もありましたけど、説明することが望ましいって方向になって、望ましいってだけなら、もともと煩雑な作業だし、患者の勘違いも多くてトラブルの元だし全員への説明やめとくわ、訊いてきた人には答えるけどねってなってるんですよ。

なので、わたしはKKさんが2度目にわたしのベッドサイドに来た時に、自分のDPC病名訊いてあります。

「延髄梗塞ってなっとったわ、あんまり見たことない病名」とKKさんは言ってました。

これを会計・レセプトのためにDPCのコーディングをすると、

主傷病名は「延髄梗塞・急性期」

病名にはICDコードという物がついていまして、これのICDコードは「I165」なんですが、チェックはわたしは診療情報管理士に丸投げだったのでよくわかりません。主傷病名には詳細病名が必要なのですが、うちの診療情報管理士は外部の人曰くかなり優秀なのだそうで、確かに殆どの病名は膀胱癌→膀胱後壁部膀胱癌、みたいに入れ替えてました。

入院の契機となった傷病名も(多分)「延髄梗塞・急性期」

脳卒中の発症時期は発症から入院が2日かな?なのと、JCSは0:意識清明なので「脳卒中発症3日目以内かつJCS10未満」(JCSというのは意識障害のレベルの分類で病院では結構見かけます)

手術「なし」

手術・処置等1「なし」

手術・処置等2「あり:4 エダラボン」

定義副傷病は今のところ「なし」

発症前Rankin Scale(重症度って思っておけばいいのでは)は0じゃないけど1とか2とかの感じなので重症度は1(0と1があって0がより重症)になるかな。

と、まあ、こんな感じでここまでやると、14桁の診断群分類が出来上がり、それに従って包括部分の点数が決まるわけですよ。

こんなのいちいち手作業で出来るわけがないので、コーディング用のソフトがありますんで、ソフト頼みの作業ですよ。

あと、ソフトだけに頼ると痛い目に遭うというか、ソフトだけでは仕事出来ないので、この本が一番カラフルで見やすい。つか必須。

脳梗塞と肺炎は、選択肢がやたら多くて、2大面倒くさい病名なんで、まあそのなんというか。

普段、泌尿器とか眼科とかやってたんで、もっとあっさりしたツリー図なんで簡単だったし、外科の化学療法もコーディングしてたけど、手術・処置等2で薬剤で分岐するだけだったので、そこは結構楽しい作業だったのね。

毎日、医者がこの病名って決めたところから医事はこんな感じのコーディングをやってるわけですが(医者が全部コーディングする病院もあるらしい)ちょっと何か別の治療をするとコーディングが変わって点数がごっそり変わるんです。

いっぺんコーディングしたらそれで終わったじゃないんですよ。なんなら病名からごっそり変わっちゃうこともよくあるんです。

DPCの14桁の診断群分類は全てが包括算定ではなくて、このコーディングになったら出来高算定ですっていうのが少なからずあるんですよ。ずっと包括算定だったのに、何かちょっと処置をしたがために最初から出来高算定に直さなくてはならなくなって、阿鼻叫喚とかいうこともよくあるんです。

がんで化学療法をしていて、それまで包括だったけど、新しい抗がん剤に切り替えたわってなった途端、出来高算定になったりとかしょっちゅうあるんです。

その場合は一度出したレセプトを全て返戻して、新たにコーディングして出来高算定になってしまった状態のレセプトを再提出しないといけないんです。

だから、先生方におかれましては、DPCだしどうせ見えないから病名つけないとかじゃなくて、レセプトで見えなくても薬や検査の病名はちゃんと入力しておいていただきたく…

なんならそのちゃんとつけた病名が定義副傷病に当てはまって分岐できれば包括点数がぐんと上がったりするので、好中球減少症とかマメにつけてほしいのです。

ちなみにうちは入院中に病名をつけておかないと、あとで外来にこっぴどく怒られるのでした。だったら、外来でやったことの病名つけとけよって感じでしたが。

あれ、脳梗塞の話はどこへ行ったのかな…。

限度額認定証の申請用紙は、速攻で書いたので、KKさんが郵送してくれました。ありがとうありがとう。

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