見出し画像

撮影”前後”のクリエイティビティ拡大がこれからのカメラUXの鍵になる

現在これまでのように自由に撮影をおこなえている人は少ないと思います。特にポートレートのように人と接触する撮影や登山などの危険を伴う撮影は現在でもなり控えられていたのではないでしょうか。ただ緊急事態宣言も解除されましたのでこれから徐々に撮影も活発になってくると思います。

私が興味をもっているのは、「撮影できない」という事態に遭遇したことによって撮影という「クリエイティブ」がこれまでと同じではなく、より多様なものへと進化していくのではないかということです。

具体的には撮影にいかなければ無用の長物となるカメラが「撮影以外でも楽しめるカメラ」に変わっていくために何が必要なのかを考えてみます。


撮影ライフサイクル

何かが生まれ消費され廃棄されていく一連の流れが「ライフサイクル」です。ライフサイクルは主行為とそれに対する前後の行為によって構成されます。

写真撮影では、撮影前、撮影中、撮影後を「撮影ライフサイクル」と考えることができます。

画像 1


撮影前には、雑誌やWeb、SNSなどで写真を観ることで刺激を受けて新たな撮影への意欲を高めイメージを膨らましていき、その動機を起点にそのイメージを実現していくための準備をおこないます。

撮影中は、準備したものをしっかりと使いながら計画を実行し、さらに現場でのインプットをその場でアウトプットに変える努力をします。プロの写真家はロケハン(撮影場所の下見)をしっかりとおこないイメージを作っていく方も沢山いますが、アマチュアでは現地に行って目についたものを撮影するというスタイルが多く印象です。

撮影後は、撮影した映像を当初のイメージに近づけたり、さらに新たな表現にトライをし、次回の撮影に向けてデータを残していきます。以前は撮影した大量の画像をどのように管理するのかという視点で撮影後の行為を考えていましたが、今はSNSへの画像活用も含め作品としての完成度を高めるフェーズとして重視している人が増えてきました。

これらの一連の撮影ライフサイクルをクリエイティブに高めていくための方法について考えてみます。特に撮影前と撮影後はこれまであまり注目されてきませんでしたが、そこでのクリエイティビティを高めることが大きなポイントになるのではないかと考えてます。


<撮影前>撮影モードをクリエイトする

撮影に行く前には、レンズやフラッシュ、メモリーカードやバッテリーなどハードウェアの撮影機材を準備することに多くの意識が向かいます。これは撮影の現地ではハードウェアが不足していたらどうすることもできないことを経験的に知っているからで、ハードウェアの準備は重要です。

しかしどの機材(レンズ)を撮影に持っていくかは判断するときには、現場の状況をイメージし、そこから生み出される写真のイメージを持たなければ決定することはできません。

もちろん手持ちの機材を全て持ち込むこともありますが、それでさえ機材を揃える段階で撮影対象をイメージし、撮りたい写真をイメージした結果ということができます。

これは沢山の撮影機材を贅沢に選べる現代ならではの悩みとも言えます。フィルム時代にはメーカーの違いはあっても、それほど大きな選択肢ではありませんでした。

撮影機材の選択は重要ですが、写真のイメージを決めるものとして撮影設定があります。画作りだけでなく被写体の動きや状態によって適切な設定をおこなう必要があり、それらの設定を撮影前に登録しておくことができれば、撮影本番では被写体へ意識を最大限に向けることができるようになります。


<撮影中>被写体に集中する

事前に撮影のイメージと準備(ハード、設定)ができていれば現場で慌てることなく撮影を進めることができ、結果的に広い視野で現場を確認したり被写体に集中することができるようになります。

現場での視点には大きく2つがあります、一つは自分自身で直接見て感じること、もう一つはカメラの眼を通して見る世界です。これらはそれぞれ違った視点も持つことで相互に刺激し合い表現へと高めていくことが出来るのです。

言い換えれば「主観と客観」を交互に行き来することで見えてるくものが、撮影における視点なのかもしれません。

これまで私の記事で言い続けてきたミラーレスカメラの優れている点とは、客観としてのカメラの眼が撮影設定によって大きく変化する(主観から離れていく)ことによる新しい発見なのだと言い換えることもできる訳です。


<撮影後>魅せるためのクリエイティブ

事前のイメージや撮影時に感じたことを映像として正しく表現するためにRAW現像やトリミングなどの調整をおこなうことや、さらに撮影したデータを素材にしたよりクリエイティブな作業をおこなうことは現在の写真との関わり方において重要性が増してきています。

特に影響が大きいのは、フィルム時代、特にレンズ付きフィルムの時代には、撮影後はポケットアルバムに入れて身近な人に共有いただけの人も、現在ではSNSに写真を積極的に投稿するようになったことです。

写真展や写真集の出版、コンテストへの応募などが作品作りのモチベーションだった時代から、日常的な自己表現(セルフブランディング)のために写真の作品性が必要になってきました。

撮影後におこなう調整の中には、撮影時におこなうことでもっと良い結果になるものもあります。それらを次回の撮影に活かすことでサイクルを作り出すことができます。

さらにそれを撮影レシピとしてまとめることで、自分自身の次回の撮影に使えるだけでなく、SNSのコンテンツとして他の人と交流することで多くの刺激を受け準備のクリエイティブを上げていくことにもつながることになります。


カメラの役割を拡大する

これまで撮影ライフサイクルの中でのカメラの役割は主に「撮影中」にありました。それをライフサイクル全体へと拡張できれば、カメラの新しい価値が生まれるのではないかとか考えています。

画像 5

現在のデジタルカメラは一種の映像コンピュータやネットワーク機器と言えるものです。それらの特徴を考えれば撮影以外にも多くのことにその能力を使うことができます。

例えば画像処理能力が高く無いスマホやPCでも、デジカメとつなげ連携することで高速な画像処理を低消費電力でおこなうことができるようになります。

カメラの役割
 撮影前: 撮影設定、撮影レシピの取り込み
 撮影中: 撮影モードで撮影し撮影をアシスト
 撮影後: 外部画像エンジン、撮影レシピ作成



UXデザインの新しいトレンド

実はこのようにUXをライフサイクルの視点で考えることは最近非常に重要になってきています。

例えば医療分野では、手術の前にVRで手術のシミュレーションをする準備活動や、術後のQoLのトレーサビリティが手術の効果について正しい評価によって、アナログ的な医療の世界にデジタルのパワーを取り込むことができるとされています。

また科学の研究分野でも、仮説の設定、実験準備から実験記録・分析にいたるまでデジタルツールによって大きな変革が起きています。

これらの環境やツールを構築するUXデザイナーにとってライフサイクル思考は非常に重要な視点なのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?