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11月1日午前0時01分

「ユキヤから返信きた?」
軽く脱色したウルフカットの後ろ髪とスマホをいじりながらマナツが問いかけてきた。

俺はスマホに目を落としたまま答える。
「いやー、既読スルーだわ。アサミからは?」

「未読スルー」

「マジで二人でデートしてんじゃね?」

「あり得る〜」
気のない返事だ。

今日は本来、アサミ、ユキヤ、マナツ、俺の四人でハロウィンパーティっぽいものを俺の家で開催するつもりであった。
「2対2でハロウィンパーティってリア充っぽくない?」
というユキヤの浅い提案からであった。
しかし直前になってあろうことか発案者のユキヤからドタキャンの連絡が来た。

『マッチングアプリで知り合った可愛い子とアポが取れたからそっちに行く』と言い出したのだ。
その時点で既にマナツは俺の家に着いていたのだが、
俺が「ユキヤ今日来れないってさ」と事の詳細を話すと、
「今、アサミも来れないって連絡きた」
とスマホを見ながらマナツが呟いた。

「なんで」

「…急な家の手伝いができたって」

「アサミ一人暮らしだろ」

「んー、まぁ細かくは詮索しなかったよね」

「とりあえず何か食うか」

「賛成っす」
ということでLサイズのピザを頼んで二人で食した。
図らずもお家デートである。
…と言いたいところだが、そんな雰囲気は全くない。

眼前でピザを貪る女が一人いるだけである。

「ん…何?」

「なんでもない」

俺の女子に対する幻想は、この一年間で彼女によってことごとく打ち砕かれたなぁと感じた。

マナツの性格上、興が冷めてピザを食べたらさっさと帰ると思っていたが、
「暇だからなんか観ようよ。アマプラあるっしょ?」

と、映画を観始めた。
リモコン触る前に手を洗いに行くのだけは評価したい。

要所要所二人で映画にツッコミを入れながら2時間ほどの映画を見終わる頃には、日を跨ぐ少し前になっていた。

そして無言でスマホをいじる時間が訪れて今に至る。

「クローゼットに魔女のコスプレあるけど着る?」

「やだよ、どうした急に」

「ハロウィンぽいことしたほうがいいかなって」

「なんであたしに着せんだよ」

「ミニスカだぞ」

「余計着ねぇよ」

「えー」

「えー、じゃないわ。あたしがスカート履いてるの見たことあるか?」

「だからこそ、ちょっと見てみたいなぁと思ったのに」

彼女は少し間を空けて口を開いた。

「…そもそもなんであるの」

「去年俺が着た」

マナツは吹き出した。
「ッッ!どこでよ」

「そりゃあ渋谷スクランブルよ」

「え!嘘でしょ!?」

「ほんとほんと。マリカーで負けて罰ゲームで着せられたんだよ」

「ヤッバ!どうせユキヤが言い出したんでしょ」

「おぉ、よくわかったな」

「だって言いそうなのアイツしかいないじゃん」

「まぁな。ってことで魔女の衣装があるんだけど」

「着ねぇよ」

「クローゼットの引き出しのほうにナースもあるけど」

「だからなんであるんだよ」

「ナースは一昨年マリカーで負けて」

「マリカー弱すぎるだろお前」

「弱かねぇよ!たまたまだよ、たまたま」

「嘘、弱そう。絶対弱いね」

「おし、じゃあ勝負すっか?」


コースをランダムにしたのが失敗だった。

「イェーイ!あたしの勝ちーー!!」

「ジャンプ台にバナナの皮置くの嫌われるぞ!」

「戦法だよ戦法!あんたはお人好しがプレイングに出てるんだよ」

「くそぉ、弱みにつけ込まれたか」

「そこまで言ってねぇわ」

「どうすりゃいい、どっちか着れば良いか」

「良いよ別に見たくないよ」

「見たいからマリカーしたんじゃないのか」

「あたし一回でもあんたのコスプレ見たいって言った?」

「見たそうな顔してたから」

「してねぇよ」

「なーんだ」

「ホントに察しが悪いな」

「みんなが良すぎるんだよ。
マナツとか相手の顔色で察して大丈夫?とか言うだろ?アレすげぇと思うわ」

「ふん」

何故だか急に話が切り上がってしまった。
沈黙の狭間でスマホを確認するが、通知はない。


「ユキヤから連絡こねぇな」

「多分こないよ」

「なんで?」

「え?あー、アプリで会った子とよろしくやってんでしょ」

「マジかよ、いつも通り失敗したら面白かったのになぁ」

「まあまあ妬むな。ユキヤが良いって言う物好きもいるよ」
マナツは笑いながら俺の肩を叩いた。
そしてスマホを一瞬確認したかと思うと、
「うん、よろしくやってると思うよあたしは」と続けた。

「そっかぁ、アサミとデートだったらもっと面白いのにな」

「…それ本気で言ってる?」

「なにが?」


マナツは呆れたようにため息をつき、諭すような口調に変わった。
「気づくかなーと思ってなんとなくはぐらかしてたけどさ、ユキヤとアサミが揃ってドタキャンすると思う?」

「…え!?そういうこと?」

「童貞くさいにも程があるだろ」

「おい!傷つくなぁ!!」

「アサミ、あんなに露骨だったのに気付かなかったわけ?」

「いや全然」

「お前らどうなってんだよ」

「お前『ら』?」

「ユキヤも気づいてないんだよ、あいつのドタキャンは本当。
マジでアプリで出会った女に会いに行ってるよ。
あんたがドタキャンされたって言った時にアサミにそのまま送ったら、『そんな女と会わせない!!』って返ってきて追っかけるってさ」

「うわ、青春かよ」
俺はソファに座ったまま天を仰いだ。

「結局妬んでるし」

「妬むよ、そんな青春聞かされたら」

「まぁ、あんたにもいつか来るんじゃない?青春」

「いつだよ」

「…そのうち?」

「説得力に欠ける」

「………」

「じゃあ、クリスマスは集まれないな。
二人っきりでデートするだろうから、邪魔しちゃ悪い」

「……とりあえず誘うだけ誘って、ダメだったらあたしだけ来るよ」

「なんだそれ。そんなにうちの居心地良いか?」

「まぁね、このソファ気に入ってるんだよね」

「そんなに言うならクリスマスも一緒にいてやらんでもない」

二の腕に重めのパンチが飛んできた。
俺は予備の毛布を何処にしまったか思い出せないでいた。

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