作中作の彼①

これは
物静かな女子高生(静香)と
快活なその友達(陽子)との話

静香は小説を書こうとしていた
別に真剣に書きたいわけではない
ラノベを読んでいたら
「こういう文を私も書けないかしら?」
と思った程度
本を読むのは好きだから
それなりの体裁を整えた文は書けそうな気がしていた

しかし意外と
なかなかアイデアが浮かばない

友達の陽子にそれとなく相談したら
陽子が面白いアイデアを出してくれた
静香がそれを文に書くと
より膨らんだ魅力のある文になった

文章表現は得意だが発想力がない静香
奇抜な発想力はあるが文章力の無い陽子
二人は合作して小説を書くことにした

その小説は趣味で書く他愛のないもの
日常にあった出来事をベースに
「こんな展開になったら面白いよね♪」
みたいに膨らませて書いたもの

登場人物も身近な人ばかり
別にどこに発表するつもりもない
ただの戯れ

徐々に展開とか整合性とかは考えず
結果的にメアリースー的なものになっていった

登場人物が身の回りの人たちなので
当然自分自身たちも出てくる

二人は小説の中でも作品を作り始めた

小説の中で小説を書く二人

やっていることは同じ
日常生活であった出来事をベースに
それをディフォルメした内容

しかし
そもそもディフォルメした世界の中の住人なので
その誇張は更に強くなる
現実性を安易に壊すほどに

作中作なだけに
より過激に
より荒唐無稽に
より無責任になっていく

二人は作中作の中で
自分たちが快く思っていない相手を
度々出演させるようになる
そしてその人たちは決まって
不遇の目に合う

現実ではないから
作中作だから
そんな気軽な気分で
知人たちをドンドン出していく

やってるのは作中作の二人だ
現実の自分たちではない
自分たちには何の責任もない
むしろ自分たちはその行為に否定的だとすら思い
自分らを正当化する

作中作の自分たちと
自分たち自身を切り離したことで
より、作中作は過激さを増していく

やがて作中作の中に
不幸の行使人が出現する

現実的な不幸では
もはや満足できなくなっていたから

不幸の行使人は『ソウ』と名付けられた
「想像」の「ソウ」
安直だが、そこは問題じゃない
ただ、自分ではない誰かがいれば良いだけだったから
 
ソウは次々と嫌な人たちを悲惨な目に合わせていく
より残虐に、より悪辣に。
二人の手からすら離れたソウの行いには歯止めがない
自分たちがやるのではない。
ソウがやるのだ。

それは知人のみならず
有名人であったり
国家であったり
社会悪であったり
ありとあらゆる不満に対して行われてく

それは単なる制裁にとどまらず
より屈辱的に
より背徳的に
より破滅的に
ソウは飛び回る

思いつく限りの者を処刑尽くしたソウは
更に次の獲物を狙う

しかし
もう世界には獲物はいない

ソウは世界を乗り越える

最も邪悪で、最も醜悪で
最も愚かで、最も無責任な獲物を狙うために

その獲物とは・・・もちろん
その世界を作り出した二人

平気で人を貶め、苦しめ、悦に浸る二人
処罰されるに最もふさわしい二人

ソウは二人の世界に顕在し
二人がそれに気づいた瞬間
物語は終わった・・・。

続き

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