決めたことを徹底的にやり抜くこと

大切な友人が本を出したので、そのご紹介です。

もちろん著者を知っているからこそ、それぞれのエピソードから彼らしさを想像できたり、あるいは、そもそも贔屓目に見たりしているところはあると思います。しかし、それを抜きにしてもとても面白く、興味深い内容でした。

まず、彼がCOOを務めている会社「メッセホールディングス」ですが、基幹事業は「遊技事業」、わかりやすく言えば「パチンコを中心とするエンタメ事業」です。時代的には決して追い風というわけではないはずですが、この6年間で売上が2倍になるという驚異的な成長をしています。

その要因となっているのは次の3つのようです(著者がこのように整理しているわけではないのですが)。

(1)既存事業の選択と集中による高収益化(不採算店からの撤退と都市部大型店舗開発)
(2)他社の追随を許さない圧倒的に強いチームづくり
(3)社会への提供価値の再定義による、未来に向けた新規事業開発(サウナやコワーキングスペースなど)

「組織X」というタイトル通り、本書はこの中の(2)について深く掘り下げた内容です。気になった点はたくさんあるのですが、一番印象に残っているのは「徹底的にやり抜く」という著者の姿勢です。

一度決めたことは、中途半端にやるのではなく、何度も繰り返してものにする。言われれば誰もが「そりゃ、そうだよね」と共感する内容でしょうが、これぞまさに「言うは易く行うは難し」の典型のようなもので、最後までやり抜ける人というのは、そういるものではありません。

しかし著者自身、本書の中で『何をやるか以上に「どこまで徹底的に施策をやり抜くか」のほうが、何倍も重要』と書いている通り、それを実践しているのです。

例えば
・著者自身が社員との1on1(個別面談)を年間300回実施し続けている
・社内で共有した1000個のナレッジを随時アップデートし続けている
・会社の理念を実際の行動に落とし込んだストーリーを全従業員がシートに記入して提出し続けている

どれも施策のひとつひとつが目新しいわけではないでしょう。しかし「最初は盛り上がっていたけれど、いつの間にかやらなくなっていた」というのが普通の組織です。決めたことを継続して、定着するまでやり続ける力。これが同社の強みだと感じます。

なぜ、彼そして同社はそこまで組織づくりに力を注ぐのか。そこに至るまでのエピソードもとても興味深いです。

元々同社は著者のご両親が創業したのですが(今も経営に従事)、その原点とは「家族を養い、幸せにするため」でした。しかし、事業が拡大していくにつれ、売上や利益を確保すること自体が目的化していき、会社は空中分解しそうになったそうです。

そんなどん底にある時に見つめ直したのが企業の存在意義であり、再認識したのが創業時の「家族を養い、幸せにする」という願いだったのです。

その後、同社は「事業」と「組織」は言うまでもなくどちらも重要だけれども、究極的にどちらかひとつを選べと言われたら「組織」を優先するということを明確に定め、それを経営理念として打ち出しています。

この点についても、多くの経営者は似たようなことは考えているはずです。「従業員はファミリー」「スタッフを大切にしています」などなど。けれども、事業の継続が困難になったときに、事業よりも従業員を大切にするという経営判断ができますか?それをする覚悟はありますか?と突きつけられた時に、迷いなく「Yes!」と言える経営者はそうはいないでしょう。しかし同社は社員はもちろん、対外的にもそのことを明確にコミットしているのです。

などと書いていたら、僕自身が熱くなってしまったので、詳しくは本書を読んでいただければと思います。ここではもう1点だけ、とても印象的な内容をご紹介します。それは前述の以下の点についてです。

(3)社会への提供価値の再定義による、未来に向けた新規事業開発(サウナやコワーキングスペースなど)

パチンコ業界はシニア層に支えられている側面が強いですし、ソーシャルゲームをはじめ広義の競合環境も厳しさを増していますから、既存事業だけで企業を維持・成長させていくのが難しいというのは、おそらく業界にいる人の共通認識でしょう。

そこで同社は未来に向けて自分たちの存在意義を見つめ直すことにしたのですが、秀逸だと思うのは、「パチンコ屋さん」の価値を因数分解して

「射幸心」✕「非日常」✕「居場所」

と定義したことです。そしてこの中で、彼らは「居場所」という要素を自分たちの最大の価値と捉えました。(私を含めて)パチンコをしない人にとっては、「パチンコ店と居場所」の間には、直接的な関係をイメージしにくいかもしれません。

しかし、パチンコ店を訪れる人にとっては、そのギャンブル性だけが目的なわけではなく、店自体が「馴染みの場所」であり、そこにはいつも見かけて時には会話をかわすスタッフや常連客がいるということに、大きな意味があるケースも多いようです。

実際に、コロナでの休業を経て営業を再開した際には、多くのお客さんから励ましや感謝の言葉が店のスタッフにかけられたという話からも、パチンコ店の「居場所」としての価値がわかります。

そして彼らは、自分たちが「居場所屋」なのだとしたら、、、ということで、新しい層や市場に向けた「居場所づくり」というテーマで新規事業の開発を行っているのです。その第1弾、第2弾として、サウナやコワーキングスペースをすでにリリースしています。今後は都市型だけではなく、郊外型で自然を絡めた居場所づくりなども構想しているようですが、それもとても面白い方向性だと感じます。

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「強いチームを作るために、徹底的にやるべきことをやる」。このシンプルな方法論は、リアルな拠点を構えていて、そこでスタッフが働くようなタイプの事業には特に役立つはずです。飲食店、小売店、その他のサービス業やホスピタリティ産業を携わる皆さんにはヒントがたくさん詰まっていますから、ぜひ読んでみてください。

また、本書は経営コンサルタントとの共著という形で、「理論」と「実践」を交互に説明しています。コンサルタントによる理論部分は教科書的な内容が多いので、そういう基礎を学んだり、再確認したりしたいという方にもオススメです(逆に具体だけを知りたいという場合には、実践のパートだけを読むのもよろしいかと)。

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本書は、学生時代から一緒にお酒を飲んで馬鹿話をしてきた友人に、そんな苦労や葛藤があったのかということを改めて知る貴重な機会になりました。またそんな彼が立派な経営者として大きく成長している様子を知ることができて、個人的にとても嬉しかったです。自分ももっと頑張らねば。

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