間違いなく出来が良いのに名盤とは言いづらい藤本美貴のファーストアルバム「MIKI①」
元々はおばあちゃんの影響で演歌歌手を志していた美貴。
合格者にはあのdreamやキーヤキッスがいるエイベックス主宰のオーディションを受けるも落選し、モーニング娘。4期オーディションを受けるも落選しました。
ただ、そこからソロでのデビューを目指してレッスンを受けてみないかという誘いがあり、レッスン生のようなかたちで上京します。
そしてレッスンを見事に乗り越えて「会えない長い日曜日」でデビュー。
当時のオタクたちの間では「男みたいな歌声」「まんまつんく♂の歌い方」という評判でした。
そして「つんく♂のお気に入り」と言われ、叩かれたりしてるところもありましたね。
たしかに当時のつんく♂が曲に1番力を入れてたのは美貴だったように感じます。
ただ、歌唱力だけに関してだけいえばつんく♂はそこまで美貴のことを評価してなかったと思うんですよね。
オーディションを受けた段階では下手な部類であったと言及していたこともありますし、カウントダウンコンサートに美貴が出演した際にそのパフォーマンスを見たつんく♂が「きちんと歌えてるのを始めてみた」と発言してたり。
「ニャーオ」「音にこだわりなさい」でお馴染みの菅井ちゃんが「歌に説得力がある」「演歌歌手を目指していたことを知って納得した」「言葉に執着がある。ドラマが見える」などと美貴のYouTubeチャンネルに出演した際にその歌について言及していましたが、僕もそこが藤本美貴の良さや魅力だと感じますね。
調子が良いときの爆発力は凄いんですけれど、外すときは盛大に外しちゃう方なんですよ、美貴って。
結構、しっかりとは歌えてないことも多くて。
娘。を脱退して演歌·歌謡曲路線で活動することになった際に再びボイストレーニングを行ったらしく、むしろアイドルとして現役を退いてからの方が上手いんですよ。
この時期にリリースされた現段階では最後のシングル「置き手紙/遠い恋人」は何気に名作なので興味があれば探して聞いてみてください。
僕は予約して購入しました。
さて。
本題です。
ファーストアルバムにしてベストアルバムにしてソロアイドル藤本美貴が唯一リリース出来たアルバム「MIKI ①」
間違いなく出来は良いのですが、名盤とは言いづらいんですよね。
じゃあどこかダメなのかという話になるとちょっと考えちゃうんですけど。
シングル曲が多いとか、カップリング曲も入れちゃったとか(ただこの「Let's Do 大発見!」はつんく♂が美貴に始めて書いた曲で、デビューする前からハロコンに出演して披露していたメモリアルな曲なんで、そういう意味では入れておくべき1曲という感はあります)後藤真希·松浦亜弥とのスペシャルユニットであるごまっとうの「SHALL WE LOVE?」もセルフカヴァーというかたちで入れちゃったとか(ただ3人ともセルフカヴァーしてるけれど、唯一バラードにアレンジした美貴Ver.が歌声にマッチしていて1番良いと思ってはいる)まぁ言えることならあるにはあるんですよ。
ではアルバム用の新曲の出来が悪いかというと既にリリースしているシングル曲やカップリング曲、セルフカヴァー曲とのバランスやこれからのコンサートツアーなどをきちんと考えた曲調で作られているし、曲順も申し分ないと感じます。
なのに、名盤ではないと思ってしまう理由はおそらくはこれなんですよね。
松浦亜弥のファーストアルバム「ファーストKISS」があまりにも素晴らしかったから。
松浦のファーストアルバムは「桃色片想い」リリース前。
本格的なブレイク前夜にリリースされていますが、まずシングル曲の流れが完璧なんですよね。
デビュー曲で恋のドキドキを歌い。
セカンドシングルで両思いではしゃいじゃって。
サードシングルで別れて涙。
ちなみに4枚目の「100回のKISS」はつんく♂が始めて松浦に書いた曲で、松浦亜弥という人物と始めて会ったときに感じたどこか冷めていて心に入ってきてほしくないような空気感・印象を元にして歌詞にしたそうで、デビュー前にハロコンで披露されたりしています。
デビュー曲にするにはちょっとひねくれていて尖った歌詞と曲かなぁとつんく♂は思ったそうで、わかりやすくキャッチーな曲を改めて作ったようですね。
ちなみに松浦は「私はそんなふうには思わない」と「100回のKISS」の歌詞について言及しており、大物は違うなぁと思わされます。
堂々とつんく♂の歌詞に意見したのは松浦と小春くらいではないでしょうか。
(プラチナ期は今でこそ評価されていますが、リアルタイムで追いかけてるとずっと辛気くさい曲ばかりリリースされておりげんなりしているファンが大半だったなか、小春は堂々と「よくわからない」などと発言して一部から称賛を得ました。曲調は好みの問題だとしても10代女子が「なんちゃって恋愛」や「しょうがない夢追い人」のような歌詞を歌いたいか、共感出来るかという点は考えさせられます。アイドルソングだと思って聞いたらアイロンかけながら涙とか歌ってて、これは最早演歌の世界に突入したと当時思いました)
アルバムのラストを飾る曲に「初めて唇を重ねた夜」というタイトルをつけたのも完璧です。
夜までデートをした日の別れを描いた曲ですが、初めて唇を重ねたときに私のなかの何かが壊れてしまった、貴方に出会って初めて寂しさを知った、もうすぐさよならの時間、これほどまでに誰かを愛することが出来るなんて、キスをしてよ……というデビューしてまもない新人にはまだ早いのではないかと感じさせるような歌詞が綴られた曲と流石に盛り上げすぎなのではと思わされる大仰なバックトラックを相手にまだ素朴さ素直さが残っていて癖のないデビュー当時ならではの歌声と、たしかな歌唱力で見事に難曲を自分のものとしてなんなく歌いこなしちゃってます。
松浦の凄さを歌の面でも曲の面でも経験済みだったので、あの藤本美貴にすら物足りなさを感じてしまったというのが正直なところかなぁと。
絶対に松浦亜弥と比較されてしまうからこそ全く違うジャンルの歌手と言ってもいい藤本美貴を第2のソロとしてデビューさせたんだと思うのですが。
そして、なかなか厳しいものがあったとは思うのですが、それでも松浦ありきで考えると2番目にソロデビューさせたのが美貴だったのは正解だと思うんですけれどね。
余談ですが、美貴の曲の世界観みたいなものに関して話をすると駅前や自分の部屋、公園や教室といった00年代のソロアイドルソングとしてはとにかく庶民的であり、等身大な生活が描かれているのが特徴でしょうか。
電車ソング、電車シリーズみたいなものはあるのですが、わざわざ地元の駅とピンポイントなスポットにしてあるフレーズは他のハローのアイドルソングに出てきそうで、絶妙に出てこない。
そして、恋が始まりそうな予感でいつもと同じ景色がいつもと違って見えるっていうのはとてもリアリティーがある上、ホントにロマンティック。
安倍さんは「眩しいね なんか眩しいね この恋はなんか眩しいね」と。
ごっちんは「恋は気まぐれ 抱いて 抱かれてまた抱いて」と。
松浦は「桃色の片想い 恋してる マジマジと見つめてる チラチラって目が合えば胸がキュルルン 桃色のファンタジー」と。
そして藤本美貴は「ロマンティック恋の花咲く地元の駅 いつもと違う景色に変わった」と恋について歌っています。
それぞれ絶妙にマッチしてるなと感じますね。
そして、シチュエーションのリアリティーは美貴が最高だなと。
デビュー曲「会えない長い日曜日」が本当にずっと日曜日に彼氏と会えない女の子の気持ちについて、時間経過とそれに伴う心情変化を延々と歌っただけといえばそれだけの曲という見事さからもそれが伺えます。
「告白の噴水広場」や「君は自転車 私は電車で帰宅」など同系統の曲は他にもあるのですが、ここまでの説得力や表現力、聞き応えを生み出して成立させた藤本美貴は素晴らしいと本当に思ってます。
こういうラインをもっと歌えたら良かった方かもしれませんね。
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