日本人女性の美しさ、勇ましさを伝えていくというコンセプトで結成されたはずだったユニット美勇伝の全シングル・アルバムをハロー!プロジェクト25周年コンサート直前に振り返ってみる
美勇伝とはタイトルにもある通り日本人女性の美しさ勇ましさを伝えていくという触れ込みで結成されたものの、セカンドシングルで「ん?」となり、コンセプト通りのようなそうでもないような曲をリリースしていき、いつのまにやらバニーガールやら網タイツやら椅子を使ったセクシーダンスやら乳寄せ衣装に乳寄せダンスをしていた名曲と迷走の宝庫である、元モーニング娘。の石川梨華さんと新ユニット結成のために開催されたオーディションに合格した三好絵梨香さんとハロプロエッグ(後のハロプロ研修生)出身の岡田唯さんによる3人組です。
今までにもネタにしたことがありますし、今回もこういうふうにネタみたいな紹介をしていますし、ハロオタ内で話題にあがるときには常にネタとして出てくる感じになってしまっている美勇伝なんですが、名曲の宝庫なんで聞かないのは勿体無いグループなんですよね。
太陽とシスコムーンやメロン記念日が居なくなったあとのハローにおいて、この2組が担ってくれたところにいてくれたグループという印象があります。
ファンが多いとはいえないし、売れていたともいえないけれど、ハローにいてくれるのといないのとでは全然違うという、そういうグループ。
みーよ(三好さん)が久々にOGとして25周年コンサートにゲスト出演するとのことで、石川さんと一緒に出演するということはなにかしら美勇伝の曲もやるでしょう。
活動期間も長くなく、振り返りやすい曲数なんで、ちょっと振り返ってみます。
·恋のヌケガラ
ファーストシングルです。
作詞は大御所の湯川れい子先生であり、作曲は身内のはたけであるというこのくらいの時期にはちょくちょくあった力が入っているのか入ってないのかどうも伝わってこないデビュー曲であり、わかりやすく歌いやすいメロディーラインと編曲のせいもあってか、絶妙に安っぽい空気感が漂っています。
この空気感はデビューから活動休止までずっと変わることはなく「なんか安いグループ」であり続けます。
しかし、それが悪いことかというと少なくとも僕にとってはそんなことはなく、そして3人のアイドルグループってやはりどこか特別なものを感じさせてくれるところがあり、3人でスカートをヒラヒラとさせたり、サビの終わりに拳を突き上げる振り付けは3人ならではの良さを感じます。
美勇伝は石川さんがメインのグループなんで、メインヴォーカルを担当しているのですが、その石川さんの歌唱力が活動期間中にどんどん成長していくのも聞き所ですね。
「今までだったらこんなにきちんと歌えなかっただろう」「ここまでは声が出なかっただろう」という歌唱が徐々に聞けるようになるのも美勇伝の面白さです。
モーニング娘。のOGの成長をハロプロに在籍しているグループのメンバーというかたちできちんと追えたのは今となっては貴重かもしれません。
·カッチョイイゼ!JAPAN
日本の人々と世界の人々が手と手を繋ぎ、大好きな人や大好きな町と一緒に居ようと歌い、少しの真心や感謝の大切さを伝えた上で「YO!KOSO JAPAN」と歌うつんく♂作詞作曲だとすぐにわかるつんく♂曲でありイントロ終わりやサビ終わりに連呼される「カッチョイイゼ!カッチョイイゼ!」が世界愛や人間愛、隣人愛を感じさせる歌詞と剥離しており、珍妙感を生んでいるのもまたつんく♂らしいです。
この曲は展開の仕方がなかなかで、異国風のイントロから始まり、突如として「カッチョイイゼ」を連呼し、そしてAメロの「WELCOME WELCOME WELCOME TO MY HOME」からきちんとしたメロディーのある歌に入るものの再び「カッチョイイゼ」の連呼が始まり再びAメロへ。
「愛があるから今がある」とつんく♂を感じさせるフレーズから始まるBメロを踏まえてサビに入ることで生まれる解放感。
そして、サビ終わりから再び「カッチョイイゼ」の連呼です。
歌っているメロディーそのものは可愛らしいのに、編曲や合いの手で勇ましさを取り入れており、癖のある展開が中毒性ありますね。
歌詞も良い感じにつんく♂ちゃんです。
デビューシングル、セカンドシングルと続けてミュージックステーションに出演しましたが、モーニング娘。補正も無くなった美勇伝の出演はこのセカンドシングルが最後でした。
そして、この曲のテイストや構成は音楽ガッタスの「やったろうぜ!」に引き継がれるというか、焼き直されるというか、まぁそういうかたちで繋がっていきます。
·紫陽花アイ愛物語
美勇伝のカップリング曲はどれも素晴らしいのですが、このシングルのカップリング曲である「曖昧ミーMIND」が美勇伝のキラーチューンの1曲だったりするんで、タイトル曲の「紫陽花~」が僕の中ではいささか霞んでいます。
どちらも非つんく曲で「紫陽花~」はメロディーラインに三三七拍子を随所に挿入しながらも、叙情的な世界観で恋の始まりと恋の終わりを感じる女性の思いが綴られています。
「曖昧~」はダブルユーの「Missラブ探偵」と同じ製作陣によるトランシーなサウンドにのせて「なのに好き」「だけど好き」と自分自身の本心が曖昧になってしまい、わかるんだけれどわからない状態にある女性心理を歌っており聞き手やコンサート会場の熱量を高める1曲です。
·ひとりじめ
歌詞は三浦徳子先生、作曲はつんく♂です。
恋人のいる男性を好きになってしまった女性が「1日だけでいいから貴方の視線をひとりじめしたい」と願う光景が描かれる重々しい情念曲です。
好きな男性の彼女と入れ替わりたいとまで思いを募らせており、そんな思いをミディアムテンポなメロディーとアダルトなテイストで雰囲気たっぷりに歌っています。
思いを拗らせすぎていて報われない幸の薄い感じがなんか似合うんですよね。美勇伝のパフォーマンス。
カップリング曲の「終わらない夜と夢」は作詞も作曲もつんく♂。
これまた美勇伝のキラーチューンであり、コンサートのラスト、または〆るべきところ、聞かせるところで歌われていた1曲です。
ずっとこのままあなたと一緒にいたいという愛しい人への思いを「終わらない夜と夢」と表現した素晴らしい曲なのですが、歌詞に出てくる「ウチら」(私たちということですね)が絶妙にダサく、ひっかかります。
そういうところも含めて愛おしいとも言えますが、でも感動的に歌われる曲のサビで唐突に「♪ウチらは~」と歌われたときのこのなんともいえない気持ち。
好きなアイドルや好きな曲のある方は、自分の好きな曲のサビの「俺たち」「私たち」などが「ウチら」だと仮定して妄想してみてください。
ずっこけますから。
·クレナイの季節
美勇伝のシングル曲の中では1番好きです。
「クレナイ(紅)」「くれない」「あげない」と掛けており、Bメロからサビ終わりまでが輪唱になったり、ソロパートを他のふたりが違うメロディーで追いかけたり、凝った構成になっていますが、最終的に力技で綺麗に畳んで終わらせるテイストが個人的には良いです。
このへんの凝った構成で聞かせるタイプの曲はもっとスキルのある℃-uteの「悲しきヘヴン」「i miss you」などに繋がっていったのではと、なんとなくではありますが思っています。
美勇伝は歌えるグループではなかったので。
下手というほど下手ではないけれど、上手いと言うと語弊が生まれてしまうというこの絶妙なのか微妙なのかという塩梅。
ただ、この塩梅が太陽とシスコムーンやメロン記念日と違う魅力というか、女性心理を歌ったときの不安感や切実さ、素朴さや素直さとして、歌に反映されていたと思っているんですよ。
安定感に欠ける方の歌にしかない良さや魅力があることはわかる方にはわかると思います。
·スイートルームナンバー1
ファーストアルバムです。
Berryz工房は朝起きてから夜眠りにつくまでを1枚のアルバムにしていましたが、美勇伝のこのアルバムはホテルにチェックインするところからチェックアウトするところまでが1枚のアルバムになっています。
良作なのですが、わりと問題作でもありますね。
問題はラスト3曲である「唇から愛をちょうだい」「パジャマな時間」「まごころの道」です。
(ラストトラックの「チェックアウト」は実質小芝居で、歌や曲ではないので省きます)
つんく♂ちゃんが得意とするダッシュ滑走 名古屋castleやしょっちゅう脳に舞っちゃう躊躇に代表されるような、異様に聞き心地は良いとんでもない韻の踏み方をしているフレーズが躁状態のメロディーにのせて次から次へと現れ、最早これは歌詞ではない感覚で聞く曲だと思っていたら「いつまでも夢は大きく持ちたい 優しさに包まれて愛されたい」と普通に歌い出してサビが終わる「唇から愛をちょうだい」
可愛らしい曲だと思って聞いていたら突然、延々と裏声で歌い始められ困惑していると「♪パジャマな時間」と可愛らしく歌って終わられてしまう「パジャマな時間」
おふざけや実験的なものは一切廃し、人のあるべき姿や生き方をコテコテ感動バラードとして伝えてくる「まごころの道」
ヤバイです。
本当になかなかのヤバさなので是非聞いてみてください。
予備知識があったとしても後半の展開と出来の良さにびっくりはすると思います。
·一切合切あなたにあ·げ·る♪
衣装が水着になりました。
まぁ「水着風」と表現した方が良いのかもしれませんが。
暗雲が迫ってきます。
曲そのものは電子音が楽しい可愛い系のポップスであり、石川さんの声と特に親和性が高く、とにかく可愛いんですけれど「一切合切あなたにあげるというタイトルの曲を水着風衣装で歌う」というのが色眼鏡抜きで見聞きするにはなかなかハードル高いです。
歌詞の内容も「私の全てを大好きなあなたにあげちゃう」みたいなテイストなのですが、描き方も歌い方も編曲も可愛らしい方向に舵取りしているため可能な限りエロスを感じさせない工夫をしています。
曲のテイストや歌詞で描かれている女性心理としては1期タンポポと2期タンポポの中間くらいの年齢設定でしょうか。
この時期にこういう曲をやれるのはメンバーの年齢的にも美勇伝だけだったので貴重ですね。
·愛すクリ~ムとmyプリン
衣装がバニーガールになり、乳を強調し、尻を振り、歌い踊るというセクシーという言葉で片付けてはいけない事態になりました。
ハロプロといえばどのグループにもアダルト路線、セクシー路線の洗礼を受ける時期があるとオタクのあいだでは知られていますが、大体の場合、良くない結果しか出てないように感じているのですがどうなんでしょうか。
歌詞の内容がセクシーだったり、不評ではありましたがセクシーな表現を身に付けたり他のグループとの差別化の一環として℃-uteのようにポールダンスに挑戦するといったことなら理解出来るのですが、衣装をセクシーにした場合、ほぼほぼ下品になってしまっているんですよね、ハローって。
ハロプロ内のグループごとの平均年齢だったり、セールスだったりを考えたときの差別化要素としてこのセクシー路線は使われることが最も多いと思いますが、さじ加減が下手なんだから止めといた方が良いのになーっていうのが本音です。
本人たちは網タイツやボディラインが強調される格好が嫌だったと言っていましたが、Berryz工房の「WANT!」の衣装がセクシー系としては可愛いとカッコいいとセクシーのバランスが一番良かったかなぁと思うものの、あれはBerryz工房だからピタッとハマったやつだとも思いますし。
話を「愛すクリ~ムとMyプリン」に戻すと、決して悪い曲ではないんですよね。
イントロの高揚感であるとか、3人でソロパートを繋いでいくBメロや、サビ終わりの「♪すってっきぃ~」はなかなか良いです。
「アイツと熱く舞うプラン 涙が出るほどcrazy night 素敵」などというフレーズも、これが歌詞だけアダルトなセクシーソングだったならば「そういうことを歌っているのだな」と理解し、ちゃんと聞けたでしょうけれど、なまじバニーガールと化したので、きちんとした受け入れ方はどうしてもしづらいですね。
ただ、つんく♂ちゃんの作ったハロプロのセクシー関係の曲(我ながら変なカテゴライズ)の中では決して悪くはないと思ってます。
良いかと問われたら良いとは言いづらいですがキャッチーさはありますし、曲そのものだけで考えるならセクシーになりすぎないように加減はしてると感じます。
·恋するエンジェルハート
やたらと胸を強調する天使をモチーフにしたフリフリ衣装をどう捉えるかっていうのが問題点としてあるのですが、曲は良いです。
ホントに良いですし、石川さんの歌唱力アップを感じられる点でも素晴らしいですね。
サビの「♪たった今~」のところは娘。時代の石川さんならそもそも任されることはなかったでしょうし、歌えなかっただろうなと感じます。
美勇伝の曲で活動休止後、現役に1番歌われているのはこの「恋するエンジェルハート」でしょうね。
「日本人女性の美しさ勇ましさを伝える」というコンセプトはどこに行ってしまったのかもうわかりませんが、爽やかな空気感や疾走感のあるメロディーと共に「公認の夏にしたい」というフレーズから感じられるように、可愛らしさの中にもちょっと大人な女性、美勇伝メンバーの年齢からすると年相応な女性像がきちんと描かれている部分も良いと思います。
·じゃじゃ馬パラダイス
ウィスパーボイスで男性を誘うようなテイストのフレーズを歌ったり「もっと仲良くしてほしいの」と意味深に歌うメロから「踊れ 恋するロデオ男子 はしゃげ じゃじゃ馬娘」というサビに突入し、メロでは出来る限り抑えてたのはいったいなんだったのかというくらい開き直ります。
ただ、聞き応えが凄くある秀逸曲なんですよね。
サビまでの盛り上げ方も、サビで更に盛り上がる熱唱も、サビの熱を冷ますように「アダムとイブ子」というアダムとイブに「子」をつけて無理矢理語呂合わせし、語感を良くしたフレーズをぶっこんできて聞き手に違和感と衝撃を与えたり。
そして、その「アダムとイブ子」を聞かせるためなのか、曲そのもののテンションを一度クールダウンさせるためなのか、このフレーズのところで編曲やメロディーが落ち着いていくんですよね。
ホントにここで良い塩梅で熱が冷めるんですよ。
秀逸なんですよねぇ。
現役がカヴァーしづらい曲ですけれど、掘り起こす価値はあると思います。
こういう躁とカオスと楽曲構成の融合で面白くて聞き応えのある曲は掘り起こしてほしい。
·美勇伝 シングルベスト9 Vol.1 おまけつき
1曲目に「FANTASY」という新曲が収録されており、2曲目からは当時の最新シングルである「じゃじゃ馬パラダイス」から順にデビュー曲である「恋のヌケガラ」まで遡っていくという形式のベストアルバムです。
美勇伝はカップリング曲がオリジナルアルバムにもベストアルバムに収録されておらず、どのカップリング曲も良作なので出来れば全シングルを揃えて頂きたいのですが、このベストアルバム唯一のオリジナル曲「FANTASY」も美勇伝には珍しいクールなテイストの曲であり、当然良作なので、聞いて頂きたいですねぇ。
「じゃじゃ馬パラダイス」の躁状態をクールダウンさせつつも、ビート感やノリはそのまま聞き手をハイにしてくるといった曲でしょうか。
あえて振り切ったことをせず、じらすような聞かせ方をしてるといった感があります。
·なんにも言わずにI LOVE YOU
ラストシングルです。
そして、モーニング娘。の4枚目のアルバムに収録されている曲のカヴァーになります。
石川さんにとってはセルフカヴァーになりますね。
美勇伝がその活動を終えると決定した時期から、つんく♂ちゃんの中でずっとこの曲を歌う美勇伝のイメージが浮かんでいて、ラストシングルがカヴァー曲ってどうなんだろうという思いを抱きながらも、自らのイメージを信じて、美勇伝のためにオケを作り直して、ラストシングルにしたという経緯があります。
そして、カップリングにはメンバーひとりひとりのソロ曲が収録されており、つんく♂ちゃんの愛を感じますね。
カップリングにひとりひとりのソロ曲を収録するっていうのは3人っていう人数だから出来たっていうのがあるんですよね。
美勇伝が活動していた時期はDVD付きの初回限定盤と通常盤の2種類しかなく、形態によって収録されているカップリング曲が違うということもなかったので、どちらを購入していてもメンバー全員のソロ曲をきちんと聞くことが出来ました。
石川さんの「思い出は彼方」
みーよの「あの夏の夜」
岡やんの「最後の夏休み」
そして、そもそも名曲である「なんにも言わずにI LOVE YOU」
たしかに美勇伝のラストに似合っている優しく美しい曲だったと思います。
シングル10曲、オリジナルアルバム1枚、ベストアルバム1枚。
活動期間としては約3年半。
長いととるか短いととるか。
派生ユニットっぽかったり、企画ものっぽかったり。
結成の経緯や突然の際どいセクシー路線でどうしてもそんなイメージがつきまとうんですが、とにかく良い曲揃いの良いグループでした。
歌える子を揃えたわけでも、踊れる子を揃えたわけでもないけれど、ちゃんとひとりひとりの良さは活かせてましたし、グループとしての良さや魅力もありましたし。
少なくとも曲に関してはなんだかんだできちんとメンバーへの愛も音楽への愛もあったと思うんですよね。
そして、それらが総合的に美勇伝をハローで唯一無二のグループにして「いてほしいグループ」にしたんじゃないかなと。
太陽とシスコムーンやメロン記念日みたいなラインに収まっちゃうようなグループを結成するから売れないんだという意見は見聞きしましたし、僕もそう思いはします。
ただ、ハローのことをひとつの組織、ひとつの集団として捉えるなら、こういうグループも必要だろうとも思ってはいます。
それ相応に落ち着いた曲も弾けた曲も激しい曲もセクシーな曲も可愛い曲も出来る年齢の女性たちのグループ。
やっぱり現役グループの中に1組はそういうグループは存在した方が良い。
そう結論づけて今回は終わりにしたいと思います。
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