【231205日記】『The Unanswered Question : Six Talk at Harverd』Disc 5 他

・『The Unanswered Question : Six Talk at Harverd』Disc 5
20世紀の危機というチャプターです。

音楽史で語られる内容とあえて対応させるなら調性の崩壊と呼ばれるところをとりあげるような形ですが、あまり意味はなさそうです。

ついに講義のタイトルでもあるアイヴズ作曲『答えのない質問』を聴きます。
この曲はある特異な性質から有名な楽曲です。
弦楽セクションは調性音楽なのに対して管楽器のパートは非調性なのです。
前時代にもセクションやパート毎に異なる調性や旋法を用いるような技法は見られますが、どれも調性の引力を前提とした扱い方です。

このような、調性の機能を前提とした、しかし調性音楽から離れる技巧としての手法を「無調性」。
一方で調性という前提があたかもなかったかのようにそれ自身がシステムとして存在している手法を「非調性」とバーンスタインは区別しています。
これはややこしいのですが同じ意味で全く逆の語彙(非調性⇆無調性)で説明されることがあります。時代や書物によって異なるようですが、今回はDVDの翻訳準拠でいきます。

無調性の代表格としてストラヴィンスキー、非調性の代表格としてシェーンベルクを挙げます。
区別した上でストラヴィンスキーを調性の脱却から失敗した作家のような扱いをする一部の評論について異議を唱えます。
単なるスタイルの違いだと。
これは以前の講義でショパンとモーツァルトを比べてより半音階的だからショパンの方が偉大な作曲家か?と比べることがナンセンスだとした主張と同じものでしょう。

シェーンベルクはどうでしょうか。
シェーンベルクはいわゆる「12音技法」の開発者です。
簡単に言えば、1オクターブに存在する12の音を均等に扱うことで中心音を感じさせない。そのために楽曲が開始したら開始した音は他の11音が鳴らされるまでなってはいけない。
が基本ルールの音楽書法です。
バーンスタインは詳しく説明すると一週間はかかりますから説明はこの程度でいいでしょうと言っていました。流石すぎます。私なら1ヶ月はかかります。

シェーンベルクの音楽をマーラーと同じように聴きますか?
バーンスタインは問います。シェーンベルクは不遇の作家であったと。
のちの偉大な作曲家に多大な影響を与えました。
バーンスタイン自身ももちろん影響を受けていると語ります。
シェーンベルクの発明は曖昧がすぎ、通常の人の耳は知覚することを拒むのです。
また人工的すぎるルールがその構造を際立たせてしまいます。

本当にただ構造的なだけでそこに美しさはないのでしょうか?
バッハのヘ短調のフーガを引用してシェーンベルクとの類似性を指摘します。
主唱の提示だけで12音のうち9音を使用しています。応答で残りの3音も使われます。
モーツァルトのドン・ジョバンニのアリアでもわずか4小節で12音全てが揃い、ベートーヴェンの第9番交響曲も同様です。
調性音楽ではありますが音列としては類似性があります。

話はシェーンベルクの弟子アルバン・ベルクへと移ります。
シェーンベルクの音楽と同じ書法だが受け入れられやすかったと言います。
事実そうでしょう。ベルクのヴァイオリン協奏曲は傑作です。
講義もヴァイオリン協奏曲を取り上げつつ進みます。
端的にいえば音列から与えられる響きの美しさ、調性ではないけれど調性を暗示する、調性的な安心感の得られる響き、シェーンベルクは意図的に避けてきたことがベルクの音楽にはあり受け入れられました。
これは調性への回帰を意味するのでしょうか?

最後に聞くのはマーラーの『交響曲第9番 第四楽章』です。
なぜ時代を遡るのか。20世紀の危機を論じておきながらマーラーなのか。
それはこの曲がこの後に起こる危機を予知し、問いかけ、解答まで見出したからだとバーンスタインは言います。

『答えのない質問』の答えは見つかるのでしょうか。
私はまだまだかかりそうですが、この映像を見て瞬時に分かる才能のある方もいるでしょう。
ぜひそういう方に見ていただきたいと切に思います。

マーラーの9番の演奏が4楽章だけだったのが残念だったので今この日記は全編を聴きながら書いています。もちろんバーンスタイン式の演奏で。トータル80分を超える曲ですが文章を書くのが苦手で演奏が終わりそうです。
このシリーズは次回のDisc 6で最後です。

・私自身も
新曲に着手をしましたよ。という日。メモ。

・非(無)調性音楽を聴くコツ
聴きたくても聴き方がわかんねーんだよな。
わかるよ。
これが本当かはわからないけど私も訓練して楽しめるようになった人だから共有しておく。
たった一つ。「短い同じ曲を複数回聴く」
これだけ。
バーンスタインがしてるのは本質の話。
私が今からするのはインスタントな話。なので非調性音楽を楽しめるようになったら忘れて欲しいんだけど。
それだけ調性っていうのは強烈なんですよ。
本当にドミナントっていうのは悪いやつ。因果を発生させ勝手に収束に向かいやがる。
パッと聴いていい曲だなって思えてしまう。倍音列から生じる機能性による収束によって行く先が予想できてしまう、というか勝手に脳が予測してしまう。それがその通りになって嬉しいとか裏切られてかっこいいとかは作家の表現次第だけど、作家がその脳の仕組みに頼って曲作りをしている面が大きいから聴く側からすると一次的なシステムのインプットが必要ない。

その脳の仕組みを一回ないことにしたのがシェーンベルク。一回聞いて行く先を覚えればあとは純粋に響きに集中して聴くことができる。行き先さえわかればそこに美しさを感じることは大して難しくないはず。
ただこの類の音楽の作り方の特性上、仕組みが曲ごとに異なる。共通のルールはあるけど仕組みは調性と違って曲によるっていう暗号化通信みたいなシステムが使われている。
ので聴きたいけど聴き方がわからないという方には「短い同じ曲を複数回聴く」をオススメします。がこれは多分本質ではありません。

以上です。

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