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熱闘世界観5回裏

ぎゅーっと、ふわっと、さらさらと、ある時にはざらっと重なっていく歌声とエレキギターとベースとドラムとキーボードの音とリズム。
クリープハイプのライブ。いくつもの体験が新鮮で深い経験になっていく。

体の反応は気持ちの反応に繋がって、ライブでしか感じることができないところへクリープハイプに連れていってもらう感覚になる。いや違う。自分からどこかに連れて行ってもらおうと、ライブに向かっているのかも。

クリープハイプのライブは、曲と演奏とMCの全てでわたしを覆ってくれる。辛いこと悩むことが大きくなりすぎて嫌になっていても、クリープハイプのライブが覆ってくれると、その感情は会場を出る時には浄化されている。全部が浄化される時も、少ししか浄化されない時もあってそれはクリープハイプのステージと私自身の気持ちや体が作用して起こる。まるで化学反応みたいに。確かに思うことは、ここまで奥深くに入ってきて、感情を撫でるライブは、クリープハイプしかいない。

初めて行ったTHE BACK HORNの共鳴での対バン。荒削りで艶っぽくて気持ちをえぐってくる歌と尾崎さんの視線に絡めとられ、音楽に体が全部反応していた。尾崎さんが自分の中にある感情をザクっと引っ掻いて、わたしの弱い部分に寄り添ってくれるような気持ちになった。
日比谷野音の夜風に吹かれて、あまりのかっこよさに惹きつけられて、それでいて応援したくなる感覚。
RADWINPS胎盤は、RADのファンをクリープハイプに引き込もうというような切り込んでくるようなステージだった。どこかで踏み外したら怪我をするような恐怖と、これだけいけるんだぞという覚悟。

いくつもいくつもクリープハイプのライブに行った。その中で一番と言ったら、それは2016年10月2日の窓枠での熱闘世界観5回裏だ。

熱闘世界観が発表された時に、このツアーに行けるだけ行きたいと思った。2016年は「祐介」が出版されてアルバム「世界観」が発売された。ラジオや雑誌のインタビューを読むうち、クリープハイプがいなくなっちゃうんじゃないかと思い始めていた。「世界観」のDVDでの尾崎さんの言葉は本心なんだ、きっと、と。

そう思った理由はいくつかあった。2015年にスカパラダイスオーケストラとの『めくったオレンジ』を夏フェスで演奏した時のスカパラファンの言葉。谷本さんがつくるスカパラののりに尾崎さんが書いた歌詞。尾崎さんがスカパラのステージの楽屋に行って谷本さんと相談を重ねた。この楽曲にかけていたと思った。オレンジ色の切なさだなぁって聞いていた曲。尾崎さんの歌声とスカパラダイスオーケストラの関係は、スカパラダイスオーケストラが一気に陽気引き込んでくれるスカと尾崎世界観のブルースみたいな歌声。一見相容れないような存在が夕陽と朝焼けの間みたいな色で染め合っていた。尾崎さんの声が泣くように響いていて、朝の通勤電車で、この曲を聞いて涙が流れてきた。朝日が夕陽のように思えて。いい曲なのに。

「自分の声が出なくて思うようにならないステージなのに、そこに来たお客さんは最高だったと言ってくれる。申し訳ない」ラジオで尾崎さんが言っていた。これを書いている今もあの時を思い出して、私は泣きそうだ。申し訳ないと思ってくれる、ファンに対して誠実であり続けてくれている尾崎さん。
苦しい思いの中必死で絞り出される尾崎さんの歌は、クリープハイプを求めているわたしには、尾崎さん自身が歌に入り込んでいているようで、歌に嘘がなくてまっすぐに、音も言葉もこちらに届いていて、気持ちが大きく揺さぶられるのに。

そんな世間の言葉たちが、クリープハイプを苦しめて、尾崎さんの思うようにならない気持ちが文章への道や楽曲提供への道を微かに描いている気がした。バンドは最後の勝負をしているような気がした。終わるための最後の勝負。

できるだけ行きたかった。申し込んで当選したライブでは足りずに、Twitterで見つけたチケット譲りますにもいくつか手を出した。

岡山で始まった1回表。熱かった。この熱はクリープハイプが続けるための勝負をしてるんだと感じた。これは終わるためじゃなくて、クリープハイプとして続けるためのぐちゃぐちゃした道をなんとか切り開こうという勝負なのかなと思った。そして、強く強くまだまだこれからもずっとクリープハイプを尾崎さんの歌を生で聞き続けたいと思った。

熱闘世界観5回裏。一番心に残っているクリープハイプのライブ。

初めて行く窓枠。有名なライブハウスだろうことは、なんとなく感じていた。いろいろなアーティストがここでやっている。あの窓枠なんだ。ここでやれるなんてすごい。昂る気持ちを感じながら、クリープハイプを迎えてくれたライブハウスへの感謝の気持ちまで湧いてきた。

この日は、良い整理番号で前から3列目くらいに立てた。ドキドキドキドキ。近くでクリープハイプが見える喜びに、はたと思った。クリープハイプを尾崎さんを近くで見たいけれど、こんなに近すぎて、もし、曲にのってほっぺたがぷるぷる動いているところを尾崎さんに見られたら恥ずかしいと、全くもって変なことを思ってしまい尾崎さんの正面には立てず、メンバーの正面ではなく端っこの3列目くらいに。
ところが、後ろから押され続けて、遂に前列に押し出された。近い。メンバーの表情までよく見える!!さっきはみんなの頭を横顔をくぐって届く姿しか見えていなかったのに、急に何もかもが、歌う尾崎さんの首も表情も全部が目の前にぱーーっと広がった。カオナシさんもユキチカさんも拓さんも、真剣な表情や笑顔が全て目に入ってきた。そうなると、もう、ほおのぷるぷるはすっかり忘れて、クリープハイプの曲に尾崎さんのMCとライブハウスの熱気に全身が入り込んでいった。

ライブ終盤、それまでクリープハイプの歌と演奏と尾崎さんのMCどんどん溜まっていた感情に、尾崎さんの歌う『明日はどっちだ』で涙が止まらなくなった。どんどん膨らむ感情に『僕は君の答えになりたいな』から『バンド』。その時には、なんだか大きな大きな幸せな感情が身体中に充満したようになって、自然に気持ちいっぱいの笑顔になって涙がつぎからつぎへ溢れていた。
そして、前日の岐阜でアンコールで聞けなかった、聞きたくて聞きたくてたまらなかった『さっきの話』。

尾崎さんの歌は、ひとつひとつの言葉がちゃんと生きて届いてくる。言葉が連なって一曲ごとに物語の映像が届くみたいに。そこにその時の自分を取り巻くものやことや人が重なって、クリープハイプの歌は自分の物語にそっと優しく寄り添ってくれる。大丈夫だよ、君は君で良いから、そう言って包んでくれる。
だからわたしもライブに行って、クリープハイプに、大丈夫だよ、君は君が良いからと伝え続けていきたい。

🧚その日のInstagram




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