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1人目の客になれた話 後院通り編

 涌井慎です。趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。四条大宮あたりにお住まいの先輩から後院通り沿いにラーメン屋がオープンするという情報を仕入れました。後院通りというのは、四条大宮から千本三条へと続く斜めの通りで、京都の通りは碁盤目状になっていると信じている人にとっては、その前提を覆す非常に根性の悪い通りです。餃子の王将1号店や、先日火災のあった京一ほか、深夜まで開いてる焼き肉のお店、あんまり開いてない餃子のお店、こないだ外でスタッフに偉い人が罵声を浴びせているのをみたラーメン屋さんなどがあります。私が大好きだった「ラーメン天国」っていうラーメン屋さんがあったのもこの通り沿いです。

 そんな京都グルメを大集合させたようなグルメストリートでもある後院通りに新たにラーメン屋ができる!この店の1人目の客になれば歴史の証人として私の名前も後世に残っていくかもしれません。ちょうど昨夜は痛飲したところ。塩気が欲しかったところなのです。

 烏丸から大宮までは阪急で一駅です。歩いて行こうとも考えましたが、ひまわりさえへたりそうな炎天、片道160円で楽ができるなら楽をしようよ、私は迷わず阪急に乗ることにしました。

 揺れて揺れて今心が何も信じられないまま辿り着いたのは大宮〜🎵改札が近いほうの車両に乗ったつもりでいたら逆でした。なんたる初歩的ミス!いちばんホームから遠い車両を降りた私は猛ダッシュで自身の不手際を埋めました。息を荒らげて走り去る私をすれ違ったあのご婦人はどう思っていたでしょう。ぜえぜえ言いながら地上へ出る。階段の1段が厳しい。ここにあったブックファーストはもう無い。掛布なら「ブックフォアスト」と言っていたかもしれない本屋さん。けっこう好きだったんですが。

 1人目の客になることを趣味にしている私にとって炎天は強敵です。オープンまでの間、照りつける太陽の下で待機しないといけないからです。汗が滴り落ちます。この滴る汗に含有される塩の分まで、私はこのあと摂取するつもりです。近頃はラーメンが高くなりましたから、新店オープンのとき以外には、なかなかラーメンなんて食べられません。笑う太陽を憎む私。しかし、ここでゆっくり歩いているうち、他の誰かに先を越されては、先ほどの猛ダッシュの意味が宙に浮いてしまいます。

 走り切った私は無事、誰よりも先に到着しました。こんなことなら、あんなに息を切らして走らなくてもよかったのに。結局、あの猛ダッシュは宙に浮いたままになったのです。しかし、合理的であることばかり求めていたら、余裕のある暮らしなどできません。これでいいのだ。見上げてみれば、これまで無駄にしてきたあらゆるものが宙に浮かんでおり、それはそれでなかなかカラフルです。あそこに何も浮いていない人生はつまらないだろう。

 大将とみられる黒Tシャツの男性が中から出てきて「11時半オープンです」と私に告げました。「待たせてもらってもいいですか」と返すと意表をつかれたような表情になりました。
「もちろんです。人が通りますから気をつけてくださいね」と優しい声をかけていただきました。

 入口の扉にはメニューが貼り出されています。スープには、化学調味料、保存料添加物は一切使用していない旨、書かれてあります。鶏出汁しょうゆがいいな、しかし、鶏白湯しょうゆも鶏白湯しおも美味しそうやなー。ごはんは食べないでおこう。お、替え玉があるじゃないですか。テンションが上がっていった頃、別のお兄さんが出てきて暖簾をかけました。11時26分。「どうぞ」

 ああ、1人目に暖簾をくぐるのは心地いい。鶏出汁しょうゆラーメンを注文。冷たいおしぼりをいただく。気持ちがいい。私のあとに入った2人も鶏出汁しょうゆラーメンを注文しました。カウンターの向こうのテーブルに3つのラーメン鉢が並べられます。あまりじろじろ見るものではなかろうと、水を飲んだりメニューを改めて見返してみたりし、ふと、もう一度、カウンターの中を覗いてみたら、ラーメン鉢がラーメンになっており、スライスされた鶏肉やネギがそこへ投入され、仕上がったものが出てきました。スープは飲みすぎると替え玉したときに困ってしまうので慎重に少しずつ口に入れる。上品な味がする。鉢が深いため、麺はズルズルズルズルと啜っても、なかなか終わりが見えない。これは替え玉は要らないのではないかと思いましたが、初心貫徹。いや、むしろ、食べ尽くした頃には替え玉が欲しくなっておりました。替え玉は中太麺と細麺が選べるらしい。中太麺を選びました。替え玉なんて久しぶりです。ごはんより、体に優しい気がしたのは錯覚かもしれません。宙を見上げれば、いま食べたばかりの鶏出汁しょうゆラーメンも浮かんでいました。これからも、たくさん浮かべていきたいです。

 8月8日・月曜日、午前11時26分にオープンした「らぁ麺 櫻井」の1人目の客は私です。1人目の客Tシャツについては、なんら触れられることなく終わりました。

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#ジャミロワクイ #ジャミロ涌井
#涌井慎

ごちそうさまでした。

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