体重が増える

人間は死ぬと僅かながら体重が減るのだという。
これは昔から色々と実験されている現象らしいのだが実際のところ、それは魂が身体から抜け出た事で軽くなってのだという説と別に科学的な説もあると聞くが誰もが納得する結論というのは出ていないのではないだろうか。
俺としてはその現象は魂が出てしまったから、という理由に賛成したい。
実際のところ、魂という物自体に重量があるのかも分からないがその方が何となく自然の摂理に沿っている様に感じるからだ。
それではこういう事例はどうだろうか?
ある日、俺の親戚からこんな相談があった。
どうやら奥さんの母親が亡くなったそうなのだが亡くなってから少しずつ体重が増えているんだがそれって普通の事なのか?
そんな相談だった。
しかし亡くなられてから遺体が少しずつ体重を減らす、という話は聞いた事はあるがその逆は記憶になかった。
物理的に考えれば人間は死んでしまえばそれ以上は何も食べない。
確かに気圧などで微増する事はあったとしてもそれは誤差の範囲内だろう・・・。
だとすれば遺体の体重が増えるというのは常識的にはあり得ない事だった。
だから俺は
なんかの気のせいじゃないの?
だいたいさ・・・ご遺体の体重を毎日計ってるわけでもないんだろうから単なる気のせいなんじゃないの?
そう進言した。
しかしどうやらそういう事ではないらしい。
亡くなられた方というのは地方に子供や孫が散らばっているらしくその人達が全て揃ってから葬式を上げてあげたいという事だった。
季節は冬という事もありそれなりにエアコンや氷で遺体の温度管理をしてやれば遺体の腐食も遅らせられる。
しかし最初の日に遺体を移動する際に持ち上げた感覚と2日目以降の間隔が明らかにズレていた。
まるで体の中に鉛でも埋め込んだかのように・・・。
それで彼らはご遺体の体重を計る事にした。
不謹慎とは思ったらしいが、もしかしたらご遺体が生き返るのではないか?
そして、もしかしたらご遺体に変なモノが入り込んだのではないか?という疑念を払しょくする為に・・・。
しかし、ご遺体の体重は半日で500グラム以上のペースで増え続けた。
身体は既に死後硬直で固まり身長もどんどん縮んでいるというのに・・・。
親戚から泣きつかれた俺は仕方なくAさんに助けを求めた。
そして驚くべき事にAさんにはその現象に思い当たる節がある、と言った。
しかし、どれだけ聞いてもそれがどうして起きているのか?を教えてくれない。
それどころか自らファミレスやスイーツの条件を提示してきて現場にも行ってくれるという。
まあ俺としても願っても無いAさんの参戦だったので少しホッとしたのを覚えている。
それから親戚の家に行き一緒にご遺体が安置されている公民館の様な場所へと向かった。
田舎ではこういった公共施設で通夜や葬儀まで行われる事もあると聞いて納得した。
そしてAさんは親戚の方にこう尋ねていた。
このご遺体は亡くなられてから何日目、いや何回目の夜を迎える事になりますか?と。
すると親戚の者は
今夜で3回目の夜になります。明日には親戚が勢揃いできますからすぐに通夜と葬儀を行います・・・。
そう返事をしていた。
するとAさんは
そうですか。わかりました。3回目の夜なら、出てくるとしたら今夜になりますね。それなら明日の朝には全て片付いてます。明日はちゃんとお通夜を迎えられると思いますが万が一のことを考えてこれから朝までは誰もこの部屋には近づかないでください。それから根気比べになりますから食べ物とかお菓子類は出来るだけ沢山此処に持ってきておいてくださいね!
と答えていた。
あのさ、なんでこの部屋で朝を迎えなくちゃいけないんだよ?それに出てくるって何が?だいたい食べ物とかお菓子をいっぱい持って来いって完全にAさんの食べる前提だよね?
それなら俺がこの部屋にいる意味もないから明日の朝になったら迎えに来ればいいよね?
と俺が聞くとAさんは冷たい視線で
依頼人のKさんがいなくなったら誰が今夜起きる事を見届けて証言してくれるんですか?
そもそも私一人だけでこの部屋で過ごさせられるなんて恐ろしくて想像もできないんですけど・・・。
と訳の分からない事を言ってくる。
怖がってるやつが完全に横になってのんびり寛いでるなんて有りえないだろうが!
とも思ったが怖いので口にするのは止めた。
しかし、それから夜になり午前0時に近づくにつれてご遺体の様子が明らかに変わってきた。
・身長が伸びている様に感じた。
・ご遺体から呻き声や得体の知れない低い声が聞こえてきた。
・部屋の中が嗅いだことのない香りで満たされていった。
それらはとても死後硬直という言葉で説明がつくものではなかった。
一体何が起きているんだ・・・?
そう思い俺は次第に恐怖に支配されていったがAさんはといえば相変わらずののんびりモード。
それ以降もご遺体は苦悶の表情を浮かべたり唇を動かしたりビクッと体が動いたりとどう考えても死後硬直のレベルを超えていた。
あのさ・・・これって死後硬直なの?
そう俺が尋ねるとAさんはお菓子を頬張りながら
こんなの死後硬直なわけないでしょうが?こういう感じなんですよ?憑依された遺体って・・・。
そう返してきた。
そして午前2時を回った瞬間、ご遺体の顔が此方を向き眼が開いた。
明らかに俺達を睨みつけている顔を見て俺は思わず座ったままのけ反ってしまう。
するとそれを待っていたかのようにAさんが語りかけた。
勿論、ご遺体に向かって・・・。
あのさ、もうわかってるから・・・だから面倒くさい事はやめてくれるかな?
で、どうするの?
このまま出てくるのか?
それともこのまま戻るのか?
私はどっちでもいいよ・・・。
苦しんで後悔するのはアンタなんだからさ。
だいたい遺体に憑依するなんてやり方がせこいんだけどさ?
だから今すぐ選んで!
私は食べるのと寝るので忙しいんだからさ・・・・と。
しばらくご遺体はAさんの方を睨んでいたがしばらくすると静かに眼を閉じた。
どうやら戻ってくれたという事なのだろう。
しかし何故ご遺体にまで憑依しようとするのか?
それには確かな理由があるらしいが、また別の機会に・・・。

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